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鋼色の青春  作者: 泉流計
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 それから約一ヶ月経った。その間、僕とケイは、毎日同じ屋根の下で暮らした。

 執筆は、思うように進まなかった。というより全く進んでいなかった。家事に追われて、執筆どころではなかったのである。掃除に洗濯に、料理に買い物に、と、まるで独楽鼠のように僕はケイに働かされていた。

 ケイは、特に掃除にうるさかった。塵一つでも残っていようものなら、激しく僕を罵倒した。ケイいわく、「良い演技は掃除から」らしいのだが、自分では少しもしなかった。そういうことは自分がする場合に言えることではないのか、と僕は疑問を呈そうと試みたこともあったが、一睨みされて黙してしまった。

 夜になると、ケイは決まってほぼ毎日、外は寒いにも関わらずベランダに出た。そしてただじっと、大体三十分間、空を眺めていた。一度「何してるんだ」と尋ねたが、答えは、やはりというか予期した通りというか、「何であんたに教えなきゃなんないのよ」だった。空を見上げながらの返答だった。

 いい加減、僕はげんなりしていた。抑圧による限界が近付いていた。執筆は進まないわ家事は全部やらされるわケイに怒鳴られるわで、僕の神経はかなり参っていた。

 ある日僕は、洗濯物を干している時、思いついた。あの女、あんなに毎日偉そうだけど、実際のところ演技はどうなのだろうか。ここにいる間も、本ばかり読んで、演技の練習らしいことをしているのを見たことがない。あいつは、一体どの程度の演技力を持っているのだろうか。

 そう考えた後の僕の行動は速かった。日頃の鬱憤がそうさせていた。ケイが演劇部の練習に行って不在なのをいいことに、すぐさまインターネット(部屋にはネットの回線が最初から敷かれていた。デスクトップ型のパソコンまであった)で大学のホームページにアクセスし、演劇部を調べた。演劇部の項目に行き着いて、メンバー表を開く。

 二回生の欄に、ケイの名前らしきものを発見した。「津島」とあるから間違いないだろう。他に「津島」という名字の者はいなかった。そこには、「津島蛍」とあった。

「ホタルと書いて、ケイって読むのか」

僕はそう呟いた。もっと何か、小難しい名前を想像していたのだが、意外にも素朴な名前だった。名前をクリックすると、「部員紹介」が出て来た。「今年ニューヨークから帰って来た演劇部期待の星。その演技は圧巻の一言。次代を担うスーパースター!」と、記されていた。

 僕は何度もその紹介を黙読した。一言一句を目で追った。自分の読み間違いではないかと思ったからだ。しかし、画面上には確かにそう書かれていた。

「期待の星……圧巻……スーパースター……」

小さく声に出して言ってから、僕は腕組みした。文面の限りでは、ケイは演劇部内で評価が高いらしい。スーパースターなんて、そうそう言われるものではない。ケイは演技が上手いのだろうか。

 不意に、ケイと共同生活をすることになった時の記憶が蘇った。あの時の、僕が彼女と一緒に住むと決意するきっかけになった、ケイの長広舌。あれは、今思うと劇のセリフを言うような感じだった。演じるような感じだった。あれが自然に出来ていたのだとしたら、彼女は高い演技力の持ち主であると言えるのではないだろうか。

 僕は、左手を顎に持っていった。うーむと声をあげた。急に、ケイが舞台上で演じているのを観てみたくなった。

 その時、画面の隅に「公開日程」と表示されているボタンがあるのを発見した。僕はマウスを操作してそのボタンにカーソルを合わせ、クリックした。演劇部主催の劇の公開表が出てきた。一番近い日付は、今日になっていた。場所は、大学内演技場となっていた。その場所なら知っていた。

 僕は時計を見た。公開まで、あまり時間はなかった。慌ててウインドウを閉じてパソコンの電源を切ると、僕は急いで支度をし、ケイがいるであろう演技場に向かうため部屋を出た。

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