第十二話「炎の勇者~悪逆無道の心火~」
いつも拙作を読んでいただき、本当にありがとうございます。
新作が描きあがりましたので、投稿いたします。今回、後半で鬱展開のシーンがございますので、苦手な方はお気を付け下さいませ。
「はああああああっ!!」
「あははははははっ!!」
ギィン!!ガキィィン!!ガキーン!!!
僕の大剣の重い一撃を、雁野は狂ったように笑いながら細身の刀剣で受け止めてはじき返す。
女性の細腕で大剣の一撃を受け流し、何でもない様にすぐさま攻撃を放ってくる。
もはや腕の痺れも、まるで気にしていないようだ。
無限に湧き上がる殺意、狂気、憎しみ・・・。
それが雁野の力の源であり、彼女が全身に纏う業火はまさに彼女の心そのものなのだろう。
「・・・勇者というのも悪くはないわね。これほど楽しめるなら、勇者になった甲斐があるわ」
「・・・他の勇者が聞いたら卒倒するだろうね」
「いいじゃない。殺したいから殺す、潰したいから潰す。勇者の力をどう使おうと私の勝手ですもの」
狂っている。
彼女にとっては僕を殺す理由など、どうでもいい。
それ以前に、人を手にかける理由さえ彼女にはないのだ。
なぜなら、それだけが目的だから。
「・・・どいつもこいつも卑屈で、表面上は善人ぶって自分だけは正しいっていう顔をしていて、そういう人間を見ているだけでイライラしていたのよ。一皮むけば、欲望に飢えている獣のくせに」
ガシャーーーン!!
雁野の強烈な一撃を大剣で防ぐが、腕から全身にしびれが伝わってきて、意識を手放しそうになる。
歯を食いしばって必死で耐えるが、こんなの何発も喰らっていたら・・・防ぎきれない!!
「人を殺すのに理由が必要かしら?理由を言えば納得できるのかしら?結局は人殺しと言って罵るのでしょう?でも、梶くんにもあるでしょう?誰かを殺したいほど憎んだことも、こんなヤツいなくなってしまえばいいと思ったことも」
「・・・まさに今の俺の気持ちがそれだよ」
「ウフフフ、やっと本性を見せてくれたわね。あの時、私たちに殺されそうになった時にも抵抗してくれることを期待はしていたのよ?それなのに、いきなり崖に飛び込んで逃げ出すんですもの。それからは頭がおかしくなりそうだったわ。貴方と戦える最高の機会を逃したんですもの」
「・・・現実世界ならまだしも、どんな魔法を使ってくるのか分からない相手にいきなり突っ込んでいくバカはいねえよ」
一人で大勢の相手と戦うことは何度か経験があるけど、鳳は雷の力、雨野は大地の力、幕ノ内は風の力、松本は水の力、そして雁野は炎の力を自在に操る事が出来る。自分の魔法能力や魔法のことに関する知識がない以上、素手で立ち向かったとしても秒殺されることは目に見えている。
「・・・私は自分の欲望を物心ついたときから感じていたわ。自分が他の人間とは違う考え方をしているってね。いちいち事あるごとに私を怒鳴ったり、殴ったりしてくる両親や姉をまず殺したいと思ったわ。だから包丁でめった刺しにして殺した。9歳の時だったかしら。睡眠薬を混ぜて眠らせてね。両親は精神の疾患を持っていたから、睡眠薬を毎晩服用していたことを知っていたのよ」
ぺろりと舌なめずりをしながら、楽しそうに思い出話でもするかのように雁野が話し出した。
「・・・強盗に殺されたように見せかけて、私は疑われることはなかった。その時に感じたわ。ああ、こんなに簡単なことだったんだ。邪魔なヤツを消すことなんて、虫けらを殺すことと大して変わらないってね。あとはどうやってバレない様にするかってことだけを考えればいいってね」
「・・・なっ!?」
「・・・それからは何人殺したかしらね。しつこくナンパをしてきた男子、陰でこそこそと嫌がらせをしていた女子グループ、成績をちらつかせて交際を迫ってきた教師・・・。世の中、人をイライラさせるヤツばかりよ。そのイライラは溜まれば溜まるほど、私の殺意をあっという間に限界まで満たしていく。こんなヘドロのような感情をさっさと吐き出してスッキリしたくなるでしょう?」
人を殺したことなどどうでもいいと言い切り、その口調がどこまでも静かで穏やかだったことに、僕は心臓が凍り付きそうになる。
そして、僕を見ている目が次第にとろんとした虚ろな瞳に変わっていく。
情念と殺意が入り混じった、見ているだけで吐き気を催したくなるほどの濁った瞳。
「でもぉ、好きになってその人を殺したいと思ったのは、貴方が初めてよ、梶くん。だって、その人のことを殺すって言うことは、その人の人生の全てを奪うってことでしょう?そして私よりも後に貴方のことを手に入れる事が出来るヤツはいない。つまり、梶くんの全てを私が奪って、私だけの梶くんになるのぉ。そんなこと、考えただけで・・・ゾクゾクするでしょう!?」
「・・・冗談じゃない・・・!!」
その時だった。
「游雲驚竜!!風魔法・飛竜の竜巻!!」
ゴオオオオオッ!!
