㉕ サヨナラ
「次に目を覚ました時には、アナタは私の事を、すっかり忘れているわ」
眠ってしまったサン・ジェルマンに向かって、京子が語りかける。
「……そういう細工だったの。もっとちゃんと、お別れの言葉を言うつもりだったのに……段取りを間違えちゃったわ。でも楽しかった。これからも元気でね……知ってるけど」
最後は、一人でノリツッコミのような変なセリフを言って、京子はその場から消えて行ったのだった。そして、残された白い袋には、スペイン語で"サンタクロースより愛を込めて"というメモが書かれた張り紙が、貼り付けてあったのである。
さて、京子はその後、無事に2005年のクリスマス・イブの、名護屋テレビ塔の亜空間レストランに戻って来た。
彼女が窓際のテーブルに座って、何食わぬ顔でレモンティーを飲んでいると、やがて地下の研究室から、永遠の35歳のサン・ジェルマンと、同じく永遠の35歳の杉浦鷹志の二人が、エレベーターで上がって来た。
「いやー、せっかくのクリスマス・イブなのに、遅くまで待たせて済みませんね?」
と言う伯爵。
「イイわよ……別に」
そう言いながら、少し膨れてみせる京子。
「あのお、ボクはウチにユリちゃんを待たせてるんで、先に帰りますね?」
鷹志はそう言って、挨拶もそこそこに、本当に急いで帰って行った。
多分、由理子も自宅で彼を待ちながら、頬を膨らませているに違いなかった。
「……さて、どうでした京子さん?」
変なセリフを口にする伯爵。
「えっ、何が?」
ホントに訳が分からない京子。
「若い頃の私は、可愛かったですか?」
尚もそんな事を言う、サン・ジェルマン。
「えっ、何で……?記憶は消した筈なのに」
ホントに驚く京子。
「一体、誰がタイムマシンを、開発したと思ってるんです?」
ニヤニヤしながら続ける伯爵。
「あ……ああ、そう言う……」
解って来た京子。
「全てのビートルの運用状況のデータは、この私が把握しているのですよ」
「……そうだったわね」
「まあ、以前、雪子さんも似たような事をしてますから、アナタのやった事だけを咎めるのは、不公平ですよね?」(第15巻 参照)
「そうよね?」
「ましてや、アナタはボクの妻だし……今回の事は内緒にしておきましょう」
「ありがとう」
「……で、満足しましたか?」
「ええ、アナタが如何に、バイオリンとマリー・アントワネットを愛しているのか、よく理解出来たわ」
「それはもう……勘弁してください」
そして笑顔の二人は、肩を寄せ合い、窓の外で静かに降る、粉雪を見つめるのだった。
以上でこのエピソードは完結です。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
次回「25歳のサン・ジェルマン」にご期待下さい!
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