⑯ 京子の気持ち
サン・ジェルマンがマリー・アントワネットと話をしている間、村田京子はずっと口を閉じていた。二人の邪魔にならないように、敢えて黙っていたのは勿論だが、余りに深刻な話の内容に対して、口を挟む余地が無かったとも言える。
ともあれ、これであの、突然の救出劇の、謎が解けたのだった。(第二部 新世紀編① 参照)そして今日のこの行動を念頭に、最初の日に伯爵が、王妃を時間旅行に誘ったのだと、彼女は理解した。
京子は何だか、満足してしまった。
18歳でも35歳でも、ブレる事なく、サン・ジェルマンはサン・ジェルマンだった。
「アナタはいつでも、理不尽な事に立ち向かうのね。」
彼女は、知らず知らずのうちに、そう呟いていた。
それは、王妃を元の世界に戻した後の、帰り道の時空転移中の事だった。
「えっ、今、何か言った?」
助手席の伯爵が訊き返した。
「何でも無いわよ。"アナタの事が大好き"って言ったの。」
「ああ、そうなんだ……って、ええっ!?」
「あ~あ、言っちゃった……何だか癪に障るわ。でも悔しいけどアナタ、なかなかのナイスガイよ。」
「ナイス……何ですって?」
「未来の単語よ。イイオトコっていう意味!」
京子はそう言うと、伯爵の左の頬にキスをした。
「……!?」取り乱す伯爵。
そんな事をしている間に、伯爵の屋敷前の森の中に、ビートルは到着した。
「じゃあ、今日はココで。またね、伯爵!」
伯爵が車外に出るとすぐに、京子はそう言って、クルマを垂直上昇させ、虚空の彼方に消えて行った。
後に残された18歳のサン・ジェルマンは、まだ呆然としたまま、その場に佇んでいたのだった。
さて、それから暫くの間、伯爵は王妃のコネを頼りに、せっせと社交界で活動し、色々な中世の文化や情報を吸収した。その間、彼女の幼少期のエピソードを聞いて、こっそりモーツァルトとの出会いを覗きに行った事は、ココだけの話である。"推しに関わる逸話"は、誰だって確かめてみたいモノなのだ。
やがて彼女の義理の父、ルイ15世の時代の、フランス宮廷の様子も気になり、伯爵はソレも調査の対象にした。まずそのために、王の営繕官のマリニー侯爵に、言葉巧みに書いた書状を送り、取り入った。
その書状の中で伯爵は、「王族の所有施設を、研究室として使わせてくれたら、ルイ15世に、"人類史上、最も豊かで稀有な発見"をもたらす」と約束したのだった。まあ実際には、"ダイヤの傷を消す方法"と"石炭からダイヤを生み出す方法"を伝授しただけなのだが……。




