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この世界で生きる少女  作者: あまね


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23/24

名推理、してしまいました。

最近の王宮は、初めて来たときより、なぜかずっと警備が厳しくなっていた。


以前、麻薬団員の毒盛りの件でここへ来たときは、王城に入るときと王宮に入るときだけ、身元を確認される程度だったのに。


でもここ最近は、王城に入る前にも王宮に入る前にも、

行き先や要件を聞かれ、さらに鞄の中身まで必ず確認されるようになった。


お父様のいる国防省に入るときも同じで、身元確認と持ち物検査が当たり前のようになっていた。


不思議に思って、

「最近、ずいぶん厳しいですね。何かあったんですか?」

と、以前カイテルさんに聞いたことがある。


すると、

「うーん、まあ……ちょっとね……」

と、曖昧な返事が返ってきた。


――あっ、これは深く知らないほうがいいやつだ。


そう察して、それ以上は聞かないようにした。


「今日もありがとうな。昨日、ほとんど寝てなかったんだろう。早く帰って休むようにしなさい」


私はいつも通り、今日の七人の状況をお父様に報告した。


「今日は少し休みをもらいましたから、私は平気です。

それより、お父様のほうが顔色が悪い気がしますが……」

「あぁ、麻薬事件だ。また面倒なことが起きてな」

「そう、なんですね……」


その面倒なことが何なのか、ものすごく気になる。

でも、聞けない。


これ以上お父様の邪魔をするのはよくない。

そろそろ、大人しく失礼しよう。


「……では――」


失礼します、と言おうとした、そのとき。



――コンコン。


「アーロン大臣、エミール副団長がお見えです」

お父様の秘書さんが、そう報告した。


「通せ」


「失礼いたします。アーロン大臣、ルーカス・ブローカスの事件で、至急ご報告が――」


騎士団の副団長さんは、途中で私に気づいて言葉を切り、ちらりとお父様に視線を送った。


あらあら、もしかして……?


「リーマは大丈夫だ。報告を続けよ」


部外者の私がいるから、話していいか迷ったんだね。


「……あぁ。大噂のリーマさんですか?」


エミール副団長はさっきまでの真剣な表情から一転した。

ニヤニヤしながらカイテルさんをちらっと見て、そして私に声をかけてきた。


「初めまして。騎士団本部副団長のエミールです。以後お見知り置きを」


「……は、はい。よ、よろしくお願いします」


……大噂?

いい大噂だといいなぁ。


「では、ご報告いたします」

エミール副団長は、また一瞬で表情を引き締めた。


「一昨日の朝に発見された焼死体ですが、まだはっきりとルーカス・ブローカス本人と断定はできていません。

ただ、遺体の服に付いていたブローチは、間違いなくルーカスのものだそうです」


しょう……したい?

しょう?死体?

……傷?

……焼?


……あぁ。


焼・死・体、ね。


誰かが焼かれて死んだ、ってこと……?


「そのブローチにはブローカス家の紋章が彫られており、一つしか存在しないものです。

ルーカスが四六時中身につけていたと、ブローカス家のメイドが証言しています」


ルーカス・ブローカス……?

……誰だろう。

焼かれて死ぬなんて……可哀想。


「ブローチ以外に遺体がルーカス本人だと断定できる要素はない、ということだな?」

「はい。ただし、ルーカスの専属メイドはその遺体がルーカスで間違いないと強く主張しています」

「なぜ、そこまで言い切れる?」

「三年間専属として仕えていたため、体格や体の傷跡を記憶しているとのことです」


……専属メイドと旦那様。


恋愛小説でそんな設定、よくあった気がする。

身分違いの恋とか、密かな想いとか、なんとか……。


……もしかして、その二人も?

私は、エミール副団長の真剣な報告を聞きながら、うっかりそんな妄想を始めてしまった。


「他の使用人は?」

お父様は指で机を軽く叩きながら、さらに質問をした。

「遺体の損傷が激しく、はっきりとは分からないが、恐らくルーカスだろう、という態度でした」

「ルーカスの手は見つかったか?」


手?


