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「青年サン・ジェルマンと黄色いワンピースの雪女」(セーラー服と雪女 第ニ部 新世紀編③)  作者: サナダムシオ


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⑳ ロンドンにて

 その後サン・ジェルマンは、1743年のロンドンに来ていた。イタリアで、ヴィヴァルディから直々に教わった、ヴァイオリン演奏の技術を、異国の地で試してみたくなったのだ。


 ただ行く前に、彼が京子にその話をしたら、彼女の顔が曇った。そして、「まあ、それは史実だから……仕方が無いわよねえ。」と言った。さらに彼女は、「行ってもいイイから、このリングを身に着けていって。」と言い、彼に黒い腕輪を渡して来たのだった。サン・ジェルマンは、素直に彼女の指示に従う事にした。


 ロンドンに来てみたかった大きな理由が、もう一つ有った。それは大作曲家、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルの、名作オラトリオ"メサイア"が、ロイヤル・オペラ・ハウスで、初演を迎えるのだ。その記念すべき3月23日を逃す手は無かった。


 彼のロンドンでの生活は、最初のうちは順調だった。作曲家や、ヴァイオリン演奏家として、コンスタントに活動を続け、次第に名声を集めて行った。


 しかし、身の回りでは、5月に、スコットランドの一部の兵士が、反乱を企て、首謀者3名が、7月に、ロンドン塔の敷地内で銃殺刑になるなど、不穏な動きは有った。


 6月には、国王ジョージ2世が、自ら軍を率いて出陣し、フランス軍に勝利したりなど、最後の武闘派王として気を吐いた。また、それを祝して、先のヘンデルが、"デッティンゲン・テ・デウム"を作曲したりしていた。


 まあ、そんな感じに、そこそこ大きな事件は有ったが、伯爵自身に実害は無く、1745年までは楽しくロンドンでの生活を満喫していたのだった。


 ところが、ある事件をきっかけにして、事態は一変する。

 その日もサン・ジェルマンは、自身の演奏会を終えた後、とあるレストランバーにやって来て、充実した気分でワイングラスを傾けていた。


 今や彼は、そこそこ地元で有名な人物になっており、酒の席で、見ず知らずの者から、気軽に声を掛けられる事も、多々あった。


 しかし、2年程前からロンドンに滞在し、複数の言語を流暢に喋りながらも、素性を一切明かさない謎の富豪が、当局の眼に、怪しい人物として映るのも、無理も無い話なのだ。


 折り悪く、ちょうどその頃、スチュアート家による王位奪還を企む、"ジャコバイトの蜂起"が起きており、怪しい事だらけの伯爵は、外国の、特にフランスから送り込まれた、諜報員だと疑われたのである。


挿絵(By みてみん)

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