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この世界で生きる少女  作者: あまね


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16/24

男女、甘さの中に真あり

……


「お父さん、お母さん、お兄ちゃん、ソラを見た!?

部屋にいないんだけど……」

あずかは、今にも泣き出しそうな顔で両親に聞いた。

「見てないけど……かご、開いていたの?逃げちゃったかな?」

「逃げたなんて!」

あずかは首をぶんぶん振る。

「鳥かご、閉めてなかった……でも、ソラは絶対部屋から出ないよ!

ずっと私のそばにいてくれたもん!

シクシク……すごく頭がいいの!

でも、さっき見に行ったら、シクシク……いなかったの……シク……」

「あずか、落ち着いて。一緒に外を探そう」

そう言って、家族みんなで外を探した。

けれど、どれだけ探しても、ソラの姿は見つからなかった。

「そのうち戻ってくるかもしれないよ」

お母さんはそう言って慰めてくれた。

けれど、何日たってもソラは戻らなかった。


あずかはたくさん泣いて、


――そして、諦めるしかなかった。


……



翌朝、私は体の時計通りに目を覚ました。

また夢を見た気がした。

目をあげても、周りがぼんやりと見える。

目をこすると、涙が出ていたのに気づいた。


……えっ?

どうして?


喪失感だけが心に残っていた。

なんだか胸が苦しい。

朝なのに……これはなんなんだろう。

私は寝間着の袖で涙をぬぐい、気持ちを切り替えて起き上がった。


部屋を見回すと、リオとリアの姿がなかった。

……まさかまだ騎士団にいるのかしら。


私は支度を整えると、庭を散歩しながら裏庭の小屋をそっと覗いてみた。

すると、リオとリアが気持ち良さそうに寝ているのが見えた。


「はぁぁ〜よかった〜」

私はリオとリアの眠りを邪魔しないように、そっと小屋を通り過ぎた。


そろそろ朝食の時間になった。

食堂に向かう途中、廊下でカイテルさんにぱったりと会った。


「カイテルさん、おはようございます。……昨日、かなり遅くまで騎士団にいたんですか?」

私たちは話しながら一緒に食堂に向かった。

カイテルさんの顔色があまりよくない。

ちゃんと眠れたかな。


「リーマ、おはよう。昨日はちゃんと休めた?ゆっくり眠れた?」

「はい、ちゃんと休めました。でも、カイテルさんは……あまり寝ていませんよね?

顔色が……昨日、その後、大変だったんですか?」

「ちょっとね。いろいろ調査することが多くて。あの十一人の取り調べも、まだ終わっていないんだ」

「私にできること、ありますか?……植物とか動物とか」

「ありがとう。でも大丈夫だよ。リーマは勉強に集中してね。心配しなくていい」


カイテルさんは、相変わらず優しい微笑みで、優しく頭を撫でてくれる。

ほどなくして、お父様とお母様が食堂に入ってきた。

お父様もカイテルさんと同じく、顔色があまりよくない。

私とカイテルさんがお父様とお母様に挨拶した。


「カイテルも顔色が悪いわね。ちゃんと寝たの?」

朝ご飯を食べ始めると、お母様がカイテルさんに声をかけた。


「二時間前ぐらいに戻ってきましたので、少し休めました。この後はまた騎士団本部に行きます」


……私が起きた頃に戻ってきたんだ。


「昨日は大変だったわね。アーロン様もほぼ朝方に戻ってきたから」

お母様が心配そうに言った。


……お父様は王城に朝方までいたの?


