美しい毒の小屋
結局、カイテルさんがリオと一緒に前方を歩き、その後ろをタイラル隊長が進む隊列になった。
カイテルさんは出発してからずっと、風の魔法を保ち、あの甘い香りを消し続けていた。
……すごいなぁ。
確かに、あの得体の知れない香りは感じなくなった。
私がその二人の後ろを、リアと一緒についていき、隣にはるんるんした様子のザインさんが歩いていた。
さらに後ろをアレックスさんが一人で進んでいた。
この隊列をどうやって決めたのかというと、アレックスさんとザインさんがコイン投げで決めていたのだ。
負けたアレックスさんは、かなり悔しがっているように見えた。
……騎士って、もっと堅い人たちだと思っていたけれど、こういう遊び心もあるんだね。
『いい加減にしろ。次にこんなくだらないことをしたら、団長に報告するぞ』
タイラル隊長は怒気を押し殺した低い声で言った。
……タイラル隊長、こわすぎる。
さっきまで穏やかだったのに。
アレックスさんとザインさんは、タイラル隊長のその言葉を聞いた瞬間、顔を真っ青にした。
私はその様子を見て、思わず笑いそうになったけれど、必死に我慢した。
カイテルさんが風の魔法で匂いを消しながら先へ進む間、何度もイベルリアが見つかった。
イベルリアは危険な花でもない。
鎮痛剤にもなり、お茶にもなるし使われる便利な花だ。
だが、数種類の毒草と混ぜると麻薬になる。
その麻薬を燃やすと甘い香りが漂い、人を依存させる。
――おじいちゃんから聞いた話だ。
しばらくカイテルさんとリオについていくと、ボロボロで簡易的な小さな小屋を二軒見つけた。
いかにも怪しい小屋だった。
カイテルさんがタイラル隊長に視線を送り、タイラル隊長が小さく頷いた。
カイテルさんが剣を取り出して先へ進み、他の騎士たちも続いて剣を抜いた。
リオが前方へ歩き出し、一番手前の小屋を警戒するように匂いを嗅いだ。
そのまま何事もなく通り過ぎた。
次に左側の小屋へ近づき、先ほどと同じように周囲を嗅いでから、こちらも通り過ぎた。
……どうやら、この二軒の小屋には誰もいないようだ。
カイテルさんたちがそれぞれ小屋の中を調べ始めた。
一軒目の小屋には寝具や生活用品がいくつか置かれていて、誰かが生活していた形跡がある。
ざっと見る限り、十人ぐらいはいたんじゃないかな。
こんな過酷な場所でよく暮らしていたものだ。
大変だね、と私はどこか他人事のように考えた。
この小屋には寝具と生活用品以外、特に目ぼしいものはなかった。
タイラル隊長たちはそのまま次の小屋へ向かった。
もう一軒の小屋にはたくさんの植物が置かれていた。
おじいちゃんに教えてもらった通り、麻薬の材料になる毒草がいくつもある。
他にも見覚えのある植物が混じっていた。
――やっぱり、さっきの匂いは本当に麻薬のものだったのかもしれない。
私たちが植物の小屋を出たそのとき、リオとリアが同時に低く唸り、リオが森の奥へ向かって一気に走り出した。
タイラル隊長たちも、すぐにリオの後を追った。
「リーマ、奥に何かあるはずだ。俺の近くにいて。離れないで」
「わかりました」
そう言って、カイテルさんが前を歩いた。
私は「はぁ、はぁ」と息を切らしながら、必死にその背中を追った。
リアはホワイトウルフちゃんらしく、余裕たっぷりでイキイキとついていっていた。
こんな早歩きのカイテルさん、初めて見た気がする。
そして、こんなに必死に早歩きする私も、もちろん初めてだ。
……疲れたよっ!
西の辺境森にいたときはあんなにゆっくり歩いていたじゃない!?
……あれは何だったんですかっ!?
別人だったんですかっ!?
しばらく必死についていくと、また一軒の小屋が見えてきた。
さっきの小屋と同じくボロボロだが、こちらは一回り大きい。
リオはすでに小屋の入り口で待機していた。
タイラル隊長たちが静かに近づき、入り口の前で足を止めた。
私は息切れを悟られないよう、深呼吸をしてから、そっと入り口へ近づいた。
タイラル隊長たちとカイテルさんは、言葉を交わすことなく視線を送り合い、静かに頷いた。
……今の視線、どういう意味だろうか。
ザインさんが扉をほんの少しだけ開け、中を覗き込んだ。
そして、手をグーにしたり、パーにしたりして合図を送った。
それを見て、タイラル隊長たちが険しい表情で剣を握りしめた。
……今のグーパー、どういう意味だろうか。
「俺たちが侵入する。リーマは外で待ってて」
カイテルさんがいつになく真剣な表情で言った。
「リア。リーマを守って。頼んだぞ」
(いわれなくても、しってるワッ!)
リアが不満そうに唸った。
「はい」
アレックスさんが先に中へ入り、ザインさん、タイラル隊長、カイテルさんも続いて侵入した。
リオもその後を追った。
しばらく外で待っていると――
『あぁぁぁッ!』
――キン!
――ドン!
――ウォーン!
小屋の中から、さまざまな音と叫び声が聞こえてきた。
私とリアは、中の様子が気になり、扉の隙間からそっと中を覗いた。
小屋の中には七人ほどの男たちがいて、それぞれカイテルさんたちと交戦している。
けれど、みんな意外と余裕のように見えた。
麻薬に関係しているから、もっと強い相手だと思っていたのに。
カイテルさんたちは終始落ち着いていて、余裕すら感じさせる動きだ。
その姿を見て、さすが騎士だなと感心してしまう。
リオもリオで、元気いっぱいに相手を蹴飛ばし、噛みつき、次々と倒していった。
ホワイトウルフちゃんらしく、こちらも余裕そのものだった。
だが、そのときに、
「……おまえは誰?……何をしている?」




