表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界で生きる少女  作者: あまね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/20

街の料理に敗北する田舎娘

街を見回していると、ふと人波の向こうが目に入った。

……これでこんなに賑やかなら、王都は一体どうなっているんだろう。


「今、どこに向かっているんですか?」

私はカイテルさんに手を引かれながら、あちこちの店を見回して行き先を確かめた。

「食堂だよ。ジルはもう着いていると思う」

私に合わせてくれたのか、カイテルさんはゆっくりとした歩幅で歩いていた。

おかげで街の屋台をゆっくり覗くことができた。


食堂へ向かう途中、石の絵が看板に描かれた店が目に入った。

……石を売る店かな?

私はそう考えながら、ボーっとその看板を見ていると、カイテルさんは言った。

「この店、入ってみようか」

私の手を引きながら、店に入った。


店に入ると、ただの石ではないことがすぐに分かった。

きらきらと光る首飾りや髪飾り、耳飾り、指輪がカウンターに並んでいた。

「わぁ〜きれい〜」

こんなに輝く石を見るのは初めてだった。

街には、こんな綺麗な石があるんだ。

――でも、きっと高いよね。


「気に入ったものがある?」

カイテルさんは顔を近づけた。

「うーん……この青色の石の長い首飾りがきれいですね。カイテルさんの目と同じ色で素敵です」

「……じゃあ、これを買ってあげる」

カイテルさんは少し顔を赤らめながら、嬉しそうに店の人へ代金を払った。

「……えっ!?ちょっと待ってください!私、お金ないですよ!」

宿代だって足りないかもしれないのに!

「だから、買ってあげるって」

カイテルさんは微笑んだ。

「そのつもりで言ったわけじゃありません!本当に大丈夫です!ただ、きれいだなって思っただけで……」

「俺が喜んで買ったんだ。受け取ってくれ。それとも、俺からのものは嫌か?」

悲しそうに言われてしまい、私はそれ以上何も言えなくなった。

ずるい……。

「こっち向いて」

言われるまま向くと、カイテルさんが笑顔で私を見つめながら首飾りをつけてくれた。

ふわっと頭を撫でられた。

……なんだか、恥ずかしい。

そのとき、妙な視線を感じた。

ふと顔を上げると、入り口近くでファビアンさんが腕を組み、にやにやとこちらを眺めていた。

――見られてる……?

そう思った瞬間、私は一気に顔が熱くなった。



宝石屋での買い物を終えたあと、カイテルさんは他の店にも連れて行ってくれた。

「邪魔者は先に行くよ」

ファビアンさんはニヤニヤしながら去っていった。

……なんの邪魔だろうか。

私たちは食堂へ向かいながら、街のあちこちの店を覗いて回った。

花屋。

雑貨屋。

お菓子屋。

服屋。

どれも、私にとっては初めて見るものばかりで、胸が高鳴った。

――これのどこが、人通りが少ない街なんだろう。

トレストは、とても賑やかに見えた。


「カイテルさん!

街って、すごく楽しいです!

トレストはこんなに賑やかなのに、王都ほどでもないなんて本当ですか?

王都がどんな場所なのか、もう想像もつきませんよ!」

「ふふっ。トレストより、ずっと賑やかだよ」

カイテルさんは楽しそうに言った。

「店も、ここよりずっと多い。リーマはきっと気に入るはずだ。楽しみにしていて。俺が全部連れて行くから」

「約束ですよ!早く王都を見てみたいです。楽しみです!」

「ふふっ、約束だ」

カイテルさんは、いつもの優しい笑みを浮かべた。


そうして、あちこちの店を覗いているうちに、私たちは街の食堂に着いた。

リオとリアも、カイテルさんと私について店に入ろうとしたが、入り口で店の人に呼び止められた。

「申し訳ありませんが、動物は店内に入れません」

その言葉に、この子たちはむっとして、


(オレたちは、ホワイトウルフだぞッ!)

