Scene15 異世界への誘い
目を開けると、白い天井が目に入った
どうやら私は寝ていたようだ
暫く何も考えられず、ボーッとしていたが、すぐに戦闘をしていたことを思い出した
(私、最後に何か術を放って・・・どうなったんだろう)
起きあがった時の衣擦れの音が聞こえたのか、白衣の看護師さんが入ってくる
さっき起き上がった時に目に入った光景からするに、ここが病院であることにはすぐ気がついていた
「気が付かれましたか?」
「はい・・・」
「少し待っていて下さいね、ご家族の方とお友達の方が丁度いらしてますので、今お呼びします」
そう言うと、看護師さんは僅かな足音を残して出て行った
「おお、目が覚めたのか、心配したぞ」
その言葉と共に、両親とジャスミン、エーデンが入ってきた
「お父さんとお母さんはともかく、ジャスミンとエーデンはいいの?
今日学校あるんじゃ・・・」
「そのことなら心配要りませんよ、アリスさん
どの道お話することがありますので」
話とは何だろうとは思ったが、とりあえず私が目を覚まさなかった為に心配をかけた両親の相手が先だろうと考えた
「本当に、目が覚めて良かったわ
あれから3ヶ月も眠り続けたんですもの」
母が涙を拭いながら言う
「一応あの後、説明はしたんですがね」
「あの後って、どうなったの?」
「それはですね・・・」
「私が例の白衣の男を取り押さえ、エーデンが残りを殲滅したんだ」
「あっ! 私の台詞が!」
「あまり大きな声では言えないんですが、ついでに言っておくと、エーデン・アルバ・イーリィというのは偽名で、龍田小無が本名です」
私は一瞬混乱した
「えっ、どういうこと?」
「そこからが本題だ、とりあえず私はこの世界から別の世界へ向かう
その向かう先との話は付けたんだが・・・」
「その結果が私です」
「・・・なんか一々癪に障るな
で、アリスも一緒にどうだって言うのが本題だ
勿論、アリスのご両親にも既に話はつけてある」
「別の世界って?」
「アリスは世界線って言葉聞いたことあるか?」
「ない」
「なら、まずはそこからだな」
そう言って、ジャスミンは何処からか紙とペンを取り出して、おもむろに何本かの直線を、平行に引き始めた
「いいか、例えば、この線が私達の居る世界の歴史の流れだとする
そして、小無が居た世界はこの線だと仮定する」
そう言いながら先に指差した線の途中に赤色のペンで点を打ち、次に別の線に青色のペンで点を打った
「この2つの世界は互いにパラレルワールドの関係で、基本的に互いを認識することは出来ないし、干渉もできない
加えて、それぞれの世界に質量保存の法則とかが働くから、基本的に一方通行してはい終わりじゃないんだ」
「その2つの世界は互いに不干渉なんだよね
なんでジャスミンがその話を?」
「時々、本来平行に存在するはずの世界がなんらかの要因で接近したり、一時的・・・というか殆ど一瞬なんだが、交わることもあるんだ
その時に一部の存在は向こう側の世界を認識できるようになるらしい
まあ、これもまだ学者たちが必死に研究しているが、まだ理由はわからないらしい」
「そして、その時に何かしら縁がある者同士、精神的に最も接近した状態になるのですが、それを具現化するのに丁度いい環境が、夢を見られる程度の浅い眠りなんだそうです」
「ああ、それで向こうの世界の者と夢で逢って、話をした
で、あっちから誘われたのさ」
「それってどんな人?」
「人ではないな
あっちは純粋な吸血鬼だった
一応500年ほど生きているとは言ってたけど、外見はまだまだ幼子のようだった」
「実際、内面もまだ幼子のうちなんですがね
一応、人間のメイドもいます
・・・というか、その人間がほぼ全て取り仕切っているような状態です」
私は言葉を失った
内面まで幼子の吸血鬼が、なぜジャスミンに興味を持ち、誘ったのだろうか
