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この世界で生きる少女  作者: あまね


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4/19

袖すり合うも他生の縁

リオとリアは突然立ち上がり、低く唸り始めた。

二匹の視線は森の奥へ一点を睨みつけた。


(ニンゲン、クル)

リオは一歩前に出て、リアが私のそばについた。


「え?人間?こんなところに?」

しばらくすると、ほんのり薄暗い森の奥から足音と話し声が聞こえてきた。

思わず悲鳴を上げそうになる。

その人影が私のいる川辺に姿を現したとき、男が四人いることがわかった。

男は警戒しながらゆっくり歩いてきた。

腰の剣に手をかけている。


(お、男!?

しかも四人!?

どうしよう!?

な、なんでこんなところに!?

街の男は最低最悪だって!

全員、剣を持っている!

大変だ、どうしよう!?)


私は、無意識にそばにいたリアをぎゅっと強く抱きしめた。

(……イタイッ!)

リアが小さく唸った。


ご、ごめんね……。


私は男たちへと視線を戻し、どうすればここから逃げられるかを必死に考えた。

しかし、男たちは私たちの姿を目にした途端、なぜかその場で硬直し、ただ私を凝視している。


(ウセロ!)

リオはゆっくり四人の男に近づいた。

「リオ―――っ!まだ何もしないでね―――っ!」

私は小さく叫んだ。

リオは止まり、その場で男を威嚇した。


だが、その四人の男はリオを気にする様子もなく、ずっと私を凝視していた。

私も男をじっと見据えながら、頭の中で必死に逃げ道を探した。

驚きすぎたせいか、私は一周回って、今ものすごく落ち着いている。

……弓。

……短剣。

手に届かないところに置いちゃった。

取りにいったら、露骨すぎるかな。


シ――――――――ン


……えーと、なんか言って。

あっいや、何も言わない方がいいか。

このままお互い何も話さず、お互いがまるで存在しないように振る舞えた方が安全よね。

うんうん、そうしよう。


しかし次の瞬間、四人の男が我に返ったかのように声を上げた。

「えっ!?ど、どうしてあの子がここにっ!?」

「まぼろし?」

「まさか、あのとき……?」

「……あずか……?どうして……ここに……?」

四人それぞれ反応した。


「……」

……あずか?

って誰よ!?

驚きたいのはこっちなんだけど!


そう心の中でツッコミを入れながら、私は黙ったまま、四人の男をジロリと睨んだ。

「えーと……あず……じゃなかった。君ひとり?」

四人の中で、いちばん小柄な男が私に話しかけてきた。

「……この子たちも一緒です」

私はリアとリオをちらりと見てから、男たちへ視線を戻した。

「あなたたちは誰ですか?

どうしてこんな時間にこんなところで?

何をしに来たんですか?

ここは森の中ですよ?」

少し考えてから、私は首を傾げた。

「あっ、わかりました。迷子ですね?」


「いや、それ、俺たちのセリフなんだが……」

「??どうしてそれがあなたのセリフなのかはわかりませんけど、先に言ったのは私ですよ?」

「……」

さっき話した男が、むっとした表情になった。

お、怒らせちゃった?

こ、ここで殺されちゃう?

「ふふっ。俺たちは王都の騎士だよ」

金髪の男が、場の空気を和らげるように笑った。

「仕事を片づけて、王都へ戻る途中なんだ。

ちょうどここで一泊しようと思ってね。

俺の名前はカイテル。

さっき話したのがジル。

背が高いのがファビアン。

茶髪がマーティスだ。

よろしくね。君の名前は?」


金髪の男はニコニコしながら、先に仲間たちの名前を教えてくれた。

さっきから、この人はずっとニコニコしている。

何だか嬉しそうで、優しそうで……。

いい人、かも。

なんか、安心し――。


……あっ、いやいやいやいやいやっ!


街の人は残酷で冷酷で嘘つきで、信用しちゃいけないって、

おばあちゃんも、おじいちゃんも、お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、散々言ってたじゃない!?

この人たちを信用しちゃだめ!

だめだめ!

これは嘘の笑顔かもしれないよ!

まだ森を出てないのに、ここで街の人に騙されちゃだめよ!


「……私はリーマと言います。前の子がリオ、この子がリアです」

「リーマ?」

男は首を傾げた。

他の三人は一瞬、お互いの顔を見て、眉間に皺を寄せた。

「……君の名前は、リーマ……なのか?」

……そうに決まっているでしょう?

他に何があるわけ?

「……はい。あなたたちは……ここに泊まるんですか?」

……お願いだから違うって言ってくれ。

「そうだよ。もうこんな時間だし、これ以上歩くと危ないからね。リーマはどこに行く途中なんだ?」

カイテルと名乗った男が、私のほうへ一歩近づいた。

その瞬間、リオとリアがさらに唸り声を強め、威嚇した。


え―――っ!

本当にここに泊まっちゃうの!?

どうしようどうしようどうしよう!?