と、やけに偉そうに唸り始める。

それを見て、店の人が一瞬顔をしかめた。

「……犬にしては、大きくないですか?」

「ただの犬だ」

カイテルさんは真顔で言った。

店の人は、じっとリオとリアを見た。

そして、リオに手を伸ばし、リオの体を隠していた毛布を取り外そうとした。

リオは低く唸った。

……ひやりとした。

やばい。

ホワイトウルフちゃんだって、バレちゃう。

「……あ、あの――」

私は止めようとした、そのとき、

カイテルさんは店員の前に手を差し出した。

「うちの犬に何か問題でも?」

店員がびくっとした。

「……いや……ちょっと珍しいと思いまして……」


そして二匹が唸った。

(オマエ、ナニサマ!?)

(ブッコロス!)


……いや。

ぶっ殺しちゃだめだからね。

店員が顔を青ざめ、ささっと店の裏へ逃げた。

……た、助かったっ!


「リオ、リア。大丈夫だから。ここで待っててね。あまり目立ちそうなことをしないでね」

私は二匹の耳元で言った。

「街を出たら、たくさん狩りしてもいいからね。ここは少し、我慢してくれる?」

二匹はしぶしぶといった様子で、店の前で待つことに同意してくれた。

店に入ると、奥の席にジルさんの姿が見えた。

すでにファビアンさんとマーティスさんも到着していて、三人で楽しそうに話していた。

「ジルさん、ファビアンさん、マーティスさん。お待たせしました」

「お帰り〜。街、楽しかった?」

ジルさんが、いつもの元気な声で尋ねてくる。

「はい!初めて見るものばかりで、すごく楽しかったです!」

「トレストくらいでそんなに楽しんでるならさ、王都に着いたら、驚くんじゃない?」

「王都、すごく楽しみです!」

「それはよかった〜。料理、いっぱい頼んだからね。もう少し待ってて〜」

「ありがとうございます。街の料理も楽しみです!」


そこで、ジルさんが少し声を落とした。

「……ファビアンから聞いたんだけどさ。さっき、ちょっとしたトラブルがあったって?」

「ありました!」

私は元気よく頷いた。

「村では絶対に起きないことなので、ワクワクしましたよ!

世の中には、いろんな出来事があるんですね!いい経験になりました!」

「そ、そうなのか……?」

ジルさんは一瞬言葉に詰まり、引きつった笑みを浮かべた。

「……楽しそうで、なによりだな……」

「はい!」


私はるんるんして、街の料理を楽しみにした。

街の料理って、どんなものだろう。

そう思ったとき、運ばれてきた料理を見た瞬間、私はぴたりと動きを止めた。


皿、皿、皿。

――全部、肉料理。


……動物と仲良くなれる能力のおかげで、私は肉料理を食べられない。


――これは、まずい。


とても、大変なことになってしまった。

そのとき、私はようやく気づいた。


――そういえば、私、肉が食べられないって、お兄さんたちに一度も話していない。


「これは全部、この店の名物だよ。すげぇうまいからいっぱい食べてね」

ジルさんはいつものようににこにこして話した。

そんなジルさんに私はできるだけ笑顔で頷いた。

……名物、か。

なんてこった。

村の小屋にいた頃は、私が料理担当だったから、自分が食べられるものしか作っていなかった。

おじいちゃんは好き嫌いがなかったし、ずっと私に合わせてくれていた。

お兄さんたちと一緒になってからも、森での食事は野菜と果物と魚ばかり。

だから、何も問題にならなかった。

――街に来るまで。


ぼんやりと皿を眺めていると、だんだん、胃の奥がむかむかしてくる。


――これは、鶏肉。


(鶏ちゃん……)

可哀想に……。


「リーマ?どうした?食べないのか?」

カイテルさんが声をかけると同時に、私の皿に鶏ちゃんの料理をそっと置いた。


――あ。

うぅぅ……

どうしよう……。

いつも優しくしてくれるカイテルさんが、私のために取ってくれた料理だ。

食べないのは、失礼な気がする。


「……タベマス……」

私は意を決して、スプーンで鶏ちゃんの肉をすくい上げた。

(これは蛇……これは蛇……これは蛇……)

必死にそう言い聞かせながら、口に運ぶ。


――だめだ。


胸の奥がぎゅっと苦しくなって、なんだか、泣きたくなってきた。

(鶏ちゃん……ごめんね……)

「待って待って」

カイテルさんが、私の手をそっと止めた。

「もしかして、この料理、好きじゃないのか?」

少し申し訳なさそうに、眉を下げた。

「ごめんね。俺、先に聞くべきだったよ。リーマ、食べられないものってある?」

「……肉は……だめです」

俯いたまま、それだけをやっと絞り出した。

「肉?」

カイテルさんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。

「そうか。肉は食べられないんだね。

じゃあ、他の物を頼もう。魚は大丈夫だよね?

