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この世界で生きる少女  作者: あまね


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5/21

知らぬ道は、連れと行け

……

「あずか、スーパーでしょうゆを買ってきてくれる?今日、買い忘れちゃったの」

「いいよ〜、焼き芋も買ってもいい?焼き芋、食べたい〜」

「だったら芋を買ってきて。ママが焼き芋を作るから。ついでにアイスも二個買ってきて、せっかくだからアイス焼き芋を作っちゃおうか」

「やった〜〜」

……

「あずかちゃん、学校が終わったらマックいかない?」

「めいりちゃん……来週期末テストだよ……」

「あずかちゃん、私は「できる」と思えば何でもできちゃう女だから!毎日、寝る前に『私は合格する』って思っているんだよ?」

「わぁ……めいりちゃんの輝かしい未来が見えてきた気がする……」

「じゃ、行くよね!」

「行かないわよ、図書室に行くわよ!めいりちゃんもね!」

「いやーーー!」

……

……


ふと目が覚めた。

私はしばらく、ぼんやりと木々の隙間を眺めた。

さっき夢を見たような気がする。

なぜか、胸にぽっかりと穴が開いたように苦しい。

……なんだか変だわ。

空を見上げると、ほんのりと明るい。


――朝?


そう思った瞬間、少し離れた場所に黒い影が立っているのが見えて、私は思わず悲鳴を上げそうになった。

何かを失ったような、空しさはいつの間にか消えた。

目をこすって、もう一度よく見た。

はぁぁ……カイテルさんだった。

見張りをしていたのだろうか。

確かに、こんな森の中では、誰かが見張っていないと危険だよね。


私はリオとリアを起こさないように、そっと息を整え、静かに寝袋から抜け出した。

「カイテルさん、おはようございます」

「リーマ、おはよう」

カイテルさんは笑顔で挨拶してくれた。

「起きるの、早いな」

「慣れです。顔を洗ってきますね」

「あまり遠くに行かないでね」

「はーい」

私は川に向かった。


みんなが起きるまで、まだ少し時間がある。

何をしようかと思い、私はぶらぶら歩きながら、珍しい植物を探しては、絵を描き始めた。

「何をしているんだ?」

暇だったのか、カイテルさんが私の隣まで歩いてきて話しかけた。

「この薬草の絵を描いています」

「薬草が好きなのか?」

「はい、でもこれは好きというより、ちゃんと覚えるために描いているんです」

「真面目だね」

「ただ、好きなことをしているだけですよ〜」

「リーマは、他に好きなものがあるのか?」

「うーん……動物が好きですね〜」

「そうなんだ。じゃあ、好きな食べ物は?」

「うーん……魚とかカニとかですね〜」

カイテルさんは、思いつくままにあれこれ質問してくる。

私は植物の絵を描きながら、その一つ一つカイテルさんに答えていた。

そうしているうちに、背後から物音がし始め、他のお兄さんたちもそろそろ起き出したようだった。



「魚を焼いたから、リーマも食べて」

ジルさんが、焼き魚を私に手渡してくれた。

お兄さんたちは、みんな魔法が使える。

ファビアンさんが、魔法でさっと火を熾すのを見て、私は思わず口を尖らせてしまった。

「いいなあ。魔法、使えて……」

ちょっぴり、いや、結構へこんだ。

そのあと、お兄さんたちはなぜかちょっとした魔法披露会を始めた。

風を起こし、水を出し、土で人形まで作ってみせた。

……うらやましすぎる。


この世界には魔法というものがある。

けれど、誰でもできるわけではない。

私はというと……魔力はきれいさっぱり皆無だ。

以前、おじいちゃんが土の魔法を使えると知って、「教えて!」と駄々をこねたことがあった。

「魔力のない人間が、五年、必死に頑張り続ければ……まあ、土を一粒ぐらいは出せるかもしれんな」

その一言で、私はあっさり諦めた。


「ありがとうございます」

私は焼き魚を受け取り、美味しくいただいた。

「そういえば、君はどうやってホワイトウルフたちとあんなに仲良くなったのか?」

ファビアンさんが、ごはんを食べながら聞いてきた。

「うーん……特に何もしなかったんですけど」

私は少し考えてから答えた。

「何日か前に、たまたまリオとリアに会って声をかけてみたら、仲良くしてくれました」

「ホワイトウルフは、人間が挨拶したからといって、すぐ懐くような動物じゃないんだが……」

ファビアンさんは眉間に皺を寄せた。

「うーん、わかりません」

私は曖昧に笑って、少し誤魔化した。

私は、自分が動物たちとすぐ仲良くなる力を持っていることを、もちろんちゃんと自覚している。

このお兄さんたちは優しい人たちだと思う。

でも、昨日の夜に会ったばかりの人たちだ。

だから、この力のことは話したくない。


朝ご飯が終わると、早速出発することになった。

お兄さんたちと一緒に行動すると、私とリオとリアだけの時よりも、移動が速い。

なぜかというと、絵描きと野菜採りという名の寄り道が、あまりできないからだ。


珍しい薬草を見つけるたびに――

「うわっ!ねぇお兄さん、見て見て!」

私は植物に指をさしながら、勢いよく話し始めた。

「この桃色、すごくきれいでしょう?

夜になると光るんです!

ほらほら、めちゃくちゃ美味しそうじゃないですか?

でも食べちゃったら、下痢になっちゃうみたいです!

私は実際に食べたことがないから、本当に下痢になるかどうか分かりませんけど、

お兄さんたちが気になるなら、遠慮なく食べてみてくださいね!

