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花たち

 大村の父親の方から、透に連絡が入った。サファノバ国を紹介してくれたお礼がしたいとの事だった。透としてはあまり大村親子に関わりたく無かったのだが、商談も成立した事もあり、この後も、サファノバとの関係が続くという事で、仕方なく応じることにした。


 大村は学校の門まで迎えの車を差し向けて来た。行き先は料亭だろうと思っていた透が連れて行かれたのは、会員制高級クラブだった。入り口で大村がにこやかな表情で待っている。

「ようこそ、おいで下さいました」

「私は教員なので、こう言うところは遠慮したいのですが……」

「なかなかお堅いですな。社会勉強の為にも、たまにはいいいじゃないですか。せっかく築地さんの為に、選りすぐりの子たちを集めたのですから。まぁ、でも、あれだけ美しい女王を日頃から、近くで見ていたら、他の女性は目に入らなくなるかもしれませんな。でも、女王にはいつでも会えるわけではありませんが、ここの子達はいつでも会えますよ。お嫌であれば30分だけで構いません。いつでも築地さんの名前で入れるようにしておきますから、いつでも来て下さい」

「あれは、伝で頼まれて紹介しただけですから……。30分位であれば」


 中に入ると豪華客船の様な階段とシャンデリアが真っ先に目に入った。ピアノの生演奏が聞こえる。透は奥の、広いソファのある部屋へ連れて行かれた。

 色とりどりのドレスを着て、今風のメイクを施した美女たちが、並んでいる。透は、職業柄、この中に高校生がバイトをしていたりしないかが気になり、確認した。日頃、学校で中高生と接する機会が多いせいか、なんとなく年齢の見当がついてしまう。高校生らしき女性はいなさそうだと、一人安堵した。


「築地さん、どの子がいいですか? 選り取り見取りですよ。お持ち帰りもO.K.。そうそう、そういえば、息子が今、サファノバの城に滞在しているようです」

それを聞いて、透は困惑した。

(レイラは健斗を嫌がっていなかっただろうか。それなのに、城に滞在させるとはどう言うことだろう。健斗が無理やり押しかけたのだろうか。その事と、連絡をしばらく取れない事は何か関係があるのだろうか)


 透が気を取られているうちに、大村が女性たちに声をかけた。

「席にお連れしなさい」

ぎょっとする透を無視して、女性たちが透に群がり、手を引いたり、背中を押したりして席へ引っ張って行く。透はその中の一人に見覚えがあった。

「この間」

と、透は言いかけた。名乗らなかったのに、こんな所で会って自分から声をかけるのは、どうかと思ったのだ。目のくりっとしたその女性は、

「この間は助けていただき、有難うございました」

と頭を下げ、ちゃっかり透の隣に陣取った。大村はお気に入りなのか、二人の女性を従えて後から、L字型のソファの真ん中に座った。


 目のくりっとした女性は葵と名乗った。あの日は子供が熱を出してしまい、迎えに行く途中で急いでいた為助かった事、手を掴んできたのは元夫でDVが理由で別れたのだが、しつこく付き纏われている事などを、しんみりともせず、さらっと話した。透は葵に、知り合いの弁護士の電話番号を教え、困った事があったら、そこに電話するように伝えた。自分ではなんともしがたい案件だと思ったからだ。

 葵だけに独占されないよう、他の女性たちも透の気を引こうとする。酔った振りをしてしなだれかかってくる女性もいた。膝に乗ろうとした女性を、透はやんわりと押し戻した。透は気づけば、L字型ソファの角に追い詰められていた。透には、時間が過ぎるのが、やけに遅く感じた。なるべく、にこやかにはしていたが、早く帰りたいと思っていた。時計を見るとやっと、30分経ったところだった。

「大村さん、急ぎの用を思い出したので、失礼します。招待して頂き、ありがとうございました」

透が立ち上がると、お見送りと称して、十人近くの女性が入り口まで付いてきた。透は無難ににこやかに挨拶をすると、大村が差し向けたハイヤーに乗った。何人かの女性が一緒に乗り込もうとするのを断り、車を出した。スーツのポケットにいつの間にか、色とりどりの名刺が入っていた。


 透が家に着くと、匠が鼻に皺を寄せて匂いを嗅いできた。

「透ちゃん、なんか香水臭いよ。レイラに言っちゃうよ?」

「この間レイラたちに紹介した大村産業の社長から、無理やり高級クラブに連れて行かれたんだよ。30分で出てきたし、やましいことは何もないけど、レイラが聞くと気分を悪くするだろうから、内緒にしておいて」

透はなんだか、言い訳しているみたいだと思いつつ、匠に頼んだ。匠はしたり顔で頷いた。

「はいはい、今からレイラの機嫌が気になるようじゃ、将来、尻に敷かれる事、間違いなしだね」

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