⑬ 王妃からの感謝
3人の乗った黄色いビートルは、光学迷彩を掛けたまま、プチ・トリアノンの"王妃の村里"に戻って来た。
クルマから降りたマリー・アントワネットは、テラスに有る椅子に座って、一息ついた。一緒に降りて来た伯爵と京子は、その前に立って控えていた。
「今回もありがとう。まさか直接、聖ジャンヌ様とお話できるなんて……夢のような経験をさせてもらえたわ。でも、この恩をアナタに、どう返したら良いか分からないのよ。アナタが今、望んでいる事はもう無いの?」
王妃は、サン・ジェルマンに尋ねた。
「そうですね……それでしたら、今後、王妃の御友人の一人として、皆様に紹介して頂けたら、幸いに存じます。所謂、社交界デビューというヤツですね。」
「あら、そんな事。お安い御用よ。あ、でも、その時には、その使用人の服の色は何とかして欲しいわね?」
そう言うと、王妃は、黄色いワンピースを着た京子を、扇で指し示した。
彼女はいつの間にか、自らの光学迷彩を解除していたのである。
「もちろんでございます。」
京子はまた、直接、王妃に向かって即答した。
それに対して、もう、王妃は怒らなかった。そして……。
「アナタも、私の御友人の末席に加えてあげるわ。ナイショでね?」
ゴキゲンな王妃はそう言って、京子に向かってウインクしたのである。
そんな訳で、王妃との時間旅行は終わりを告げ、伯爵は目出度く、フランス社交界への、デビューの希望が叶ったのである。そしてこれ以降、中世の世界で、サン・ジェルマン伯爵の目撃例が、増える事となった……コレは史実である。
さて伯爵には、王妃に関して、もう一つ、どうしてもやっておきたい事が残っていた。ある日、ソレに関して、彼は京子に意見を求めた。彼女は少し考えた後、「イイんじゃない?協力してあげるわよ。」と言ってくれた。彼はソレを、早速実行に移す事にした。
1779年4月16日の15時00分。
いつものように王妃と約束をした彼は、京子の操縦する黄色いビートルで、"王妃の村里"にやって来た。例のアレを実行するためである。
「いらっしゃい、伯爵。ここで会うのは久しぶりね?もうすっかり、オモテの社交界では有名人なのに、いまさら一体、どういう風の吹き回しなのかしら?」
少々訝し気な王妃。
「……実は王妃。本日は折り入ってお願いしたい事があるのです。」
「……何かしら?まあ何であれ、他ならぬアナタからの頼みだもの。聞いてさしあげますわ。」




