⑧ 見学する王妃
「王妃様、目的地に到着いたしました。今、眼下に見えますのが、オルレアンのサン・オーギュスタン要塞でございます。」
京子がご案内すると、王妃と伯爵は、揃って眼下の戦いに注目した。
フランス軍の先頭に立って、旗印を持ち、白馬に跨って突き進む者こそが、我らがジャンヌ・ダルクであった。敵からの弓矢や投石機の攻撃が、しきりに繰り返される中、彼女には一つもそれが当たらないのは、極めて不思議な事であった。
「流石は聖女ジャンヌ様ね。見て、矢や石つぶてが、彼女を避けて飛んで行くわ。まるでモーゼの行く手で、海が二つに開くような光景よ。」
王妃は、すっかり感銘を受けたようにそう言った。
よく見ていると、矢や石つぶてどころか、敵の馬も歩兵も寄せ付けない。
(さては真田雪子の仕業ね。どこからか、光学迷彩を使って、密かにジャンヌの進軍を、アシストしているんだわ……そう言えば以前そんな事を、自慢げに語っていたっけ。)
京子は今更ながらに、ソレを思い出して、また忌々しい気分になった。
しばらく戦闘を眺めていると、どうやらフランス軍の勝利に終わったようだった。王妃は手を叩いて喜びを表した。
「ああ、素敵だわ。まさかナマで、聖ジャンヌ様の戦いの様子を、この眼で見られる日が来るなんて……伯爵に感謝するわ。」
「それは良かったです。そんなに喜んでいただき、光栄に存じます。」
(まあ、私の手柄なんだけどね!)
京子はそう思ったが、黙って彼に華を持たせた。
将来の伴侶の評価が上がるのは、悪い気分ではない。
「実は私、聖ジャンヌ様の伝記を持っていて……それはもう、いつも愛読していますのよ?最早心酔している、と言っても差し支え無いわ。」
「そうだったんですか。それは良い出会いになりましたね。微力ながらお力になれて、何よりです。」
「ご褒美は?何がイイの?何でもおっしゃって!」
王妃はかなり舞い上がっているようだった。
「私はもう、貴女様の友人の座を頂けただけで、充分幸せですが、そうですね……今後も時々、この私の使用人が、直接貴女様に対して話し掛ける事を、お許し頂けると助かります。」
サン・ジェルマンはそう言って、思わず振り返った京子にウインクした。
(あら、分かってるじゃないの。流石はマイダーリン。)京子は思わず頬を緩めた。
「ソレは……そうね。今回は御者としても頑張ってくれた訳だし……特別に許してあげるわ。但し、他のご友人たちの前ではダメよ?いいわね?」
「はい、もちろんでございます。」
京子は即答したのであった。




