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この世界で生きる少女  作者: あまね


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11/22

フクロウが運んできた知らせ

翌日。


保健省の採用試験に応募するため、カイテルさんは朝から王城へ出かけていた。

昼過ぎになると、私とカイテルさんは王都の中央街へ向かった。


中央街で、カイテルさんに手を引かれながら、私はあちこちの店を覗きつつ、人混みの中を進んでいく。


ふと屋台の裏の道が目に入った。

私が立っているところは人混みで賑やかなのに、その屋台の後ろだけ、ぴたりと人が通らなくなっていた。

まるで違う世界への入り口みたいだ。


……なんだか、怖いわ。


あの裏の道に何があるのだろう。


「リーマ?」

カイテルさんは覗き込んできた。

「どうした?」

私はちらりと裏の道を見て、慌てて首を横に振った。

「……な、何でもないです」

カイテルさんは私の視線に気づいたのか、あの裏の道に目を向けた。

「リーマは俺が守るから、心配することはない」

そう言うと私の頭を撫でた。

「俺から離れないで」


……そうだわ。

カイテルさんも一緒なら、怖いことなんてない。

私は微笑んで小さく頷いた。



「カイテルさん、私、試験の勉強をしたいんですけど……

どこで勉強できますか?本もたくさん読みたいです」

「それなら屋敷の図書室でいいんじゃないかな。

本はたくさんあるし、リーマの好きそうなものもあるはずだよ」

「ありがとうございます。でも……屋敷に図書室まであるんですか?」

思わず目を丸くする。

「さすが貴族の屋敷です。屋敷にないものって、あったりしますか?」

「どうだろうね。最近、大切な人が屋敷に来てくれたからさ。

今の屋敷は、俺にとって完璧なんだ。

これ以上の場所はないと思ってるよ」

「……大切な人、ですか?屋敷に?」


お父様たちや使用人さん以外には、まだ誰にも会っていない。


そう思って聞くと、カイテルさんは足を止め、優しい目で私を見つめた。

そして私の手をぎゅっと握り、もう一方の手で、そっと私の頬に触れた。


「その大切な人は、リーマだよ」


そう言い終わると、カイテルさんは私のおでこに軽く口づけをした。


――ドキッ。


心臓が一気に跳ね上がり、顔がかっと熱くなる。


こ、こ、こ、これは……

ニックお兄ちゃんがよく言っていた、街の男の甘い言葉ってやつ?

ジゼルお姉ちゃんの言った通り、私にはこんな甘い言葉への耐性なんてまったくない!


な、何を言えばいいの?

これって、王都の文化なの?


顔が熱い。

心臓がドキドキして、うるさい。


結局、何も言葉が浮かばなかった。

私は顔を俯け、そのまま黙り込んでしまう。


「ふふっ。じゃあ、楽団場に行こうか」

カイテルさんは私の手を繋いだまま、再び歩き出した。

私は俯いたまま、促されるままについて行った。


……今のは、何もなかったことにしよう。

さっきのは王都の文化だ。

そうそう、あれは王都の男の文化。


私はそう思うことにした。



メイソン家の屋敷に戻ると、私たちは夕食まで図書室で一緒に過ごした。

植物の本を読み、挿絵を真似して絵の練習をしていると、メイドさんが声をかけてきた。


「リーマお嬢様、旦那様がお呼びでございます。執務室でお待ちです」


突然のお呼び出しに、胸が少しざわついた。

……私、何かしてしまったのだろうか。


「大丈夫だよ。きっと話があるだけさ」

カイテルさんはそう言って私の手を握り、執務室まで送ってくれた。


私は重い気分のままカイテルさんについていった。




――コンコン。


「入れ」


扉を開けて執務室に入ると、お父様だけではなく、バロウズ小父様も、ロラン小父様も――

お偉方が全員、部屋の中央の長椅子に揃って座っていた。


誰も雑談をしていない。

……雰囲気が重い。

みんな、眉間に皺を寄せ、真剣な顔で何かを話し合っている。


「リーマ。昨日話してくれた、あのフクロウの棲み処――

カレル森のことなんだが」


……あっ。

昨日、みんなに見せたフクロウちゃんのことだ。

王都の近くにある、あの森のことか。


私は内心ほっと息をついた。

私が直接何かをやらかしたわけではなさそうだ。


「最近、人間がたくさん森に入っていると、あのフクロウが言っていたそうだな。

今朝、三人の騎士に調査させたんだが……」

お父様は小さく肩をすくめる。

「だが、カレル森は広い。結果として、目立ったものは何も見つからなかった」

「……はい」

「だからリーマに、森の動物たちから、人間がどこにいるのかを聞いてもらいたい」

「……はい」


気づけば、「はい」としか答えられなくなっていた。

よくわからないけれど、フクロウちゃんの家族の話から、何だか大変な方向に転がっている気がする。


「本来なら、騎士でも王宮の職員でもない一般市民に頼むようなことじゃない。

だが、リーマの力が必要だと判断した」

「昨日のフクロウは、“危険を感じるから他の森に逃げたい”と言っていたな?」

バロウズ小父様は、眉間に深い皺を刻んだまま問いかける。

「はい……人間が多くて、武器も持っていて、物騒だから……他の森に逃げた動物もいると……」

「武器も、か……?」

一瞬、お父様たちは黙り込んだ。

「そうか……」

バロウズ小父様は小さく息を吐いた。

「明日はよろしく頼む。王都に慣れないうちに、できればこんなことを頼みたくはなかったんだが」

「い、いいえ……。お父様と小父様たちのお力になれたら、嬉しいです」


……なれなかったら、ごめんなさい。

なれなかったら、明日の私を怒らないでくださいね……。


「ホワイトウルフも連れて行っていい」

お父様の言葉に、私はぱっと顔を上げた。

「はい!リオとリアも一緒なら、心強いです」

「話は以上だ。カイテルが外で待っているだろう。もう下がっていい」

「はい。失礼します」

そう言って平民風にぺこりと頭を下げ、執務室を後にした。



執務室を出ると、廊下でカイテルさんが落ち着かない様子で待っていた。


「大丈夫だった?お父様、何か話をしていたのか?」

私を見た途端、カイテルさんは近づいてきた。

「はい。明日、カレル森の調査に、騎士と一緒に行ってほしいと頼まれました。

今日も調査はしたみたいですが、特に何も見つからなかったそうです。

カイテルさんも、リオもリアも、一緒に行っていいと言ってくれましたよ」

「……それ、危ないんじゃないか?本当は断ってもよかったんだ。リーマに何かあったら大変だし。俺、お父様に話そうか?」


……断れる雰囲気じゃなかったんです。


「大丈夫ですよ。動物たちも、お父様たちも困っているみたいですし、助けてあげたいです。

それに、カイテルさんも、リオもリアも一緒ですから」

そう言うと、カイテルさんは少しだけ困ったように息を吐いた。

「……分かった。でも、俺は絶対にリーマを守る。そこは譲らないからね」

そう言って、私の頭をやさしく撫でる。

「じゃあ、図書室に戻ろうか」

そのまま一緒に図書室へ戻り、夕食の時間まで、静かに並んで過ごした。



――明日。

私は、知らない世界に足を踏み入れることになるらしい。

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