「あの方は内面まで幼い分、好奇心旺盛で、面白そうな事には食いつきやすいんですよ
反面、いくら面白そうでも興味を示さないことはありますが」
・・・結構滅茶苦茶な吸血鬼のようだ
「ああ、そう言えばこの前2人とも羽生やしてたけど、あれは何?」
「隠しだてるようなことでもありませんし、お話ししましょうか
まず、私は人型をしていますが、人間ではありません」
「そして私も、半分は人間だが、半分吸血鬼なんだ
既に1300年以上生きてる」
「えっ、でも外見は・・・」
「それは私も不思議なんだ
いくら長命な吸血鬼といえど、1000年も生きれば成長しててもおかしくは無い筈なんだ
だが、私は既に数百年、この容姿のまま生きている」
「こっちの世界では稀なことなんでしょうが、あっちの世界にはそういうのが普通に居るんですよ
極端な例で言えば、100万年以上生きて、なお外見が幼い者も居ます」
「ひ・・・100万年!?」
「ええ、そうでなくとも、1000年以上生きている者は結構居ますからね
年が3桁ならまだ若い部類なんですよ」
「それってどんなところ?」
「私たちは『幻想郷』と呼んでいます
あちらの世界での私達にとっては正に桃源郷ですね
尤も、存在を追われた幻の者たちが集う、最後にして最果ての楽園と言った方が正しいのも事実ですが」
「なんでそんなことに?」
「私達のような者は大抵『妖怪』と呼ばれるのですが、あちらの世界ではそれらの存在は科学や文明の発展によって、否定され、幻の存在、人が生み出したまやかしということにされたのです
それを危惧した妖怪の中でも、特に強大な力を持つ者同士が話し合い、力を合わせて作ったのが幻想郷です
尤も、あくまでも結界によって仕切り、その結界の外と中で常識と非常識を殆ど正反対にして出来ているだけですので、もしその中でも存在が忘れ去られたり、否定されれば行き場を失った者は消滅するしかありません
だから最後の楽園と呼ばれるのです」
「それで、行くかどうかはアリス次第だ
一応、脱獄犯を取り押さえたと言うことで、アリスの体調が戻り次第、私達は国から表彰されることになってる
ただ、私が心配するのはそこじゃないんだ
アリスはあの時、短時間とはいえ凄まじい力を発揮しただろ
それに原始の魔導書との契約も恐らく公になるだろう
そうなると、そこに目を付ける奴らが必ず現れる
私は吸血鬼としてはあまりに弱く、人間にしては強すぎる力が原因で迫害を受けてきたからな
・・・正直、迫害の行動そのものよりも、その裏にある思いが嫌だった
吸血鬼たちからは蔑まれ、人間たちからは妬まれ続けた
それが元で今のように力を自由自在に制御する術を身につけたんだがな」
ジャスミンの過去にそんなことがあったとは
妬まれる気分は分からないが、蔑まれるのはよく分かる
そういえば、学校で初めて会ったときから彼女だけは誰とも関わろうとしていなかった
私も他の誰とも関わろうとしなかった
低い魔法能力が原因で酷い目に遭ったこともある
そんなときに助けてくれたのがジャスミンだ
あの時、どうしたのかは知らないが、魔法すら使わずにいじめっこ達をあっさり追い払ってくれたのは明確に覚えてる
それ以来、そういう目に遭わなくなったことも
「ここまで言っておいてアレなんだが、私と一緒に来るか来ないかはアリスに任せる
因みにご両親は『アリスが幸せでいてくれるなら、自分たちが会えなくなっても構わない』だそうだ」
そこまで言い終えると既に退室しかけていた両親とともに、ジャスミンと小無が出て行った
それから、私は暫く考えながらこの病室で過ごすことになった
正直、アリス、ジャスミン、小無視点でそれぞれ別の話を平行させる案もあったのですが、小無がほぼ説明してくれたので、その必要が無くなりました
今更気付いたんですが、龍田小無と作者のイニシャルが被ってます




