第1章 俺、最強勇者のはずだった
目が覚めると、そこは見覚えのない森の中だった。
「……は?」
俺は慌てて自分の体を見下ろした。
白いシャツに、革のベスト。腰には短剣。足元にはブーツ。
典型的な異世界転生テンプレ装備だ。
頭の中に、突然青い半透明のウィンドウが浮かび上がる。
【名前:星野 勇太】
【職業:勇者】
【レベル:1】
【スキル:剣術の才能(SS)、魔力無限(S)、世界言語理解(A)……】
スキル欄がびっしり埋まっている。
特に「魔力無限」と「剣術の才能(SS)」がやばい。
これ、チート確定じゃん。
「やった……! 俺、ついに来たぞ! なろう系主人公だ!」
俺は思わずガッツポーズを取った。
前世ではただの社畜サラリーマンだった。
毎日残業して、休みは寝るだけ。
そんな人生が一瞬でひっくり返った。
これからは最強勇者として、モテモテで無双するんだ。
「まずはステータス確認……って、なんか視界の端に変な文字が……」
【プレイヤーがログインしました】
……は?
一瞬、文字がチラついた気がしたけど、すぐに消えた。
気のせいか。まあいい。とにかくこの世界を楽しもう。
森を歩き始めると、すぐに道に出た。
すると、向こうから村人らしきおじさんが走ってくる。
「おお! あなたが勇者様ですか! 女神様が予言した通りだ!」
おじさんは俺の手を取って、ぶんぶん振った。
「村が魔物の襲撃に遭っておるのです。どうかお助けを!」
「了解! 任せてくれ!」
俺は胸を張った。
ここから俺の英雄譚が始まる。
まずは序盤の村クエストをサクッとクリアして、ステータスを上げて——
と思った瞬間。
体が勝手に動き出した。
俺の意志とは全く関係なく、足が前に踏み出し、短剣を構える。
目の前に、突然スライムが三匹現れた。
(おい、待て。俺、まだ戦闘の準備とかしてないんだけど)
【プレイヤーが「通常攻撃」を選択しました】
短剣が勝手に振り下ろされる。
スライムが一匹、簡単に潰れた。
「え、ちょ、俺のターンじゃ——」
また勝手に動く。
二匹目、三匹目。
あっという間に全滅。
村人が大喜びで駆け寄ってくる。
「さすが勇者様! なんて素早い剣捌きでしょう!」
(……素早いも何も、俺は何もしてねえよ)
俺は内心で軽く毒を吐いた。
村に着くと、盛大な歓迎を受けた。
村長が俺にクエストを説明してくれる。
「実は北の森にゴブリンの巣があるのです。どうか討伐をお願いします!」
「いいぜ、行ってくる!」
俺は意気揚々と北の森に向かった。
ゴブリン程度なら、チートスキルで余裕だ。
華麗に倒して、村の美少女から感謝のキスでももらおう——
と思った矢先。
体が再び勝手に動き始めた。
今度は森の奥深く、明らかにクエストとは関係ない方向へ歩き出す。
道なき道を進み、木を一本一本切り倒し始める。
「え? おい、ちょっと待て」
木こり始める。
斧なんか持ってないのに、短剣で木をバシバシ切りまくる。
切り倒した木は自動的に「アイテム化」されてインベントリに溜まっていく。
(なんだこれ……? ゴブリン討伐じゃなくて、木材集め?)
俺は心の中で軽く突っ込んだ。
さらに進むと、巨大な岩場に出た。
プレイヤーはそこで突然「建築モード」みたいな行動を取り始めた。
石を削り、木を組み、どんどん壁を作り出す。
「は? 俺、勇者だぞ? なんで今、家建ててるんだよ……」
軽い毒が少しずつ強くなってくる。
三時間後。
俺は汗だくで、森の中に小さなログハウスを完成させていた。
村のクエストは完全に放置。ゴブリンはまだ巣でピンピンしてるはずだ。
村人が探しに来て、呆れた顔で俺を見た。
「勇者様……? あの、ゴブリンの件は……」
すると俺の口が勝手に動いた。
「あとでな。今忙しい」
(おい! 俺、そんなこと言ってねえ!)
村人が困惑しながら去っていく。
その夜、ログハウスの中で俺は一人、頭を抱えた。
『せめて最初のクエストくらい、クリアしてくれよ。
村の人たち、俺のこと変な目で見てるぞ?」
そこまで思った瞬間——
視界に再び青い文字が浮かんだ。
【プレイヤーが「セーブポイントを作成」しました】
【現在位置を「ログハウス」に設定】
そして、次の瞬間。
俺の体が強制的にベッドに横たわらされ、目が閉じられた。
【プレイヤーがログアウトしました】
「……は?」
俺は体を起こそうとしたが、動けない。
まるで「睡眠中」フラグが立ったみたいに、意識だけがはっきりしている。
暗闇の中で、俺はようやく理解した。
この世界は、俺が主人公だと思っていた世界じゃない。
俺は、ただの「操作されるキャラ」なんだ。
そしてプレイヤーは——
どうやら、制作側の想定をぶっ壊すタイプの、
本物の「ゲーム変態勢」らしい。
俺は心の中で、静かに、でも確実に毒を吐いた。
「プレイヤーさん……お前、ただの勇者物語をやる気、最初からねえよな?」
すると、どこからか微かなシステム音が聞こえた気がした。
次の瞬間、俺の内面で全力の絶叫が爆発した。
「待て待て待て!! ログアウトすんなよ!!
俺、まだこの世界のこと何もわかってねえんだぞ!?
お前が何をしたいのか、せめて一言説明しろよ!!
俺の人生、ただの建築資材運び要員かよ!!!
うわあああああああ!!!」
声にならない絶叫が、暗いログハウスの中で木霊した。
第1章 終わり