突然黄色く光る風の渦が雁野を吹き飛ばした!
「ぐっ!?」
雁野が吹き飛ばされて、地面を転がっていく。
彼女の胸部のアーマーには竜巻のドリルで穿たれてへこんでおり、突然の出来事に彼女の目が大きく見開かれる。
「梶っち!!」
「幕ノ内・・・!?どうして!!」
僕を助けてくれたのは、まさかの幕ノ内桜だった。彼女の掌には黄色く光る風が渦を巻いていて、いつで魔法が発動できるようになっている。
でも、どうして仲間の雁野に襲い掛かったんだ?
「ちょっとこっちにも事情があってね。雁野さん、随分と派手に暴れてくれたじゃん。他国の王宮にいきなり殴り込みを仕掛けて、騎士を殺しちゃうなんてさ。もう国王陛下の命令を待つまでもないよ。アンタには勇者を任せられない。ここで始末させてもらうよ!」
「・・・どいつもこいつも、どうしてこう人をイライラさせるのかしらね?」
「お前の言い分など聞く耳など持たん!!」
勇ましく叫び、双剣を構えて飛び出していく緑の騎士、島田さんが変身した雷の騎士アンタイオスだ。電撃を帯びた双剣で雁野に斬りかかるが、彼女は憎悪に満ちた瞳で彼女を睨みつけると、刀剣で双剣の攻撃をはじいた。
竜巻を受けたダメージさえも何てことないといったように、素早く動く彼女の動きに島田さんが目を見開く。
「・・・もういいわ。それなら、アンタたちの方を先に片付けるから」
「何!?」
そう言うや否や、雁野は島田さんのお腹を蹴りつけた。
猛禽類の象徴ともいえる鉤爪のついた足で蹴られ、炎の魔力を帯びていたことによって島田さんの甲冑から小さく爆発を起こして吹き飛ばされた。
「ぐうっ・・・!!」
「かおりん!!」
「お、おのれっ・・・!!」
島田さんが立て直そうとするが、双剣を構えたところへ雁野が素早く懐に迫って刀剣の刃を振りかぶっていた。炎を勢いよく噴き出した刀の一撃を双剣で受け止めるが、蹴りのダメージがあるのか、島田さんの動きが鈍い。
ガキン!!キィン!!ガキィン!!
「・・・梶くんほど楽しませてくれそうにはないわね。もういいわ」
そして、炎がさらに大きく燃え上がると、彼女の双剣に思い切り刀を叩きつけた。
ピシピシピシ・・・パキーン!!
刀の猛攻撃を耐え続けていた双剣にひびが入り、粉々に砕け散った。
そしてそのまま、繰り出された大振りの攻撃が島田さんの身体にめり込んだ。
「ぐああああああっ!!」
「かおりん!!テメェ!!」
桜が地面を蹴り飛ばして、鉤爪を振るって雁野を斬りつける。
風を纏った鋭い刃は地面を削り、太陽の光を背にした桜が頭上から襲い掛かる。
「それならこれはどうかしら?」
雁野が不敵に微笑んだ。
そして、背中から巨大な炎の翼を生やすと、無数の羽根がまるで手裏剣のように飛び出した!
「何っ!?きゃああああああっ!!」
ドカン!ドカン!!ドカーーーン!!
桜が態勢を立て直そうと立て直そうとするが一足遅く、羽手裏剣が彼女の身体に突き刺さり爆発を起こした。桜は黒い煙を全身から上げながら、力なく地面に墜落する。
そして、彼女の身体が黄色の光を放ち、変身が解除された。
「うぐっ・・・がはっ!!」
苦しそうにもんどりうって、口からは血液の塊を吐き出した。
「桜!雁野・・・許さん!!」
島田さんが怒りで表情を歪ませると、もはやなりふり構わないといったように走り出した。
身体中から緑色の電撃を迸らせて、二本の角を前に突き出して彼女目掛けて猛然と突進する!
