置き去りにされたスープ
王宮でお父様と話した翌日。
王立病院での七人の看病は、まず食事の準備から始まった。
水分をしっかり摂ってもらうため、スープやお粥などの水分の多い料理を患者たちがいる小屋の隣で調理する。
七人ともほとんど体力がなく、意識も朦朧としていた。
私やカイテルさん、そして騎士たちで一人ずつ食べさせることになった。
ところが……
カイテルさんを含め、男性騎士たちはどうにも手が荒く、病人相手でも容赦がない。
見ていられず、途中から男性騎士には下がってもらい、女性騎士にチェンジしてもらった。
「リーマ……ごめんね……もう一度、チャンスくれる……?」
カイテルさんはしょんぼりとした様子で謝ってきた。
普段はあんなに優しいのに、相手が男性だと、どうしてああも容赦がなくなるのだろうか。
「り、リーマちゃん……ご、ごめんね……僕たち男だから……力加減がうまくできなくて……」
別の男性騎士もおずおずと謝ってきた。
私は病人たちに謝るべきだと思った。
「大丈夫ですよ。七人の護衛をお願いしますね」
とにっこり笑い、病人たちの代わりに許してあげた。
料理と水だけでは水分が足りないと思い、排尿を促す効果のあるヒューナー草を思い出した。
王城の医療室と病院の薬局から大量のヒューナー草をもらい、鍋でハーブティーを作った。
そして私と女性騎士たちは七人に半ば無理やり飲ませた。
「ふぅ……」
午前の仕事がひと段落すると、背伸びをして一息ついた。
七人の看病はそれほど忙しくない。
騎士の交代時間になると、話しかけてくる者もいるが……
「こいつら無視していいよ。空気でも、マムシでも、思ってもいいよ」
カイテルさんは真剣な顔で、仲間の騎士たちの前で堂々と何度も言った。
「……カイテルのヤロウ……」
誰かが歯を噛みしめて呟くのが聞こえた。
「……でも皆さんがカイテルさんの大切な仲間ですから、無視するわけには……」
騎士たちはカイテルさんの仲間で、この仕事には協力が必要だ。
食事を運び、七人の体を拭き、飲み物を飲ませる。
私とカイテルさん二人だけでは無理だ。
リオも護衛として来ているけれど……ホワイトウルフちゃんなので、
いつも偉そうに病室のド真ん中で寝そべったり、
前足で頬杖をついてつまらなそうに欠伸したりする。
まったく戦力にならない。
私がそう言うと、騎士たちはドヤ顔でカイテルさんを見た。
けれど、カイテルさんはただ微笑んだ。
「なるほどね。リーマは、お・れ・のためにこいつらに優しくしてやっているんだね。やはりリーマは優しいな」
カイテルさんは微笑みながら私の頬を撫で、他の騎士たちにも笑顔(?)を向けた。
私がちらっと騎士たちを見ると、先ほどのドヤ顔は消え、鬼のような目でカイテルさんを睨みつけた。
「ブッコロ……」
とか何とか、物騒なことも呟いていた。
……カイテルさんが他の騎士たちと仲良く喋るのを見たことがない……気がしなくもない。
幼馴染のお兄さんたち以外だと、カイテルさんは他の騎士と犬ちゃん猿ちゃんの仲になっちゃうのかしら。
私が病院に通うようになって数日が経ち、毎日順調に過ぎていった。
しかし、ある日の朝——
病院に到着すると、夜勤当番のイヴァンさんが話しかけてきた。
「リーマちゃん、夕べここにスープを送ってくれた?」
「……夕べですか?……スープ?いいえ……送っていませんが……」
私は首を傾げた。
「やはりね〜。昨日リーマちゃんが帰った後、男の人がここにスープの鍋を持ってきたんだ。
自分がメイソン家の人間だと言って、リーマちゃんからその七人と僕たちの夜食にってさ」
「……えっ?いいえ……私は特に何も……」
「おかしいと思ったよ。手紙もなかったし……帰る前に隣の小屋で作ればいいのにって思ってさ。
だから食べずにあっちに置いてあるんだ」
イヴァンさんは病室の隅を指さした。
毛布に覆われた何かが、そこに静かに置かれていた。
私がカイテルさんに目を向けると、カイテルさんも首を横に振った。
……カイテルさんも知らないらしい。
「リーマちゃん、安心してね。僕はその男にすでに後を付けさせて泳がせているんだ。
リーマちゃんが送ってきていないなら、ちゃんと逮捕するから」
「アーロン大臣に報告したのか?」
カイテルさんは眉をひそめた。
「あぁ、心配ない。あの男のこともスープのことも報告済みだ」
イヴァンさんは、謎の男が運んできたスープの鍋のところに連れて行ってくれた。
私は鍋のふたを開けた。
――その瞬間、猛烈な腐敗臭が鼻を突いた。
「うぅぅ……」
私とカイテルさん、イヴァンさんは、思わず同時に唸った。
リオでさえ、
(くせぇ――っ!)
と、後ろから吠えた。
鍋の中の液体は鮮やかに青緑色に変色し、食材はほとんど腐敗していた。
何か……妙に青くない?
食欲をそそる色ではなく、明らかに「危険」の色だ。
毒が混入しているのが一目でわかった。
まさに――
ザ・ポイズン!
私は鼻を押さえながらそう言った。
「うーん、言わなくてもわかりますね。イヴァンさんたちが食べなくて大正解でしたよ」
イヴァンさんも鼻を押さえながら話した。
「毒モリモリだね〜。昨日まではまだ美味しそうに見えたのに……今はもう……
この世のものに見えない……
完全に、邪魔者の僕たちと七人を殺す気満々だね」
「どんな毒かわかるか?」
カイテルさんが無表情で鍋の中を覗き込んだ。
私は杓子でスープをかき混ぜ、中身を確認した。
ほとんどの食材は腐敗しているが、青いキノコだけは変わらず存在感を放っていた。
「この青色のキノコはブルードットマッシュルームです。名前通り、青色の斑点があります。
平気で生き物の体を麻痺させ、呼吸を停止させちゃうんです。
キノコ類は色鮮やかで食欲をそそるものが多いですけど、きれいな色を持つほど毒性が強いです。
この子もその一つです」
「そうなんだね〜。僕が処分しておくよ。リーマちゃんは安心して。
リーマちゃんの不安は僕が全部吹き飛ばすからね〜」
イヴァンさんは言いながら手を伸ばしてきた。
しかし、隣のカイテルさんは呆れた目で見ながら、イヴァンさんの手を振り払った。
「……イヴァンさん、ありがとうございます」
騎士の皆さんも病人たちも、この毒入りスープを食べたわけではない。
カイテルさんと私のご飯は屋敷から持参しているし、
飲み物も病院の他の医者や看護師、患者たちと同じものを飲んでいる。
別に不安はないけど……。
イヴァンさんはカイテルさんをひと睨みしてから、毒料理の鍋を外に持って行った。
部屋に残ったのは、スープの不気味さだけだった。




