#10 三日おきの宴会・中編
アリスが扉を開けた体勢のまま固まっていると、玄関に座り込んでいた萃香は驚きで言葉を発せなくなっていた自分の方を見て
「何でここにいるのかって顔してるね
そりゃ建物の壁に防御用の術掛けてあるんだから『普通に』入ろうとすれば私だって弾かれるよ
でも『密と疎を操る程度の能力』を使えばその扉の隙間から入ることができるからね」
と玄関扉の目視できないほどの僅かな隙間を指さした
「ところで・・・」
「うん?どうかした?」
「先程『博麗の巫女が来た』と言って隠れたのは何故ですか?」
「正直に言っちゃうと犯人私だしね
これでもまだ体の一部を見えない妖霧として散らしているから、いつもみたいな全力は出せないけど・・・そんな事より、まだスペルカード持ってないんだって?
私が手伝ってあげようか」
ここにまだ白紙のスペルカードがあるわけだし、と何処からか紙切れを取り出して言った
何となく他に言いたいことがあった気もしたのだが、完全にペースを握られたままリビングの椅子に腰掛けていた
「もう1つ訊きたいのですが・・・
何故新参者の私にそこまでしてくれるのですか?」
「ただ何となく興味が湧いただけだよ
幻想郷の連中なんてそんな感じの奴ばっかりだから」
何となくペースを握られた理由が分かった気がした
「ところで、このスペルカードってのはさ」
そう言いながら萃香が先程の紙切れをテーブルの上に差し出した
「発想力って言うのかな
ある意味『個性』が極端に表れるものだから、じっくり考えてもあんまりいいのは浮かばないんだ
私のは確実に相手を被弾させる為の物が多いけど、さっきの七色の魔法使いのは異名通り彩り重視のスペルカードが主体だし、とにかくパワーで圧倒するものとか自己アピール、形に意味を持たせたものとか、それぞれ考え方とかが出てるから誰かに訊いてもあんまり参考にはならないかもね
ただ、1つだけ共通点を挙げるとするならば・・・」
「見た目の美しさ、ですか?」
「よく知ってるね
火力や体力では人間は妖怪に適わないし、逆に人間が使う集団戦法は天狗みたいなのを除けば妖怪は苦手とするんだ
そして、妖怪は人間を襲わなければ存在が維持できないけれど、この幻想郷という限られた空間の中で人間を襲い続けるといずれ人間が居なくなってしまう
そこで考え出されたのがスペルカードルールって訳さ
スペルカードルールってのは殺し合いを純粋な遊びに変えるためのものだから、技の威力は制限される
代わりに美しさで勝敗を決めようっていうのがこのスペルカードルールの主旨
これで私ら妖怪は気軽に人間を襲えるし、人間も妖怪を退治することが出来るようになったのさ」
勿論擬似的に、だけどねと彼女は補足を入れた
「今の話を聞いた上でお願いがあるのですが、何かヒントを貰えませんか?」
「ヒント・・・かぁ
ここに来てからの様子を見てると戦闘向けの術が主体みたいだから、スペルカードとして扱うのは難しいかもしれないね
人形を扱う術ならさっきの魔法使いは長けてるけど」
「マーガトロイドさんは一度住ませて貰う提案を断ってるので訊きづらいんですよね・・・
その割にはこの辺りを歩いているのは珍しくないですけど」
「気にしなければいいんじゃない?
ああ、美しさって言えば私は使わなかったけど『花火』ってのがあったね」
「花火?
それはどういう物ですか?」
「花火ってのは爆発するときの火花に色が付くようにしたものさ
爆心点から放射状に、規則正しく飛んでいくからスペルカードの象徴としてはピッタリかもね」
そう言われたアリス・ソル・メイディアではあったが、1つの壁に当たってしまった
彼女は元々戦闘や実用に特化した術ばかりを鍛えてきたため、僅かな熱量の火に色を付けた上で弾として成立させ、それを大量に撒くとなるとどうしても欠損が出てしまうのだ
「うーん・・・
スペルカードとしては悪くないんだけど、どうしても粗が出るね」
アリスが七色の弾を出そうとすると、どうしても配色のおかしな部分があったり、弾そのものが欠けてしまうのである
弾幕を張る、ということで魔法の森の中に擬似的な広場を術で作った上で練習している為に余計に魔力を消耗しているのかもしれない
ならば、と彼女は考えた
七色全てを出せないなら、色を絞ってしまえばいい
「あの、伊吹さん
私が思うに、この擬似空間で相当量の魔力を消費している気がするのですが、この術を外すとそれはそれで練習できなくなってしまいます
ですから・・・」
「色を減らして、その分を制御に回す・・・そういうことだね」
「ええ、何故今まで気が付かなかったのか不思議なほどではありますが」
「なら、それをスペルカードにして・・・
外で待ってるのを相手にしてみたら?」
