② マリー・アントワネット
「へええ。ソレは興味深いわね。ねえ、私も、ついて行ってもいいかしら?少しはアナタの、お役に立てるかもよ?」
「ああ、構いませんけど。ただ、この小型トランクタイプのタイムマシンを使用するなら、お互いのカラダを密着させないと、二人一度に移動出来ないんですけど……?」
「それなら、大丈夫。目的地の座標さえ、アナタが教えてくれたら、私はビートル……いえ、"別の手段"で移動できるから、アッチで合流しましょう。」
「なるほど。分かりました。では、今回の座標はコレです。」
彼がそう言って見せた、地図のメモは、こうだった。
西暦1774年8月31日
時刻15時00分
北緯48度49分
東経02度06分
「ありがとう。分かったわ。じゃあ現地でまた、逢いましょう。」
京子はそう言うと、腕のデバイスを使って、彼の目の前から瞬時に消えて見せた。ソレを見たサン・ジェルマンは、ああ、確かに雪子さんと同じなんだな、と実感したのだった。
屋敷近くの森までテレポートした京子は、早速、光学迷彩で隠しておいた、黄色いフォルクスワーゲンビートルに乗り込んだ。
そして、先ほど見た座標を、センターコンソールパネルに打ち込むと、クルマを垂直上昇させて、時空転移スイッチを入れたのである。
一方、サン・ジェルマン青年も、小型トランクを開き、同様に座標を入力すると、まだ充電前だったので、手動ハンドルをクルクル回し、時空転移ボタンを押した。
彼の出現先は、あの王妃マリー・アントワネットが、ルイ16世から与えられた離宮、プチ・トリアノン東側にある、田園風の植物園、"王妃の村里"だった。
そこは、彼女に認めた、限られた者しか足を踏み入れられない、極めてプライベートな空間だった。彼女は、テラスの椅子に座って、のんびり寛いでいたのだ。そんな所に、ひょっこり、見ず知らずの、若い伯爵風の男が現れたのである。当然、彼女は警戒したのだった。
「誰?どこから来たの……いいえ、一体どうやってここまで、たどり着いたのかしら?」
彼女は混乱しながら、立て続けに彼に質問した。
サン・ジェルマンは、彼女を落ち着かせるために、母国語のドイツ語を使って、出来るだけゆっくりと、静かな口調で話し掛けた。彼にとっては、最早いつものルーティンだった。
「マリー・アントワネット王妃。突然の、不躾な訪問を、どうかお許しください。私の名は、サン・ジェルマン伯爵と申します。"時を旅する者"です。」
「……えっ?」
耳を疑う王妃。そりゃあそうだ。藪から棒に、そんな荒唐無稽な事を言われて、「ハイ、そうですか。」となる訳も無かった。
いつもながら、伯爵のバカ正直……いや、誠実さには、困ったモノである。