「犯人の取り調べが一番時間がかかったんだ。

十一人もいるんだが、あいつら下っ端ばかりで、上に誰がいるか知らないと言い張る」

お父様がため息をついた。

あの人たちの上にいる人は、おそらく植物の知識も調薬の知識も豊富な、とても頭のいい人なのだろう。

「小屋にも特に痕跡はないですからね」

カイテルさんがだるそうに言った。

「昨日は麻薬と原材料を騎士団本部に運ぶだけで時間がかかったんだな。おまえは今日は何をする?」

「その十一人の取り調べと、身辺調査を任されています。今日はそれを進めます」

「何か見つかるといいんだが」

お父様が元気なさそうに嘆息した。


「あ、あのう……麻薬は、どうやって処分するんですか?」

これがずっと気になっていた。

麻薬の処分は簡単にはできないはずだ。

「百瓶以上もあるからな。さすがに簡単には処分できない。

土の魔法使いたちに大きな炉を作らせて、その中で燃やす予定だ。

あの麻薬の匂いは毒だから、密閉した空間で燃やすのが一番だろう」


……なるほど。

毒が外に漏れないように密閉したところでやればいいのよね。

やっぱり、ここでも魔法の出番だね。

魔法があると、できることが一気に増えるんだな。

……魔力が全くない人間には、居場所がなくなっちゃうよ。


「全部取り調べが終わったら、それをやるんだ。あの麻薬は証拠だから、今はまだできないんだ」

カイテルさんが言った。

「そうなんですね。他の植物はどうですか?……植物も燃やすんですか?」


……イブニングローズ。

……一本、二本くらい、もらえたりしないかな。


「そうだ。植物はまだ麻薬にはされていないが、証拠だからね。調査が終わったら全部燃やすよ」

「どうしたのか?」

カイテルさんが首を傾げた。

「……い、いいえ。何もないです」

私はまたカイテルさんに料理を取って、話を誤魔化した。


イブニングローズ……

燃やされちゃう……


「言ってみて。植物はどうしたのか?」

カイテルさんが覗き込むように私に近づいた。

「……えーと、あ、あの小屋に紫色の薔薇があるんじゃないですか?」

私は話すことにした。

「あの薔薇は珍しくてきれいで、疲労回復のお茶もできるんです……燃やしたらもったいないなぁなんて思って……」

「……なるほどね。でも証拠だからね……」

カイテルさんは難しい顔をした。

……ですよね。


「……せめて繁殖地がどこなのか知りたいです。そしたら自分で採りにいきます……」

「ふふっ、さすがだね。でもあの薔薇は麻薬の材料だから、危ないじゃないか?」

「そんなことないです。何を混ぜるか気をつければ大丈夫ですよ。麻薬の材料にもできるかもしれません。

でも、あの小屋にあるたくさんの植物を見たら、多分麻薬のためだけにあったわけじゃないと思うんです」

「……ん?それはどういうことだ?麻薬じゃなかったら何のために?」

お父様は急に表情を険しくした。

……お父様を不安にさせてしまった。


「あの小屋にたくさんの植物があって、その中の六種類の植物とイブニングローズを混ぜたら回復薬になるんです」

「あぁ、回復薬か。はぁ……また大変なものだと思ったよ」

お父様は安心したかのようにため息をついた。


安心したお父様を見ると、私は次の言葉が言えなくなった。

……あれは少々訳アリの回復薬なんです、お父様。


お父様はさっさと朝食を食べ終えようと、黙々と口に運んだ。

カイテルさんもお父様に負けず、気だるそうに食事をとっていた。

朝食の後にはすぐ王城に出かけないといけないらしい。


お父様とカイテルさんに何の力にもなれなくて……悔しい。



翌日。


いつも通り図書室で勉強していると、

「リーマ、これあげる」

と声がして、カイテルさんが私の隣の椅子に腰を下ろした。


何かを手にして差し出してきた。

その手を見た瞬間、私は体を強張らせ、思わず目を見開く。

「……えっ!?こ、これって!?」


――イブニングローズだ!

私のイブニングローズだよ!


「リーマは、これ欲しいんでしょう?お父様にお願いしたんだ」

「だ、だいじょうぶなんですか?証拠なんですよね……?」

「うーん、ちょっとね……」


微妙にダメって感じか〜。

カイテルさん、やっぱり素敵〜。


「ありがとうございます!すごく嬉しいです!これ、お茶にできますから、カイテルさんにも作りますね!」


私は、差し出されたイブニングローズをそっと受け取った。

鮮やかな紫色。

本当にきれいだ。


カイテルさんはそっと私の頭を撫でた。

「この薔薇、とてもきれいだね。リーマにぴったりだよ」


そう言って微笑み、顔を近づけ――

私のおでこに、そっと口付けた。


ドキッ!