あっちにも生えていますから、お兄さん四人分、全然足りますよ!」

お兄さんたちにその植物のことをぺらぺらと解説しながら、私はその植物に飛びつき、イキイキと絵を描き始めた。

「何が『足りますよ』だよ。下痢だろうが」

誰かが、ぼそっと呟いた。

「ふふふふっ」

誰かが、こらえきれずに吹き出した。


私が絵を描くのと採取を終え、再び歩き出そうとした、その時――

「はっ!お兄さんお兄さん!お、お兄さん!あああああの花っ――!きゃっ!痛いっ!」

私がその花に飛びつこうとする前に、マーティスさんに首根っこを掴まれてしまった。

何度も植物に飛び込んでいるうちに、どうやらマーティスさんはついに我慢の限界だったらしい。

か弱い女の子の私にも容赦なく、首根っこを鷲掴みにしたまま歩き出し、強引に私を前に出す。

「ちょ、ちょっと待ってください!

あ、あれはですね!

すごく!

すっっっごく珍しい花なんですよ!

い、一生に一度、見られるかどうかの花なんですよ!

ちょっとだけ!

マーティスさんちょっとだけ――!

って痛い痛い痛いっ!いたーーいっ!!」

私の必死の懇願は、ことごとく森に吸い込まれていった。

「もうーーーーーーーっ!いつかおじいちゃんにお土産話にできるかもしれないのにっ!」

「わかったから、早く歩け」

「私が七十歳のおばあちゃんになっても、二度と見られないかもしれないのにっ!」

「君、いつもこんな調子で森を歩いていたのかよ。

だから十日間も森の中を彷徨う羽目になるんだな。納得したわ!」

「……」

私はマーティスさんにぷんぷん怒り、頬を膨らませて、もう口をきかないと心に決めた。

チラッとマーティスさんを睨み、ぷいっとそっぽを向いた。

「痛っ!」

私の頭にいきなりげんこつが落ちた。

けど、別に痛くない。

「大げさだ。痛くないんだろう。人の話を無視するな」

「騎士なのに、か弱い女の子に暴力を振るうとか騎士失格です!

これは騎士が一般市民にすることですか!?」

私は振り返って、指を突きつけた。

「大げさだ!俺は軽く叩いただけだろう!」

「じゃあ、リオにマーティスさんを”軽く”叩かせてみてもいいですか?」

「……」

マーティスさんは観念したように息を吐いた。

「わかったわかった。頭を叩いて悪かったよ」

「ふーん」

私は腕を組み、思案気に考える――ふりをして言った。

「まあ、私は優しいから、今回は許してあげてもいいです。二度目はありませんからね」

「……調子に乗るなよ」

マーティスさんが、ぎょろりと私を睨んだ。

こわっ!

調子に乗りすぎたか……。

その様子を見ていた他のお兄さんたちは、少し後ろで――

盛大に爆笑していた。


村を出る前に、おじいちゃんはデリュキュース国のことを少しだけ教えてくれた。

デリュキュース国は、六つの大きな街で構成された国だ。

王都――プロメル。

その王都を囲むように――

北にヘラクレム。

東にバンデ。

南にマラーヤ。

南西にドラウネ。

そして、西にトレスト。

頭の中で、おじいちゃんが描いてくれた地図を思い浮かべた。


私にできそうな仕事といえば、おそらく薬の仕事ぐらいだ。

じゃあ、どの街に行けば、薬の仕事ができるのか――

それを、ずっと考えていた。


「何を考えているのか?」

いつの間にか、私の隣を歩いていたカイテルさんが声をかけてきた。

どうやら、私の真剣な顔に気づいたらしい。

「うーん……どの街に行くかとか、街でどうやって仕事を見つけるかを考えていました」

「もし行き先を決められないなら、俺たちと一緒に王都に行こうよ。

王都なら仕事がたくさんあるし、仕事のことで困ることはまずないからね」

「うーん、でも王都が遠すぎる……」

「ドラゴンに乗れば、一日もかからないよ」

「それでも……遠すぎると、いつか村に帰る時、大変……」

「でも王都ならリーマが一人じゃなくて、俺もいる。何かあったら俺がすぐ助けられる。

だから、王都の方が絶対にいいよ」

カイテルさんは、当たり前のことのように言った。

「……確かに……知っている人がいたほうが、安心はしますけど……でも、迷惑なんじゃ……」

「そんなことを考えないで。全然、迷惑じゃないよ。

まずは王都に行って、一緒に考えよう。

宿のことも、気にしなくてもいい。俺の家に住めばいいよ。

部屋もたくさんあるし、両親もいるから心配いらない。

両親もリーマに会えたら、きっと喜ぶと思うよ」

カイテルさんは、本当にありがたい提案をしてくれた。

やっぱりカイテルさんはすごく優しい。

「安心して。王都で絶対うまくいくからね」

私を心配させないように、慰めてくれた。


――完全に妹扱いである。

村でも私は、孫扱いか、娘扱いか、妹扱いばかりだった。

だからだろうか。

この感覚がなんだか懐かしくて、無性に村の人たちに会いたくなってきた。


……だがしかし。

なぜか、他のお兄さんたちが、私とカイテルさんを見て、急にニヤニヤし始めた。


さらに、リオとリアまで突然、

『ぐるうううッ!』(イナカムスメから、ハナレナサイッ!)

と、低い声で唸り始めた。


私は――

ついに、リオとリアに「田舎娘」と呼ばれてしまった……。


完全事実だから、反論できない……。


……っていうか、どうしてみんな一斉に?


「ありがとうございます。カイテルさんはすごく優しいです」

私はそう言ってから、少しだけ言葉を選んだ。

「でも……カイテルさんに迷惑をかけたくないですから、宿に泊まりますよ」

「全然迷惑じゃないからね」

カイテルさんは微笑んで、また私の頭を撫でた。



……やっぱり、完全に妹扱いである。


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