「・・・そういえば、このミニチュアってこういう風に使うのかしら?」
雁野はジオチェンジャーからフレスベルグのミニチュアを外すと、それを刀剣の柄についているギミックに差し込んだ。フレスベルグの目が赤く光り、刀剣全体にこれまでよりもさらに勢いを増した猛火が噴き出して、彼女の全身を覆い尽くしていく。
≪紅蓮の怪鳥!!魔力、解放!!≫
「まずい・・・!!花桜梨、逃げろーーーっ!!」
「島田さん!!」
島田さんの目には、巨大な炎の鳥と一体化した雁野の姿が飛び込んでいた。
目の前の敵を全てのみ込み、焼き尽くす地獄の業火を全身に纏う雁野の姿は死神のようにも見えた。
しかし、彼女が態勢を戻すのは、遅すぎた。
「薪尽火滅・炎魔法・怪鳥の斬撃!!」
「ああ・・・!!」
「はああああああーーーっ!!」
背中から巨大な炎の翼を生やし、全身を炎で纏いながら雁野がものすごい勢いで地面を蹴り飛ばした。
そして、島田さんの身体をまず、一閃ー。
そして振り向きざまに、背中に向かって一閃ー!!
さらに居合のように身構えると、もう一閃繰り出した!!
「ぎっ・・・きゃああああああああーーーっ!!」
ドカーーーン!!
島田さんの甲冑が限界を超えて、巨大な炎を噴き出して大爆発を起こした。
バンッ!!ボンッ!!バァァァン!!
島田さんがよろめいている間も甲冑の至る所で爆発が起こり、やがて彼女の身体が緑色の光を放ち、ボロボロになった島田さんがその場に倒れこんだ。
「花桜梨ーーーっ!!」
桜が激痛を必死で抑えて、よろめきながら倒れた島田さんに駆け寄った。
すると、島田さんの身体が緑色の光の粒子を噴き出して、その身体が徐々に透明になっていく。
「花桜梨!しっかりしろ!!」
「・・・ごめん・・・桜・・・・どうやら・・・私は・・・ここまで・・・みたいだ」
目をうっすらと開けて、島田さんが最後の力を振り絞って首に着けていたシルバーのアクセサリーを外して、震える手で桜に手渡した。それは緑色の目を持つハチのアクセサリーだった。
「・・・いつも・・・私・・・突っ走ってばかりで・・・桜に迷惑ばかり・・・かけちまって・・・」
「何言っているんだよ、しっかりしろよ!全員で元の世界に戻るって言ったじゃないか。オレが絶対にお前たちを人間に戻してやるって約束したじゃないか!!死ぬな!!死ぬなぁぁぁっ!!」
桜が・・・泣いている!?
いつも余裕たっぷりと言った小悪魔な表情ではなく、顔を真っ赤にして、涙をぽろぽろと流しながら必死に叫び続けている。
「・・・私、みたいな・・・落ちこぼれを・・・今日まで・・・面倒を見て・・・くれて・・・あ・・・り・・・が・・・と・・・・・・」
涙がきらりと光り、僅かに彼女が微笑んだような気がした。
そして、彼女の身体が粒子に完全に変わって、僕たちの目の前で島田さんは・・・消滅した。
「・・・かおり?」
死んだ・・・?
桜が島田さんがさっきまでいたはずの場所にわずかに残っている緑の光の粒子とわずかな灰を見て、呆然とつぶやいた。
彼女がここで生きていた証である、シルバーのハチのアクセサリーだけが形見として残されていた。
僕の心の中に、さっきまでの怒りとはまるで違う、冷たくて気持ちが悪い、頭の中がキーンとするような凍り付きそうな感情が湧き上がってくる。吐きそうだ。
「・・・随分と派手にやるんだね?」
「・・・ウフフフ、アハハハハハハ!愉快だわ。ああ、これなら有象無象の人間を手あたり次第殺すよりも、勇者や魔族、魔王を狙って狩りをするというのも面白いわね!最高に楽しいわ・・・!!」
島田さんを殺して、雁野は歓喜の笑い声を上げていた。
身体を震わせて、新しい楽しみを見つけたという彼女の表情はまるで子供のように無邪気な笑みを浮かべていた。目をらんらんと輝かせて、次の獲物を誰にしようかと舌なめずりをして探していた。
コイツはもはや人間ではない。
【邪悪】という概念そのものが人の形となった存在。それが【雁野美月】だった。
セルマ、勇者に選ぶ人選を悉く間違えまくりました・・・。
鳳も問題だったのに、よりによって雁野という勇者に選んでは絶対にいけないケダモノを選んでしまったことで、クロス王国もこの後窮地に追い込まれることになります。
島田が退場し、これで【雷の緑騎士】は完全に消滅しました。
そして雁野の次の標的は【勇者】【魔王】【魔族】だけを狩ることになります。いつでも殺せる人間に興味を感じなくなったからです。ただ、邪魔になれば消すし、自分の目的を果たすために利用することはあります。無論クロス王国も標的です。仲間もクラスメートも関係なしです。そしてメインディッシュは斗真です。
桜が口走った言葉、それが斗真を追放した理由と大きく関わってくることになりますが、それは近々明らかにいたします。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!!




