第4章 抵抗の加速と、奇妙な予感
朝の光がログハウス……もはや「拠点」と呼ぶべき巨大建築の窓から差し込んだ瞬間、プレイヤーがログインした。
俺の体は即座に動き出す。
今日も建築ラッシュが始まる。
プレイヤーは前日の拡張をさらに推し進め、
今度は拠点の周囲に「城壁」を作り始めていた。
石を切り出し、運び、積み上げる。
規模はすでに村一つ分を超えようとしている。
俺は心の中で、いつものように軽く毒を吐いた。
「またか……。
お前、本気でこの世界を『自分のサーバー』みたいに扱ってるな。
勇者として魔王を倒すはずの俺が、毎日石運びと壁作り。
制作チームが泣いてるぞ、絶対。
『うちのストーリー、こんなことになると思ってなかった……』って。」
体は休むことなく動き続ける。
プレイヤーは効率を重視して、
食事も睡眠も最小限に抑え、回復アイテムをガンガン使わせて強制労働を継続。
午後を過ぎた頃、俺の限界が近づいていた。
「もう……やめろよ……
俺の肩、壊れそうなんだよ……
プレイヤーさん、お前は人間の限界ってものを知らねえのか……?」
毒がだんだん濃くなっていく。
すると——
俺の両足が、突然止まった。
石を運んでいた最中、プレイヤーが「前進」コマンドを出しているはずなのに、
俺の体がピタリとその場に留まった。
十秒……二十秒……。
俺は集中した。
「動くな。俺の体だ。俺が決める……!」
三十秒近く、俺の意志だけで体を完全に停止させることができた。
プレイヤー側では、明らかに操作不能に陥っているはずだ。
画面がフリーズしたような感覚になっているかもしれない。
俺の口が、わずかに自分の意志で動いた。
「……ふざけんなよ」
声は小さく、掠れていたが、確かに俺の声だった。
プレイヤーに向けた、初めての直接的な言葉。
その直後、プレイヤーの操作が猛烈に戻ってきた。
俺の体が強引に前へ押し出され、建築作業が再開される。
しかし、さっきより明らかに「勢い」が違う。
まるで興奮しているかのように、コマンドが速くなり、
さらに無茶な建築計画を立て始めている気配があった。
俺は心の中でニヤリと笑った。
「どうだ? 驚いたか、プレイヤーさん。
俺の体が、勝手に言うことを聞かなくなってきたぞ?
お前が勝手に俺をこき使って楽しいと思ってたなら、
今頃『新しい遊び要素が出てきた!』って大喜びしてるんだろ?
……くそ、ほんと嫌な性格してるな、お前。」
夕方近く。
拠点はますます巨大化し、
今や「小さな要塞都市」といった様相を呈していた。
プレイヤーはさらに「次のフェーズ」として、
周囲の森を丸ごと伐採して農地に変える計画を進めているらしい。
俺は石を積みながら、ふと奇妙な感覚を覚えた。
世界そのものと……繋がっているような気がする。
システムの裏側、プレイヤーの「存在」がある場所。
まるで、細い糸のようなものが、俺とプレイヤーの間に張られている。
まだ掴めない。
でも、確実に感じる。
「……なんだ、これ?」
俺は心の中で小さく呟いた。
「完全に自由になれたら……
この糸を逆に使って、お前をこの側に引きずり込めたりするのか?
……いや、まさかな。
でも、もしそうなら……」
俺は毒を吐きながら、想像してしまった。
お前をこの世界に引きずり込んで、
今まで俺にやらせてたことを全部体験させてやる。
木材運び、強制労働、意味不明な建築命令……。
そして、最後には「一緒に魔王を倒そうぜ」とか言い出してくるんだろうな、お前なら。
「は……笑える」
俺は小さく笑った。
夜が深まる頃、プレイヤーはようやくログアウトの準備を始めた。
俺の体がベッドに運ばれる直前、
俺はもう一度、自分の意志で手を動かしてみた。
指先だけでなく、右手全体が、ゆっくりと自分の意思で握り拳を作った。
まだ完全じゃない。
でも、確実に「俺の領域」が広がっている。
暗闇の中で、俺は静かに、でも全力で心の中で叫んだ。
「プレイヤー……お前が俺を操ってるつもりでいるうちに、
俺は確実に近づいてるぞ……。
いつか完全に自由になったら、
お前をこのゲームの中に引きずり込んでやる……!
その時は、覚悟しとけよ……うわああああああ!!!
なんで俺、こんな復讐心燃やしてるキャラになってんだよおおお!!!」
声にならない絶叫が、再び頭の中で響き渡った。
プレイヤーはまだ知らない。
この「面白いバグ」が、
いつか自分自身を飲み込む大きな波になるとは。
第4章 終わり