ま、ま、またこんなことを……!

心臓がっ!

心臓がっ……!


カイテルさんは微笑んだまま、私の頬を優しく撫で続ける。

お、お、お、王都の男って、どうしてこう……!

私は必死にドキドキを抑えようと俯き、何か言わなきゃ、と頭の中で言葉を探す。


もうーーーーーーーっ!


なのに、カイテルさんは知らん顔で手を止めない。

「ど、どう、どうしてこんなに……き、きれいなのですか……?えーと、なん、にちも経ったのに……」

顔が、ものすごく熱い。

今の私の顔の温度で、蒸し魚を作れちゃうかもしれない。

「ふふっ。元々は枯れていたんだけど、土の魔法使いに枯れる前の状態に戻してもらったんだ。

気に入ってくれて嬉しいよ。お茶、楽しみにしてるね」


……まだ、頬を撫でてる。

これは王都の文化。

これは王都の文化だ……!


「ま、魔法……羨ましいです。えーと……あ、あの麻薬事件は……どうなってますか?

ボスの人は……逮捕できましたか?」

その言葉で、ようやくカイテルさんの手が離れた。


はぁぁぁぁぁぁ……。

心臓が、あと少しで爆発するところだった。

顔、絶対真っ赤だわ……。


「まったくだ。何の痕跡も残っていなかった。捕まえた十一人も、全員ただの下っ端だ。

手紙で命令を受け取り、言われた通りに薬を作っていただけらしい。ボスには一度も会ったことがないそうだ」

「謎の人物ですね……その十一人は、どんな人たちだったんですか?」

「あの十一人は全員、不法入国者だったんだ。お互いのこともほとんど知らなかったらしい。

身元がなく、この国には家族も友人もいない連中だ」

カイテルさんは少し間を置いて、続ける。

「一年前、王都の廃街区域で、見知らぬ人に声をかけられたそうだ。

言われた通りに指定された場所へ行くと、そこに同じ境遇の人間たちが集められていたらしい」


――はいがい……くいき?

カイテルさんの話を聞く限り、絶対に近づきたくない、危険な場所っぽい。


「はい……がい、区域?って、何ですか?」

「廃街区域は、中央街の南にある区域のことだ」

カイテルさんは、少し言いづらそうに目を伏せた。

「難民や犯罪者、元犯罪者……それに、この国で身元を持たない人間たちが大勢棲みついている」

「……そんな場所が、王都にあるんですか?」

「ああ。正直、かなり危険だ。法律もほとんど機能していない」


「……そんな場所が、こんな近くに……」

「王様やお父様たちも、何度も廃街区域を建て直そうと計画してきたんだ。

でも、麻薬依存者も多いし、犯罪者も多い。簡単にはいかないんだ」

カイテルさんは、優しい眼差しで私を見た。

「安心して。俺は絶対に、リーマをあんな場所に連れていかない」

いつもの優しくて頼もしい人だ。

「ありがとうございます。私もできれば、そんな物騒な場所に行きたくないんです……」


少し間を置いて、私は尋ねた。

「その……見知らぬ人って、誰だったんですか?」

「それが、全員覚えていないと言っている。男か女かさえ分からないらしい。

おそらく、魔法で幻を見せられていたか、記憶を消されていたんだろう」

「そうだったんですね……あの十一人の体調は、大丈夫なんですか?

一年も前から麻薬を作っていたんですよね」

「それが、かなり深刻だ。十一人全員、重度の麻薬依存者だった。

取り調べの最中もずっと症状が出ていてな。

意味の分からないことを叫んだり、急に暴れ出したり、幻覚を見たり……

突然息ができなくなって倒れる者もいた」


カイテルさんは、少し表情を曇らせる。

「俺たちの手には負えなくて、今は病院に入っている」

「……やはり、麻薬依存者なんですね。可哀想……」

「まあな。一度手を出してしまえば、やめられない。

お父様たちもあの十一人をどう扱うべきか、頭を痛めている。

麻薬を作っていたのは事実だが……ある意味では、被害者でもあるからな」


「……麻薬をやめさせる方法自体は、なくはないんですけど……」


…………


「……え?」


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