カニとエビが好きだったよね?ちょっと待っててね」

いつも優しいカイテルさんは、変わらない穏やかな声で言った。

それだけで、胸の奥がじんわり熱くなる。

「……ごめんなさい」

私は小さく謝った。

「今まで気にしたことなくって……言うの、忘れちゃって……」

「いいよ、いいよ、気にしないで」

カイテルさんは、すぐに首を振った。

「俺こそ、ごめんね。先に聞くべきだったよ。

食べられないものがあったら、ちゃんと言ってね。

無理して食べなくていいんだよ」

「……で?」

ファビアンさんが、料理を口に運びながら口を挟んだ。

「どうして、肉を食べられないんだ?」

「……私は、動物と仲いいんです……動物は、私の友達ですから……それで、いつの間にか、食べられなくなっちゃって……」

私は小さな声で、正直に答えた。

「動物と仲良い?」

ファビアンさんが眉を上げた。

「どういうこと?」

「……すぐ、動物たちと友達になれるんです……動物たちは……私の言うことを、聞いてくれて……」

森にいた頃、この話はずっと隠してきた。

だから、怒られないか不安になって、私はちらっと、お兄さんたちの顔を見回した。


――理解はしていないみたい。


でも、誰も怒っていない。

それに気づいて、私は、ほっと胸を撫で下ろした。

(はぁ……よかった)

「えーと……だから、リオとリアも、森の動物もあんなにリーマの言うことに従順なのか?」

「……まあ……はい」

「でも、それで肉を食べられなくなるほどか?」

ファビアンさんは首を傾げた。

「正直、そこまではよく分からないな」

「動物は私の友達ですから」

私は顔を上げて、はっきり言った。

「ファビアンさんだって、食料のために友達のジルさんを殺したり、食べたりしないでしょう?」

「なんで俺だよ!?」

ジルさんが勢いよく突っ込んだ。

「しかも例えが怖いんだよ!」

「……まあ、確かに」

ファビアンさんは少し考えるようにして、言葉を選びながら続けた。

「こいつらを食べるために殺す、って発想はないな……なるほどな、そういう気持ちか」

ファビアンさんは首を傾げながら、頷いた。

でも、急に真顔になって、私をじっと見た。


……いきなり、どうしたの?


「君の能力がわかった」

ファビアンさんはひと口水を飲んだ。

そして、小さく息を吐いた。

「そんな力を持つ者は、百年に一人いるかいないかだ。あまり他言しないほうがいい。わかったな?」

そう言って、ファビアンさんは口を閉ざした。


……百年に一人?


大げさなんじゃ……?


「大げさじゃない」

私の心を読んだようにファビアンさんはきっぱりと言った。

他のお兄さんたちを見回すと、みんな真剣な顔で聞き、小さく頷いた。


……この能力はそんなに珍しいの?

私は思わず唾を飲み込んだ。


そうして何品か追加で注文してくれて、私は無事、街の料理を食べることができた。

――本当に、優しい人たちだ。

その優しさが、胸の奥にじんわり沁みてくる。

「……動物と仲いいって、どんな動物でもか?」

今度はカイテルさんが、穏やかな声で尋ねた。

「全部かどうかわかりませんけど……熊ちゃんとか、鹿ちゃんとか、リスちゃん、ウサギちゃん、鳥ちゃんはすぐ友達になれます」

「珍しい能力だな」

ファビアンさんが、今度は素直に感心したように言った。

「すげぇ羨ましい」

「えらいね」

カイテルさんはそう言って、私の頭を優しく撫でてくれた。

本当のお兄ちゃんができたみたいで、胸が温かくなる。


――だがしかし。


「カイテル、おまえなぁ……」

ファビアンさんが呆れたようにカイテルさんを見た。


が、カイテルさんはファビアンさんを無視して、私の皿に料理を分けてくれた。


他のお兄さんたちは私とカイテルさんを交互に見ていた。

そして、またニヤニヤし始めた。



「?」


……何なんだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