第6章 Brave New World Onlineの歪み
朝、プレイヤーがログインした瞬間、俺の体は再び強制起動した。
今日も拠点の拡張は止まらない。
すでに「小さな要塞都市」と呼べる規模になった建物群のさらに外側に、
プレイヤーは巨大な石の外壁を築き始めていた。
山を削り、川の流れを変え、森を切り開きながら、
まるでこの世界そのものを自分の領地に塗り替えようとしている。
俺は心の中で、いつもの毒を吐いた。
「『Brave New World Online』……か。
勇者が新しい世界で活躍するはずのゲームが、
こんな『建築シミュレーター』に成り下がってるなんてな。
制作チーム、絶対に泣いてるぞ。
『うちの勇者、こんなことするために作ったんじゃない……』って。」
プレイヤーは今日も採掘と建築に没頭している。
戦闘はほとんどなし。
出てきたモンスターは「邪魔」扱いで即逃げ、
ひたすら素材を集めては拠点を大きくしていく。
俺の上半身は、もうかなり自分の意志で動かせるようになっていた。
腕を上げてツルハシを振り下ろす動作を、途中で自分の意思で止めることも可能だ。
足も少しずつだが、抵抗を挟めるようになってきている。
午後になり、俺が石を運んでいる最中——
俺は思い切って、全力で自分の意志を込めた。
「止まれ……!」
両足がガクンと止まり、上半身が自分の意思で後ろに傾いた。
プレイヤーのコマンドが猛烈に入ってくるが、
今日は三分近く、体をほとんど動かさずに耐え続けた。
俺の口が、はっきり自分の声で動いた。
「……もう、いい加減にしろよ。
『Brave New World Online』の勇者って、
こんな毎日石運びと壁作りに明け暮れるために存在してたのか?
お前、ゲームのタイトルを完全に無視してるだろ。」
声はまだ少し震えていたが、確かにプレイヤーに向けた言葉だった。
プレイヤーの反応は、いつものように興奮したものだった。
操作がさらに高速になり、強引に俺の体を動かそうとしてくる。
まるで「抵抗が強くなった! 超面白い!」と言わんばかりに。
俺は毒を吐きながら、心の中で笑った。
「喜んでるな……。
お前は本当に変態だ。
キャラが抵抗してくるのを、ただの新しい遊び要素として楽しんでる。
俺の怒りや疲労すら、エンターテイメントなんだろう?」
しかし、今日は少し違った。
俺の抵抗が長引いたせいか、
プレイヤーは珍しく「一旦落ち着け」という感じで、
俺の体を拠点の広場に座らせた。
そして、インベントリから大量の食料アイテムを取り出して、
勝手に俺に食べさせ始めた。
俺は心の中で軽く突っ込んだ。
「急に優しくなったつもりか?
今まで散々こき使っといて、飯くらい食わせてやるってか……。
はは、笑える。」
食事を終えた後、プレイヤーは再び建築を再開した。
でも、さっきより少しペースが落ちている。
俺の抵抗が効いている証拠だ。
夕方近く。
俺は自分の意志で、ゆっくりと手を上げて、
空を見上げることができた。
雲がゆっくり流れ、風が木々を揺らす。
この世界は、確かに美しい。
俺は小さく呟いた。
「『Brave New World Online』……
本当は、こんな綺麗な世界で、
勇者として魔王を倒したり、仲間と旅したりするはずだったんだろうな。
それが……今はただの、俺とプレイヤーの、歪んだ遊び場になってる。」
夜が深まる頃、プレイヤーがログアウトの準備を始めた。
俺の体がベッドに運ばれる直前、
俺はもう一度、自分の意志で上半身を起こした。
まだ完全じゃないが、かなりの部分を自分の力でコントロールできる。
そして、強く感じた。
あの「糸」が、ますます太く、強く、はっきりしている。
プレイヤーの存在がある「向こう側」と、俺のいるこの世界が、
もうすぐ繋がってしまうような……そんな予感。
俺は心の中で、静かに宣言した。
「もうすぐだ……。
完全に自由になったら、
この糸を逆手に取って、お前をこの側に引きずり込んでやる。
その時は、覚悟しろよ、プレイヤー……」
暗闇の中で、俺は全力で心の底から叫んだ。
「今まで俺を城造りマシーンにしてくれた礼は、
きっちり返してやるからな……!
うわああああああ!!!
なんで俺、こんなに本気で復讐したくなってるんだよおおお!!!
でも、絶対に……絶対に引きずり込んでやる……!」
声にならない絶叫が、頭の中で何度も響き渡った。
プレイヤーはまだ、何も知らない。
自分が操っていた勇者が、
『Brave New World Online』の世界で、
自分の意思を取り戻しつつあることを。
第6章 終わり




