③ 説得する伯爵
「……時を旅するって、昨日に行ったり、明日に行ったりするって事?」
訊き返す王妃。
「はい。まさにその通りです。なんなら、もっと遠くの未来でも、過去でも、お望みのままです。」
ついつい、少し得意げに言ってしまう伯爵。まだまだ若いから仕方が無いのである。
「そんな夢みたいな話、にわかには信じられないわ。」
「ごもっともです。しかし、充分に発達した科学技術は、もはや魔法と、見分けがつかないのですよ。」
ますます胸を張る伯爵。
「何か証拠を見せなさい。でも、体よくこの場から逃げられても、何だか癪に障るわ……そうね、この真夏に、この場で雪でも降らせる事が出来たら、貴方の事を信用してあげてもイイわよ?今ちょうどこの庭園に、雪景色が欲しいと思っていたところなの。」
彼女はそう言うと、口角を片方だけ上げて、少しイジワルな顔で笑った。
サン・ジェルマンは、正直、この無茶ぶりには困った。もちろん、降雪機は考案済みだ。しかしそれは、元の時空の屋敷内に保管してある。そこに戻る事は、一度この場から消える事を意味する。
そんな事をすれば、間違い無く、彼女の信用は失われるだろう。それに、ポータブルタイムマシンで、あんな重い機械を運んだ実績が無い。出来るかどうか不明だ。どうする?
その時、彼の耳元で小さく囁く声がした。
「私に任せて。アナタはただ、自信満々に、両腕を空に向かって、突き出せばイイのよ。」
ソレは、先程の京子さんの声だった。どうやら姿は見えないが、すぐ近くに居るようだ。彼は、雪子の仲間だと言った彼女を信じ、言う通りにした。
「なあに、そのポーズは?降参するって事?それなら貴方、可愛らしいお顔をしているから、私専用の、奴隷にしてあげてもイイわよ?」
王妃はそう言いながら笑っていたが、次の瞬間、その笑顔が引きつった。
何故ならそれは、空から次々に、ひらひらと雪が舞い降りて来たからだった。やがて静かに雪は積もり始め、最終的には、テラスから見える20m四方程の面積が、すっかり雪景色になってしまったのである。
「……いかがでしょうか?」
言いながら、サン・ジェルマン自身も驚いていた。
すると、それまで美しい唇をポカンと開けて、雪景色に見惚れていた王妃が、突然、大声で笑い出した。もしもここが本殿内なら、はしたないと、陛下から大目玉を食らうところだ。しかし、ここは離宮。彼女が自由に振る舞ってもイイ場所なのだ。
そして目に涙を浮かべる程の笑顔で、「ああ貴方、素敵ね。気に入ったわ。今日から私の客人として、このプチトリアノンに出入りする事を、許可してあげる。有り難く思いなさい。」と言ったのである。




