第98話 文化祭デート01
「ふい」
吐息を一つ。
学内の自販機の傍に陣取って温かい紅茶を飲む。
もちろん市販のね。
秋の深まるこの頃。
今日は黄時学院の総合文化祭。
お祭りだ。
ぶっちゃけた話、「やってる場合か」とも思うけど、無理が通れば道理が引っ込む。
これもまた事実。
僕は準備係なので当日の活動には参加しない。
というかクラスメイトが爽やかな笑顔で、「邪魔」と仰った。
まぁそうだよね。
国際テロリストに茶を出されても客が落ち着かないだろう。
そんなわけで一人のんびりと。
文化祭にあたってニュースの類も沸騰はする。
けれどもそこは既に掣肘済み。
なんか言ってて虚しいけど……学生としては文化祭は楽しむとして、けれども他にやることもなし。
「ともあれ……か」
ホケッと紅茶を飲む。
甘い香りが口内を暖めた。
こゆところは文明の所産。
きっととてもいいことだ。
「お兄ちゃん。楽しんでる?」
愛妹からメッセが来た。
「楽しんでるよ~」
僕も返す。
実際には追い立てられて、一人寂しく自販機前。
けどまぁ妹を心配させるわけにはいかない。
それがお兄ちゃん道。ソワカ。
「お姉ちゃんは?」
「メイドさん」
「あう」
何故そこでそんなコメント?
「ちゃんと楽しんでね?」
「約束しましょう」
サラリと述べる。
実際に幾つか予定は入ってるけどさ。
暇もしているので、「何をしようか?」との疑問も。
あまり目立つことはしない方が良いだろう。
波立っても面白くない。
しょうがないので大学部。
そこをフラフラしていた。
衆人環視は……さすがに見逃すことも無いだろう。
既に半年近く経ってはいるけど、破壊力はむしろ増加の一途を辿る。
赤眼の魔王……司馬ラピスのおかげだ。
世界覇王として顔が売れれば、まぁ萎縮するよね。
自分、然程の存在でもござらんが。
「いいんだけどさ」
電気電子学部の研究棟に入って、ゲームをして暇を潰した。
ピコピコ。ボボーン。爆発に次ぐ爆発。
「如何でしょう?」
「面白いです。凄いですね」
単純な爆弾男ゲームの後追いだけど、動作とオプションにオリジナリティがあるので子どもでも楽しめそうだ。
ゲームは余りしない方だけど、手作りのゲームって何だかプレイするだけでホッコリするモノだ。
同人ゲームもそうなんだろうか?
「えと……陛下は……」
あー……。
「気を遣わなくて良いですよ?」
大学生に謙遜されてもね。
こっちとしては大学生とは先達だ。
萎縮される方が、心が苦しい。
これはちょっとした覇王の弊害。
別にフランクに話してくれていいんだけど。
「しかし……」
「無理にとは言いませんけど」
強制することでもないか。
こっちとしてもメギドフレイムの威力は過不足なく知っている。
その背景を鑑みれば、たしかに機嫌を損ねるのは悪手だろう。
僕が不動明王なら、システムメギドフレイムは迦楼羅焔だ。
「その。陛下におかれましては……宣伝とか……」
「構いませんが」
そんなわけで……ツイッターで研究室の出し物について呟く。
大炎上。
あっはっは。
本当にネット民は面白い。
簡単に怒りの矛先を悪者に向ける。
大人も結構使っているだろうに、どこかネットでの呟きは人を幼児退行させる。
つまるところ、
「世界に不審をばらまいておいて何やってやがる」
総論を述べればそんなところ。
別に黄時学院に罪は無いはずなんだけど。
僕らが籍を置いているだけで、「悪の巣窟」は言い過ぎだと思います。
電気電子棟を出ると、今度は市民団体が現われた。
待ち構えていたのか。
あるいは見つけるために探し回ってヒットしたのか。
あまり楽しそうでもないけど。
「覇王陛下でいらっしゃいますか?」
大人に謙遜されてもなぁ。
さっきと似たような気分になる。
世界覇王も大変だ。
ところで大人もヒマなのだろうか?
「確かに自分が世界覇王ですけども」
「世界平和への貢献……お礼の申し上げようもありません」
当然、
「?」
となる。
「何かしましたか?」
世界平和とは対極に存在するんだけど。
「核兵器の廃絶」
ああ。
納得。
「素晴らしいことです」
「ですか」
左翼市民かな?
あまり仲間意識を持たれても返す物も無いのだけど……。
単純に戦力的な都合の問題で邪魔だから廃絶したのであって、僕やラピスはタカ派に相違ない。
暴力で解決しているだけで、世界平和に貢献とはまた話が違う。
「宜しければお茶でもどうですか?」
「また後日」
サラリと断ります。
あまり相手したくない類だ。
核兵器は……そりゃ無い方が良い。
抑止力というレッテルもあまり僕は好きじゃない。
が、それはそれとして、「だから放棄しよう」は少し安直だとも思う。
ラピスの場合は、「世界蠢動の布石」つまり、「世界大戦の前夜のため」である。
どちらかと云えば悪に属するだろう。
止める気はサラサラ無いんだけどね。
それにしても市民団体ね。
名が売れた物だ。




