⑮ 王妃の決断
これまでの、二回のタイムトラベルは、過去への旅だった。それも、自分がリスペクトしているとは言え、所詮は他人の、ジャンヌ・ダルクに会いに行ったのだ。だから正直に言って、お気楽な旅だった。しかも、彼女がいずれ、火あぶりの刑で亡くなる事まで、承知の上でだ。
だが、いざ、自分の残酷な未来を突きつけられてみると、この体たらくなのか。マリー・アントワネットは、自分で自分を軽蔑した。あの誠実そうなサン・ジェルマンが、伊達や酔狂で、趣味の悪い冗談を仕掛けて来たとも思えない。しかし俄かには信じがたい事実だ。私がギロチン台に?一体何の罪で?そればかりが、頭の中でグルグル渦巻く。
「……ショッキングな事実ですが、いずれフランスで革命が起きるのです。ルイ16世は断罪され、その王妃であるアナタも、ほぼとばっちりのような罪状で、死罪になるのです。それが民衆の意思なのです。」
サンジェルマンは、苦々しい顔で言葉を続けた。
「罪状の内訳は、他国との内通、公費乱用、背徳行為、国外脱出計画などです。もちろんアナタは、裁判において得意の話術で、一つ残らず論破し、無実を訴えましたが、裁判官にその全てを無視され、有罪にされたのです……まったく胸が悪くなる、酷い話です。」
王妃は無言になった。
「この歴史的事実は、残念ながらもう、覆る事は有りません。ですからここで、私からご提案が有ります。」
そこで伯爵が、少し声色を変えて、優しい声でそう言った。
「……何、何なの?」
呆然としつつも、一縷の希望を見い出し、伯爵の言葉に耳を傾ける王妃。
「アナタがギロチン台に掛けられる直前に、この私が、タイムマシンで助けに参ります!」
サン・ジェルマンは、自らの決意の気持ちを込めてそう言った。
「もちろん、アナタがソレを望むなら、ですが?」
「この私が……理不尽な罪状で、みすみす殺されるのを、良しとする女だとでも?」
「ソレは、イエスのお返事と受け取って、よろしいのですね?」
「ええ、お願いするわ。でも私……。」
「……どうしました?」
「やっぱり私、自分で実際に体験するまで、信じられないわ。」
「ごもっともな事です。ソレ故の、ギリギリ救出劇計画なのです。」
「委細了解よ……ありがとうサン・ジェルマン。」
「お礼の言葉はまた、近い将来、アナタを、無事に救い出したあかつきに、いただきますよ。」
伯爵は、そう言って王妃の目を見ながら、ニッコリと笑ったのである。




