第2章 プレイヤーの本気、恐ろしすぎる
ログアウトから目が覚めると、俺は再びログハウスのベッドの上にいた。
体は自由に動く。
……というより、プレイヤーがログインした瞬間から、また操作が始まるんだろう。
【プレイヤーがログインしました】
案の定、視界の端に文字が浮かんだ。
俺は心の中でため息をついた。
「よし、今日こそゴブリン討伐に行こうぜ……って、俺の意思じゃねえけどな」
しかし、俺の体はログハウスを出ると、昨日作ったばかりの小さな家を無視して、さらに奥の森へと歩き始めた。
木を切り倒す。
石を削る。
土を掘る。
昨日より明らかに規模が大きい。
プレイヤーはどうやら「ただのログハウス」では満足できなかったらしい。
三時間後。
俺は汗だくで、森の中に巨大な土台を作り上げていた。
直径二十メートルはあろうかという円形の基礎。
周囲の木はすべて伐採され、地面は綺麗に整地されている。
「……おいおい、ちょっと待てよ」
俺は内心で軽く毒を吐いた。
「昨日は小さな家だったのに、今日はもう城でも建てる気か?
俺は勇者だぞ? 魔王討伐の勇者。
村の人は今頃『ゴブリンが村を襲ってるのに勇者どこ行ったんだ』ってパニックになってると思うんだけど?」
体は止まらない。
プレイヤーはさらに木材を運ばせ、石を積ませ、まるで本格的な建築を始めた。
日が暮れる頃には、土台の上に二階建ての立派な木造建築が完成していた。
しかもただの家じゃない。
窓が大きく、ベランダまでついている。
明らかに「住むための家」ではなく、「拠点」として作っている。
俺は心の中で毒を増やした。
「プレイヤーさん……お前、このRPGを『マイクラ』だと思ってないか?
ここはファンタジー世界だぞ。
魔王がいるんだぞ。
勇者が城作ってる場合じゃねえだろ……」
夜になると、プレイヤーはさらにエスカレートした。
今度は周囲の森をどんどん開拓し始める。
木を切りまくり、道を作り、柵を設置。
俺の体は暗闇の中でも休むことなく動き続けた。
スタミナが尽きそうなのに、回復アイテムを勝手に使わせて強制労働。
「ちょっと待て、俺の体、限界だぞ……
睡眠コマンド入れてくれよ……って、またスキップされてる!」
俺の毒は徐々に濃くなっていく。
深夜二時を過ぎた頃——
俺は巨大な「拠点」の前に立ち、疲労困憊で膝をついていた。
プレイヤーはようやく「今日はここまで」という感じで、セーブポイントを更新しようとしている気配があった。
その瞬間。
俺の右手の指先が、ピクリと動いた。
「……え?」
俺の意志じゃない。
プレイヤーが何も操作していないはずなのに、指が勝手に曲がった。
俺は驚いて心の中で叫んだ。
(待て、今の……俺が動かした?)
試しに、もう一度集中してみる。
指が、もう一度小さく震えた。
ほんのわずか。
一瞬だけ。
でも、確かに俺の意思が、体に届いた気がした。
「…………ふっ」
俺は小さく、毒混じりの笑みを浮かべた(心の中で)。
「ようやく……少しだけ、俺の番が来たか。
プレイヤーさん、お前が勝手に俺をこき使うのもいいけど、
そろそろ俺の気持ちも考えてくれよな……?」
しかし、その小さな抵抗はすぐに潰された。
プレイヤーが再び操作を始め、俺の体を強制的にベッドに運んだ。
【プレイヤーがログアウトしました】
再び体が動かなくなる。
暗闇の中で、俺は全力で絶叫した。
「うわああああああ!!!
指先だけじゃねえかよ!!
もっと動けよ俺の体!!
せめて腕くらい振り回して『やめろ!』ってジェスチャーしたいわ!!
プレイヤー、お前が喜ぶために俺がここまで酷使されてるなんて、
俺の人生、ただの建築労働者じゃねえかよおおおおお!!!」
声にならない叫びが、頭の中で木霊する。
でも、どこかで冷静な部分が冷静に毒を吐いていた。
「……まあ、でもさ。
プレイヤーさん、俺の指が勝手に動いたの、気づいたかな?
もし気づいてたら……
『お、なんか新しい遊び要素出てきた!』とか言って、
もっと面白がってエスカレートしそうで怖いんだよな……」
俺は暗い天井を見つめながら、ため息をついた。
このプレイヤーは、ただの勇者物語をやる気なんて最初からなかった。
俺を主人公にしたファンタジーRPGを、
自分だけの巨大建築シミュレーションに改造しようとしている。
そして俺は——
少しずつ、だけど確実に、
この「操作される運命」に抵抗し始めていた。
第2章 終わり




