第12話
小町たち三人は、朝の通学路を並んで歩いていた。
春の陽射しは柔らかく、風も心地良い。
けれど、小町の胸の中だけは妙に落ち着かなかった。
隣には俊哉。
そして前を歩く佐奈は、朝からずっと上機嫌だ。
すると突然、佐奈がくるりと振り返った。
「ねぇ、お姉ちゃん!」
「ん?」
「日曜日、デートしよう!」
「……え?」
あまりにも突然の言葉に、小町は思わず立ち止まった。
デート。
その単語が頭の中で反響する。
顔が熱くなる小町の隣で、俊哉が慌てたように口を開いた。
「おい、佐奈!」
俊哉は困ったように眉をひそめる。
「そんな言い方したら、小町が困るだろ」
「えー?」
「行きたい場所あるなら、俺が連れてってやるから」
兄らしく言い聞かせる俊哉。
けれど佐奈は、ぷくっと頬を膨らませた。
「やだ!」
その声が通学路に響く。
「佐奈、お姉ちゃんと行きたいの!」
まるでお気に入りを取られた子供みたいだった。
俊哉は頭を抱える。
「わがまま言うなって……」
「やだもん……」
佐奈の瞳にうっすら涙が浮かぶ。
その姿を見て、小町は思わず苦笑した。
本当に感情が全部顔へ出る子だ。
でも。
こんな風に真っ直ぐ好かれるのは、少し嬉しかった。
「別にいいよ?」
「えっ?」
俊哉が驚いた顔をする。
小町は少し照れながら笑った。
「日曜日、暇だし。どこか一緒に行こっか」
一瞬、静寂。
次の瞬間。
「やったぁー!!」
佐奈が満面の笑みで小町へ飛びついた。
「お姉ちゃん大好きー!」
「ちょ、ちょっと佐奈ちゃんっ」
勢いよく抱きつかれ、小町はふらつく。
でも。
その無邪気さが可愛くて、思わず笑ってしまった。
佐奈はそのまま嬉しそうに駆け出す。
「日曜日楽しみー!」
「こら! 走るなって!」
俊哉が慌てて声を上げる。
「転ぶぞ!」
けれど佐奈はまるで聞いていない。
朝日に照らされながら、楽しそうに坂道を駆け上がっていく。
その後ろ姿を見つめながら、小町は小さく笑った。
「元気だね、佐奈ちゃん」
「ほんとにな……」
俊哉は呆れたように息を吐く。
けれど、その横顔はどこか優しい。
小町はそんな俊哉をそっと盗み見る。
不意に目が合った。
「あ……」
心臓が跳ねる。
俊哉は少し照れたように視線を逸らした後、小さく笑った。
「……ありがとな」
「え?」
「佐奈の相手してくれて」
その声が、妙に優しかった。
小町の胸がじんわり熱くなる。
「別に……嫌じゃないし」
むしろ。
こうして俊哉と一緒にいられる時間が、少しずつ特別になっている。
日曜日。
その約束だけで、胸が高鳴る。
けれど。
幸せな予定ほど、人は簡単に期待してしまう。
そして期待した分だけ、
壊れた時の痛みは深くなる。
春風が静かに吹き抜ける。
その風に揺れる小町の髪を見つめながら、俊哉はほんの少しだけ、寂しそうな顔をしていた。




