⑦ 黄色いビートル
そこで我に返った王妃が、またしても無断で発言した京子を咎める。
「アナタ、また勝手に喋ったわね?クルマって何よ?馬車の事?そんなモノで時間旅行が出来たら、誰も苦労なんかしないわよ。」
「……それでは、ご覧に入れましょう。こちらのモノです!」
京子さんはそう言うと、ビートルの光学迷彩を解除した。
すると突然、王妃の目の前の田園に、大きな金属製の……まさに黄色いカブトムシのような物体が、現れたのだ。
ソレを見たマリー・アントワネットは、再び口をアングリと開ける他は無かった。
もちろん、サン・ジェルマンも、内心ビックリしていた。
(それにしても……。)今更ながらに京子は思った。
(私はここで、王妃に関わっていたのね。だからテレビ塔での挨拶が、何だかヘンだったんだわ。でも、王様やお妃様が、いちいち相手の従者の顔まで覚えていないから、"さもありなん"てところか。)
「王妃様、さあどうぞ、こちらへ。」
京子はそう言うと、左ハンドルの運転席を前に倒し、ビートルの後席へと、王妃を案内した。
「伯爵も、どうぞお隣りへ。」
彼女はそう言って、彼の事も、王妃の隣の後席へ押し込んだ。
「では、私は前席で御者を務めさせて頂きます。」
彼女は運転席に乗り込むと、ドアを閉め、早速センターコンソールパネルに、以下のように目的地の座標を打ち込んだ。
西暦1429年4月29日
時刻10時00分
北緯47度53分
東経01度54分
「それでは、出発します。少々揺れますので、どちら様もご注意ください。」
彼女はそう言うと、黄色いビートルに、もう一度光学迷彩を掛け、垂直上昇させた。そして、時空転移ボタンを押したのである。
マリー・アントワネットにしてみれば、そもそも、珍妙な形をした、馬の居ない黄色い馬車が、空を飛んだ事が驚きであった。そして次の瞬間には、窓の外の風景が歪んだまま、流れはじめたのだ。それはそれは面食らっていた。
もちろん、隣に座っていたサン・ジェルマンも同様で、乗り物のタイムマシンは初めての体験であった。が、努めて冷静なフリをしていた事は言うまでもない。こうして、彼のポーカーフェイスは、確実に鍛えられて行ったのである……つまり、京子自身が、無意識のうちに、ソレに一役買っていたのだった。
やがて彼女の黄色いビートルは、オルレアンの、サン・オーギュスタン要塞前の上空に出現した。




