⑭ 厳しい現実
「ありがとうございます。実は、私のお願いというのは……」
「……というのは?」
サン・ジェルマンは一呼吸置いてから、次の言葉を口にした。
「もう一度だけ、私と共に、時間旅行に付き合って頂きたいのです」
「なあんだ、そんな事なの。お安い御用よ。なんなら今すぐにでも行くわよ……でも、どうしてアナタは、そんなに深刻そうな顔をしているのかしら?」
「それは……今から行く場所が、決して愉快なところでは無いからです」
「何故、そのような場所に、この私を連れて行くの?」
「将来、アナタの事を助けるために……です」
「それは……一体?」
「コレは、言葉で申し上げても、なかなか理解が難しい案件なのです」
「……解ったわ。これまでのアナタとの付き合いに免じて、信じてあげる」
「ありがとうございます。では、早速」
マリー・アントワネットの気持ちが変わらぬうちにと、伯爵は急いで行動した。彼女をビートルの後席に案内すると、自分も素早く隣に滑り込み、運転席の京子に、出発を指示した。「京子さん、お願いします!」
前席のセンターコンソールに浮かび上がった文字は、彼が事前にリクエストした通り、以下のようになっていた。
西暦1793年10月16日
時刻12時00分
北緯48度52分
東経02度19分
「では、参ります」
京子はそう宣言すると、光学迷彩を掛けたままのビートルを上昇させて、時空転移ボタンを押した。
クルマが出現した先は、あのコンコルド広場だった。
車窓から眼下を見た王妃は、「あら、ここは……」と言いかけたまま、絶句した。何故なら、その広場の様子が、明らかに異常だったからである。
まず目に飛び込んで来たのは、何千、何万という平民の大群衆。そして、ヤンヤヤンヤとわめき散らす彼らが、グルリと取り囲んだ、真ん中の舞台に据えられているのは、ギロチン台……つまりここは、公開処刑の場になっていたのだ。
「王妃、よくご覧になって下さい」
ソレを一緒に見ながら、隣に座った伯爵が、弱々しい声で言った。
「今から処刑台に連れて行かれるあの女性は……アナタなのです」
それは、"青天の霹靂"とも言える爆弾発言だった。
(……えっ、彼は今、何て言ったの?この私がギロチン台に連れて行かれるって……そう言ったの?そんな……バカな事が?)
王妃の思考力は、見る見る低下して行き、精神的にパニックに陥りつつあった。
「ここは、14年後の未来。あれがアナタの運命なのです」
まるで彼女にとどめを刺すように、伯爵は、重ねてそう言ったのである。