「いいえ、まだ見つかっていません」

「手は、おそらく適当に森などに投げ捨てられていたのでしょうね〜」


ウィリアムズさんは、相変わらずのんびりした口調で言った。

こんな物騒な話の真っ只中でも、まるで世間話でもするかのように、口調がまったく変わらない。


……えっ。

焼かれて死んだうえに……そのあと手まで切られたってこと?


「そうだろうな。手はもう期待薄だろう。犯人の目星は?」


「ブローカス家には、執事から庭師まで八人の使用人がいました。

現在、七人は屋敷に残っており、取り調べを行っています」


エミール副団長は、淡々と続ける。


「ですが、庭師だけが一昨日から姿を消しています。

さらに三日前、その庭師はルーカスにひどく殴られていたそうです」


……殴られて?


ふむふむ。


「ルーカスに怨みを持っていた可能性があります。

そして庭師が姿を消したのはちょうどルーカスが殺された夜――時間的にも一致しています」


……なるほど?


「ふむ……しかし、あの男が簡単に殺されるような人ではないが……庭師は、どんな人物だ?」


「五年前からブローカス家で働いていたそうです。

最初は道具の修理や家の修理、使い走り、御者など——いわゆる何でも屋でした。

しかし二年前、屋根の修理中に転落事故を起こし、両手を骨折。

大怪我を負ったため、何でも屋の仕事ができなくなりました」


……両手を?


「その後、ちょうどルーカスが庭師を探していたため、庭師として雇われることになったそうです」


……ふむふむ。


三日前に雇い主にぶん殴られて、

怨みを募らせて、

一昨日その雇い主を焼き殺して、

しかも、自分を殴ったその手まで切り落とした……。


じゃあ、犯人は庭師確定じゃないかな?


私はそう思いながらも、お父様を見ると、どうにも納得していない様子だった。


……どうしてだろう?


死んだ人は誰なんだろう。

気になるね。

まあ、教えてもらっても知らない人だろうから、別にいいけど。


「現在も、その庭師を探していますが、まだ見つかっていません」


つまり、現在、絶賛逃亡中、と。


私は完全に他人事のまま話を聞きながら――

ふとある推理をひらめいた。


(……あっ!)


そっと手をポンと叩く――心の中で。


この推理って……


すごくかっこよくない!?

名推理じゃん!?

この短時間で、こんなかっこいい名推理をひらめくなんて……

この名推理、あとで忘れないようにお土産話リストに追加しとこう〜。


そう決めて、私はこっそり心の中で自分を賞賛しながら、改めてお父様とエミール副団長の話に集中した。


「……リーマ、ニヤニヤしているが、どうした?」

お父様は怪訝そうに私を見た。


「……っ!」


……えっ!?


わ、私、ニヤニヤしてた!?

お父様の前で!?

カイテルさんの前で!?

ウィリアムズさんの前で!?

しかも初めましてのエミール副団長の前で!?

みんな真面目な話をしているのに!?

私だけニヤニヤしてるとか最悪じゃない!?


そう気づいた瞬間、顔が一気に熱くなった。


「え、えーと……い、いいえ。何もありません……」


私は小さな声で答え、俯いた。

手が無意識にドレスをぎゅっと握った。

今の私の顔は――絶対真っ赤だ。


恥ずか死ぬ……。


「何か思いついたのか?」


カイテルさんはいつも通りの優しい声で聞いてきた。


でも今回は……聞かないでほしかった。


違うの。

絶対違うの。

絶対違うから恥ずかしいの――っ!