リーマちゃん、大ピンチ!


「そのホワイトウルフを、止めてくれないかな?

俺たちは、リーマに悪いことをするつもりは絶対にないから」

カイテルさんはそう言って、私に向き直った。

「……ホワイトウルフ?」

私はリオとリアを見比べる。

「へぇ〜リオとリアって、ホワイトウルフちゃんなんだ。

知らなかった。初めて見たよ。教えてくれても良かったのに」

私がリオとリアにそう言うと、二匹は私をちらりと見て、ドヤっと胸を張った。

ホワイトウルフちゃんは凶暴で力強く、誇り高い動物だと、おじいちゃんから聞いたことがある。

リオとリアは、自分たちがやっとホワイトウルフちゃんだと私に認識されたのが、よほど嬉しいらしい。

ホワイトウルフちゃんって案外単純な動物なのね。

可愛いんじゃないの。


「なぁ、そろそろそのホワイトウルフを止めてくれないか?

せっかく君と会ったんだ。ゆっくり話そうよ」

私がなかなかリオを止めないのを見て、ジルという男がそう言ってきた。

「どうして私は、知らない人の言うことを聞かなければならないんですか?」

私はカイテルさんにそう問いかけながら、腕の中のリアを撫でる。

「理由を、三つあげてみてください」

……私、ちょっと調子に乗りすぎてない?

もし万が一、街に入ったら、こうやってついつい強気になっちゃう癖、ちゃんと直したほうがいいわよね。

「お、俺たちは……!」

カイテルさんが一歩前に出て、必死な口調で言う。

「俺たちは、絶対にリーマに悪いことをしない!

俺は、リーマのことを知りたい!

それに……リーマと、ちゃんと話がしたい!」

彼は息をつく間もなく、言い切った。

「……こ、これで、三つの理由だっ!」

「……」

「俺たちがリーマに何かよくないことをする前にさ……」

カイテルさんは、今にも泣きそうな顔で続ける。

「そのホワイトウルフたちに、やられると思うよ。ね?そろそろ止めてくれない?」

必死なカイテルさんとは反対に、なぜか他の三人はカイテルさんを見て、肩を震わせている。

カイテルさんに視線を戻すと、カイテルさんは懇願したような視線で私を見ていた。

……うーん。

なぜ私がカイテルさんをいじめているみたいになっちゃったのかしら。

「……リオ、こっちに来て」

私がそう言うと、リオはすぐに私のそばへ戻ってきた。

リアも、それに合わせるように威嚇をやめる。

確かに、この人たちが私に何かしようとするなら、リオとリアは私を守ってくれる。

四人がかりでも、ホワイトウルフと戦いたくないと言うくらいだから、私は絶対安全だ。

「ありがとう。俺の名前は……」

カイテルさんは、そう言いながら私のすぐ近くに腰を下ろした。


……ここに座る前に

「ここに座ってもいいか」

と、一言くらい聞いてほしかった。

そしたら私は

「いや、ダメです。あっちに行ってください」

って、言えたのに……。


「はい、カイテルさんですね。そっちはジルさん、高いのがファビアンさん、茶髪がマーティスさん……でしたっけ?」

「……覚えてるのか?」

「私は、けっこう物覚えがいいですよ」

「よ、よかった」

カイテルさんは、少し引きつった笑みを浮かべた。


そのあと、私はこの四人の男にいろいろ質問され、いろいろ聞き返した。

そうしてひたすらこの人たちと話しているうちに、だんだん慣れてきて、警戒心が少しずつ溶けていった。

今は、私は彼らを「お兄さん」と呼ぶようになっている。

私は村のおじいちゃんおばあちゃんから、街の人の怖いことしか聞いていないから、めちゃくちゃ警戒しすぎていたのかもしれない。

このお兄さんたちは、優しい人たちだと思う。

「とりあえず一緒にトレストまで行こう」

ジルさんが言った。

「後のことは、着いてから考えればいいよ」

「そうだな」

マーティスさんも頷いた。

「君はトレストに行くんだろう?俺たちもトレストに向かっているんだ。

トレストまで一緒に行こう。後のことはトレストに着いてから考えよう」

「それに君は、さっきから眠たそうだ」

ファビアンさんが私を見て言った。

「今日はもう休め。また話そう」

いつの間にか、私たちは一緒にトレストまで行くことになった。

「お兄さんたちはどこで寝るの……?」

「君は、ここで寝ろ」

マーティスさんが、淡々と言った。

「俺たちはあっちにいる。君の傍にはホワイトウルフがいるんだから、心配する必要はないだろう」

「……うん、はい」

そうと決まると、お兄さんたちは、私がいる場所の向かい側へと歩いて行った。


向かい側で、小さな声で話し合うお兄さんたちをぼんやりと眺めながら――

私は、そのまま静かに眠りに落ちた。


……トレストか。


このときの私は――

正直、まだ森を出る気がなかったんだよね。


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