⑲ アカシックレコード
「ああ、アタシ知ってる。ソレ、"アカシックレコード"って言うのよね?」
「おお、ご存知かね?」
「確かそれは、広い宇宙の何処かに有る、秘密のライブラリー……世界の全ての知識が、納められていると言う、伝説の場所……。」
「そう、そう、そうだとも。」
「でも、ソコにアクセスするためには、高僧のような方々が、深い瞑想をするか、普通の人は、死んで肉体を失って、精神体を解放しないと、無理だって言う話を、聞いた事があるわ。」
「確かに。ソレが通説だね。しかし、私には出来るんだよ。」
「凄いわ。貴方はきっと、"選ばれし者"なのね。流石は司祭様だわ。」
「うわはははっ、それ程でも無いがね。」
彼は、かなり酔いが回って、上機嫌だった。
そうこうする内に、ヴィヴァルディは酔いつぶれたのか、カウンターに頭を預けて、寝てしまった。ソレを見届けた京子は、彼の隣からそっと離れると、店内の奥のテーブルに移動した。
「まあ、ざっとこんな具合だけど?」
彼女は、最初からそこに座っていた、サン・ジェルマンに話し掛ける。
「見事な手際だね……それにしても、イタリア語も堪能だとは、知らなかったよ。」
「ああ、それは、コレのおかげなのよ。」
彼女はそう言うと、自分の顎の下を示して、彼に緑色の石が入ったペンダントを見せた。
「何だい、ソレは?」
「同時通訳機よ。ほぼタイムロス無く、相手の言葉も、自分の言葉も、通訳可能な優れモノよ。因みにコレも、原型はアナタの発明。それを、アナタの優秀な助手の、杉浦鷹志君が改良した物なの。」
「へええ、未来のボクって、凄いんだねぇ。」
「なに、他人事みたいに言ってるのよ。今のアナタだって、充分素敵よ。」
「……ありがとう。」
「アナタ、アカシックレコードの噂は、知っているのよねえ?」
「うん、なんでも、普通に生きてるニンゲンには、辿り着けない、全ての謎が解ける図書館だとか。」
「私は生きながら、ソコに辿り着いたニンゲンを知っているわ。宗教家以外なら、ニコラ・テスラ、アントニオ・ヴィヴァルディ、ヴォルフガング・モーツァルト、レオナルド・ダ・ヴィンチ……そして、アナタよ。」
「はははは、ナニを言うのやら。冗談はともかく、ソコは、ボクなんかよりも、ダイモニオンの声を聞いた、ソクラテスの名の方が、相応しいのでは?」
「さて、どうかしら……?」
京子はそう言って、伯爵をじっと見つめた。
サンジェルマンも負けじと、見つめ返す。
「……と、とにかく、ボクはこの後、ヴィヴァルディを介抱して、取り入った後、ヴァイオリンを教えて貰う約束をするから!」
彼は慌てて、話を変えた。
「ウフフ……まあ、いいわ。今日はコレくらいにしておいてあげる。」
京子はそう言って笑ったのだった。