そう萃香が言うのと同時に空間が揺らぎ、元の木々が生い茂る魔法の森の景色になった
「何となく妙な気配がしたので立ち寄ったのですが、どうやら当たりだったようですね」
そう言ったのは自然体で鈍く光る刀を構えた銀髪の少女だった
「私は半人半霊の庭師、魂魄妖夢と言います
以後、お知り置きを」
「アリス・ソル・メイディアです
何故ここに?」
「先程白と黒の魔法使いの所に『ちょっと』用事がありましてね
どうも外れだったようで、違う所に行こうかと思っていたところ奇妙な現象を目にしまして
・・・ここだけ空間が歪んでいたのですよ
なのでもしかしたら首謀者が居るかと思って斬らせていただきました」
「首謀者というのが誰のことを指しているのか知りませんが、私ではありませんよ?」
「・・・首謀者が返しそうな返事ですね
では尋常に・・・勝負!!」
銀髪の少女改め、魂魄妖夢が刀を上段から振り下ろすと、そこから自分めがけて大量の楔のような形の弾が飛んでくる
それぞれの弾の間に隙間が出来ていたのでそこに飛び込み、同時に自分のイメージを術に変換、弾幕として出現させる
アリスがイメージしたのは木の葉である
それらが周囲にまき散らされ、小さな嵐が来たかのように狂い踊る
「中々濃い弾幕ですが、その程度では・・・!」
『人符「現世斬」』
妖夢の姿がブレて見えた・・・と思った瞬間には刀を構えたまま振りかぶって目の前にいた
咄嗟に真横に向かって跳躍して太刀筋から逃れる・・・と、もう一度刀を構えてこちらに向かって踏み込むのが見えた
「なら・・・土符『サンドストーム』!」
細かな砂を模した小さな弾が風に巻き上げられたように飛んでいき、視界を悪くする
「細かい上に早くて密度の高い弾とは厄介な・・・」
だが、僅かな踏み込みと引きでこちらの弾を躱していく
「これでは踏み込めませんね・・・しかし、これなら!」
『断命剣「冥想斬」』
弾が当たるのにも構わず、刀を中段で横向きに構えるのを見て、直感的に真上に跳躍する
するとそのすぐ下を伸びた刀がなぎ払った
「初見でこれを避けるとは、なかなかやりますね」
アリスは無言で妖夢を睨むような目つきで見た
端から見れば凄んでいるように見えなくもないが、ただ単に余裕が無いだけである
「一回目で避けられた以上、同じ術は当たらないでしょう
・・・ではこれで最後です、魂符『幽明の苦輪』」
先程からずっと妖夢の近くに浮いていた半透明の物が形を変え、妖夢そっくりの姿になる
・・・最も、向こう側が透けて見える状態ではあるが
妖夢がアリスの後ろに回り込み、妖夢の姿に変化した方が真っ直ぐに走り出しながら刀を振りかぶったので、後ろに下がろうとして後ろから感じる殺気のようなものに気が付き、慌てて上空に逃れる
その下ではちょうど刀が横薙ぎに振られた所であった
「上に飛んで逃げられたと・・・思ったのですか!」
妖夢とその分身のようなものが同時に跳躍しながら刀を構えていた
「ひっ!?」
まだ宙に浮く事は出来ても、自由に飛ぶことまでは出来ていない
思考が止まりかけたとき
『もう1枚のスペルカードを使わないと』
そんな声が聞こえた
反射的にスペルカードを取り出し、そのスペルの名を口にする
「彩光『ファイアワークス』」
白く光る弾が密度の低い環になって飛んでいく
「この程度で!」
その白い弾を避けた妖夢がアリスに接近しようとした瞬間、白い弾が弾けて中から五色の弾が飛び出した
「なっ・・・!!」
白い弾の環の内側に入っていた妖夢は不意とはいえ、高密度の弾幕の中に飛び込むことになっていた
身を捩ってその弾幕を躱し続けていた妖夢だったが、背中に一発当たった拍子に次々と被弾し、次の瞬間には地面に膝をつけていた
だが、それをアリス自身が見ることも無かったのである
擬似空間を術で作った上にその中で練習し、加えて魔力を弾幕として放出し過ぎたために魔力切れを起こして落下、地面に到達する前に妖夢に抱えられていた
「あらあら、違う世界から来た人をそこまで痛めつけちゃって」
妖夢の目の前の空間が裂け、そこから八雲紫が上半身だけ出していた
「痛めつけたのではなく、痛めつけられたのですよ、八雲様
・・・あれ、『違う世界から来た人』?」
「そう、その子自分で術を組んでわざわざこっちに転移してきたのよ
あの紅い館にいる友達を追って」
「・・・何というか、物好きもいいところですね」
「ま、そう言わずに
そのこの家はすぐ近くだから運んであげなさいな」
それだけ言って、紫は引っ込んでしまった
「全く、幽々子様といい、八雲様といい無茶ばかり・・・」
その後、この話を聞きつけたアリス・マーガトロイドがアリス・ソル・メイディアに家に押しかけた・・・というのは割とどうでもいい話




