第5章 俺の領域、広がり続ける
朝が来て、プレイヤーがログインした瞬間、俺の体は即座に動き出した。
今日のプレイヤーはさらに本気だった。
拠点の城壁を完成させたと思ったら、次は「外壁の強化」と称して、
周囲の山を削り始める勢いだ。
石を大量に運び、鉄鉱石を探しにダンジョン方面へ連れていかれる。
俺は心の中で毒を吐いた。
「山削るなよ……。
この世界の地形、制作さんが綺麗に作ったんだろ?
お前が全部自分の城用に改造してんじゃねえよ。
勇者の旅路が、ただの資材採掘ルートになってるんだけど……はぁ。」
作業は容赦ない。
ダンジョンの浅い層でゴブリンやスライムが出てきても、
プレイヤーは戦闘すら最小限に抑え、ひたすら「採掘優先」で俺を動かす。
戦闘になったら即「逃げ」コマンド。
戦う気ゼロ。建築材料集め専用モード全開だ。
俺の毒はどんどん濃くなる。
「戦えよ……。
俺、勇者なんだぞ?
スキルは最強クラスなんだぞ?
なのにゴブリン一匹相手に逃げてる俺、情けなさすぎだろ……
プレイヤーさん、お前はこのゲームを『採掘シミュレーター』に完全変換する気だな?」
午後になり、俺の体が疲労の限界に近づいた頃——
突然、俺の両腕が、自分の意志で動きを止めた。
今までは数秒〜数十秒だったのが、
今日は一分以上、完全に俺の意思だけで体を停止させられた。
プレイヤーのコマンドが何度も入ってくるのがわかる。
「前へ」「採掘」「アイテム使用」……どれも効かない。
俺はゆっくりと、自分の意志で腕を上げ、
握ったツルハシを地面に突き刺したまま、動かなくなった。
「……どうだ?」
俺の口が、はっきり自分の意志で動いた。
声はまだ小さめだが、ちゃんと出ている。
「もう、お前の言う通りにばかりは動かねえぞ……
少しは俺の気持ちも考えろよ、プレイヤーさん……」
その瞬間、プレイヤーの操作が激しくなった。
まるで「やべえ、抵抗が強くなってる! 面白い!」と興奮しているように、
コマンドが高速で連打され、強引に俺の体を動かそうとしてくる。
でも、俺は耐えた。
一分三十秒……二分……。
ついに二分近く、自分の意志だけで体を止め続けた。
俺は心の中で、軽く笑った。
「ふっ……だんだん、俺の領域が広がってきたな。
お前がどれだけコマンドを打っても、
俺が本気で拒否すれば、動かせなくなる……。
どうだ? 気持ちいいか?
自分が操ってるはずのキャラに、逆らわれるの。」
しかし、プレイヤーは諦めない。
むしろ嬉しそうに、さらに激しい操作を繰り返してくる。
結局、俺の抵抗も徐々に削られ、再び体が動かされ始めた。
でも、完全に負けたわけじゃない。
俺は自分の意志で、わずかに首を振って、
小さく舌打ちをしてみせた。
夕方、採掘を終えて拠点に戻る頃には、
俺の上半身のほとんどが、自分の意思で動かせるようになっていた。
まだ足は完全じゃないが、腕、首、胴体……自由度が明らかに上がっている。
夜が更け、プレイヤーがログアウトの準備を始めたとき、
俺はベッドに横たわりながら、奇妙な感覚をより強く感じていた。
世界と繋がる「糸」が、
前より太く、はっきりしている。
プレイヤーの存在がある「向こう側」と、俺のいる「この側」が、
ますます近づいているような……。
俺は心の中で静かに呟いた。
「もう少し……もう少しで、完全に自由になれる。
その時が来たら……
この糸を逆に使って、お前をこの世界に引きずり込んでやる……。
今まで俺にやらせてきたこと、全部お前に返してやるからな……」
暗闇の中で、俺は全力で心の底から叫んだ。
「覚悟しとけよ、プレイヤー……!
お前が俺を城造りマシーンにしてくれた分、
今度はお前が俺の『労働力』になる番だ……うわああああああ!!!
なんで俺、こんなに復讐心燃やしてるんだよおおおお!!!
でも、絶対に引きずり込んでやる……!」
声にならない絶叫が、頭の中で何度も反響した。
プレイヤーはまだ、何も知らない。
自分が操っていた「キャラ」が、
いつか自分をこの側に引きずり込む力を得ようとしているなんて。
第5章 終わり