そう思うと、私はさらに俯き、顔を横に小さく振った。


「さっきの話、リーマはどう考える?」

お父様は微笑んで、温かい目で私を見た。


……その優しい眼差しの裏で、私はどう映っているんだろうか。


「……ちょっと、面白い仮説を思いついただけでして……」


「そんなに面白いのか?……どんな仮説だ?」


私は小さく息を吸って、覚悟を決めた。


「えーと……例えばですが……その死んだ男は、実は――」


一度、しれっとお父様たちの反応を見て――


「自分が殺されたように見せかけるために、庭師を殺して、その手を切断して、死体を焼いて……

そして、その死体に自分のブローチを付けた……とか……?」


シ――――――――――――――ン。


お父様も、カイテルさんも、ウィリアムズさんも、エミール副団長も――

四人そろって硬直し、誰一人として口を開かない。


……は、恥ずかしいっ!


誰か反応してくださいっ!


「……ど、どういうことだ?」

しばらくの沈黙のあと、お父様がようやく言葉を探しながら口を開いた。


「死体が誰だったのかを隠すために、焼き殺したんだと思うんです……」

私は俯きがちに話した。


「でも、その庭師は二年前に手を大怪我していましたよね?

ただ焼いただけだと、あとで『これ、本当に本人?』って疑われるかもしれません」


話しているうちに、だんだん楽しくなってきてしまい、声も次第に大きくなっていく私がいたのだ。


「だから――誰にも気づかれないように手首も切ったんじゃないでしょうか!?」


やっぱりこの名推理、結構かっこよくない?


「……なるほど……」

お父様は眉間に皺を寄せ、何かを考え込んだ。


「つまり、死んだのは庭師で、実際に行方不明――というか逃げているのは、あの男のほうです!

この仮説、どうですか!?

面白いと思いませんか!?

庭師が逃亡しているって聞いた瞬間――

私、すぐにこの名すい……仮説を思いついちゃって!」


「……」


四人とも、じろりと私を見つめた。


「庭師を殴った事件も、計画の一部だったのかもしれませんね〜。

庭師に動機があるように見せるために!

つ・ま・り、計画的殺人ですっ!」


「……」

四人は黙ったままだった。


……まったくウケてない。


「なるほど……そういう見方もあるんだな。確かに……面白い……」

お父様は両手を組んで、顎についた。


……おっ!

お父様は面白いって言ってくれた!


「あと、あの専属メイドも怪しいと思います。

焼死体だと、本当に自分だって誰かに証明してもらわないと困りますよね?

だから、共犯のメイドに、『これはご主人様です』って言わせたんじゃないでしょうか。

利害関係者とか……?恋人とか……?」


私は聞かれてもいないことをペラペラ話し続けた。

もう完全に、自分の中で盛り上がりすぎて止まらない。


「……なるほど……なるほど……」

お父様は何度も頷いた。


「……その男を捕まえるには、どうすればいい?」

カイテルさんは静かに口を開いた。


「うーん……専属メイドを尾行するのはどうでしょうか?

もし協力しているなら、あとでどこかで落ち合うかもしれませんし……

国外とか、海の向こうとか……一緒に逃げる可能性もありそうです〜」


身分差の恋愛といえば、駆け落ちが定番だもんね。


「なるほど……」

カイテルさんも頷いた。


お父様はエミール副団長に視線を送り、静かに頷いた。

エミール副団長は真剣な顔で頷くと、そのまま執務室を出ていった。


……今の視線と頷き……どういう意味だろうか?


まさか、私の名推理、採用されちゃう?


「リーマ、ありがとう」

お父様はふっと微笑んだ。

「参考になったぞ。もう帰って休んでいいよ」


本当に参考になったかは分からないけれど、素直に帰ろう。

これ以上、お父様の大事な時間を取るわけにはいかない。


「はい、お父様。お邪魔しました。失礼します」


そしてカイテルさんと一緒に、執務室を後にした。


でも、執務室を出る直前に見たお父様たちの顔は、私の名推理を面白がっている顔には見えなかったな。

少しでも役に立てたら、いいけど。



このときの私は、自分の名推理がどれだけお父様に役に立ったのか、まだ知る由もなかった。


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