表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/28

第13話

 先に駆けていく佐奈の後ろ姿を見つめながら、俊哉は小さくため息を吐いた。


「……悪いな」


「え?」


 小町が隣を見る。


 俊哉は少し困ったように笑っていた。


「佐奈、昔からああなんだ。思ったこと、すぐ口にするし」


「ふふっ」


 小町は思わず笑ってしまう。


「でも、可愛い妹じゃない」


「まぁな」


 俊哉は照れくさそうに視線を逸らした。


 その横顔を見ているだけで、胸が少し苦しくなる。


 どうしてだろう。


 最近、俊哉のことを考える時間が増えていた。


 学校でも。


 家でも。


 スマホを見ていても。


 気づけば、俊哉の顔が浮かぶ。


「本当にいいのか?」


「え?」


「日曜日。佐奈に付き合わされて」


「ううん」


 小町は首を横に振った。


「別に嫌じゃないし。……私、週末はいつも暇だから」


 そう言った瞬間。


 ほんの少しだけ、胸が痛んだ。


 友達はいる。


 でも、本当に誰かに必要とされている気はしなかった。


 だからかもしれない。


 佐奈の「好き」が、こんなにも嬉しかったのは。


 俊哉はそんな小町を見つめ、何か言いかける。


 けれど結局、何も言わなかった。


 ただ静かに、


「そっか」


 とだけ呟いた。


     ◇


 金曜日。


 授業が終わり、教室は一気に騒がしくなる。


 スマホを見ながら帰る準備をする生徒たち。


 笑い声。


 机を引く音。


 そんな中、小町はぼんやり窓の外を見つめていた。


(日曜日、どこ行くんだろ……)


 水族館。


 映画。


 ショッピング。


 考えるだけで少し楽しくなる。


 そんな自分に気づいて、小町は小さく笑った。


 その時だった。


 帰り支度をしている俊哉の姿が目に入る。


 小町は少しだけ勇気を出した。


「あの……」


 俊哉が振り向く。


「日曜日、どこで待ってればいい?」


 一瞬だった。


 本当に、一瞬だけ。


 俊哉の表情が曇った。


「……あ」


 手が止まる。


 視線が揺れる。


 何かを迷うような沈黙。


 小町の胸に、小さな不安が落ちた。


「俊哉くん……?」


 すると俊哉は、小町から目を逸らしたまま、小さく言った。


「ごめん」


「え?」


「……用事、できた」


 その声はどこか硬かった。


 教室のざわめきが遠くなる。


「え、でも……」


 小町は戸惑う。


 昨日まで普通だったのに。


 どうして急に――。


「日曜日、大丈夫なんだよね?」


 不安を押し隠しながら問いかける。


 けれど俊哉は、小町を見ようとしなかった。


「……ごめん」


 たったそれだけ残して、俊哉は教室を出ていく。


 逃げるみたいに。


「ちょっと……!」


 小町は思わず立ち上がる。


 でも、追いかけられなかった。


 教室のドアが閉まる音だけが、妙に冷たく響く。


「なによ、それ……」


 胸の奥がざわつく。


 怒っているはずなのに。


 本当は怒りなんかじゃない。


 怖かった。


 急に距離を置かれた気がして。


 嫌われたのかもしれないと思って。


 小町は重たい気持ちのまま昇降口へ向かった。


 靴箱を開け、自分のローファーを取ろうとした時だった。


 ――ひらり。


 靴の下から、小さな紙切れが落ちる。


「……なにこれ?」


 二つ折りになった紙。


 小町は周囲を見回しながら、そっと開いた。


 そこには短く、


『本当にごめん』


 と書かれていた。


 その下に添えられていたのは、電話番号。


 そして最後に、小さく――


『俊哉』


 小町の心臓が大きく鳴る。


 怒っていたはずなのに。


 その文字を見ただけで、胸が苦しくなるほど嬉しかった。


 どうして。


 どうして私は、こんなにもこの人に振り回されているんだろう。


 小町は紙をぎゅっと握りしめる。


 その時。


 スマホが小さく震えた。


 画面には、知らない番号からのメッセージ通知。


 ――嫌な予感がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