⑰ 暗躍する伯爵
サン・ジェルマンの目論見は、まんまと当たり、当時無人となっていた、シャンボール城を借り受け、そこに研究室を設ける事が出来た。
そして彼は、現地……つまりその時空の人間を採用して、スペインの実家と同様に、助手や使用人として住まわせ、城を管理させた。
これで、度々タイムトラベルしなくても、この時代の調査が可能になったのである。因みに、研究室の助手たちの中に、やけに熱心にメモをとっている少年が居たが、彼の話はまた、別の物語で触れよう。(第ニ部 新世紀編④ 参照)
また彼は、自ら300年以上生きている云々の噂を流し、使用人たちにも、その冗談に付き合わせた。彼らは面白がって、そのジョークに同調した。
そして、自分の容姿に少々手を加えた。つまり、中年男性に見える見た目に変装したのである。顔にシワを加え、服装の趣味も渋めにした。この方が、若輩者の見た目で居るよりも、社交界で一目置かれやすいからある。
コレこそが、様々な年代で目撃される、彼の見た目の印象の、バラつきの原因であった。毎回、微妙に変装が違うので、仕方が無かったのだ。
また、そのせいで、後のマリー・アントワネットも、自分の友人となった18歳の彼が、まさか義父のルイ15世と付き合いが有った人物と、同じだったなどとは、気づかなかったのである。
つまり、この頃の彼は、タイムトラベラーではあったが、まだ不老不死ではなかった。彼が不老不死になった顛末については、別の物語に記してある(第16巻 参照)その結果、本当に300年以上生きる事になるのだが……。
また、こういった彼の社交界での活動については、史実として詳らかになっているので、京子は、特に介入しようとは、思っていなかった。
自分の存在が、彼の活動の、邪魔になるような気もしていた。だから、伯爵が、また別のテーマを持って時間を旅するなら、同行しようと考えていたのだった。
そしてついに、伯爵が、18世紀のフランス社交界での調査に区切りを付け、次のテーマを考える時が来たのである。
「お久しぶり。」京子がまた、サン・ジェルマンの部屋に現れた。
彼もいつの間にか、19歳になっていた。
「こんにちは。久しぶりに一緒に旅しますか?」誘う伯爵。
「もちろん、喜んで。」即答する京子。
「ちょっと、1710年の、ヴェネツィアに行ってみようと思うんですよ。」
「目的は……音楽かしら?」
「凄い。よく分かったね。」
「あなた、確か、ヴァイオリンの演奏が趣味よね?」
「ああ、まさにその通り。そこに優秀なヴァイオリン教師が居るんだ。」
「ソレは……"赤毛の司祭"の事かしら?」
「ご名答!でも、何故そう思ったの?」
「私も少しだけ、歴史を勉強したのよ。アナタが会いたいのは、アントニオ・ヴィヴァルディね?」
「うん、そうなんだ。是非、当時の彼に会って、教えを請いたくなったんだ。」
「素敵ね、すぐに行きましょう。私が運転するわよ、乗って行きなさい。」
そんな感じでトントン拍子に話が進み、2時間後には、二人で黄色いビートルに乗っていたのだった。




