⑫ 天使の宣託
「あなたが、フランスを救うのです。」
太陽を背にした上空から、まず、そんな言葉が聞こえた。
「シャルル王太子をランスに連れて行き、必ず戴冠させるのです。」
別の声が、そんな言葉を告げた。
「イングランド軍に包囲された、オルレアンを解放するのです。」
これまた、別の声がそう言った。
田舎の少女、ジャンヌ・ダルクは、突然現れた天上人たちの姿に驚き、道端で口をアングリとさせていた。
折しも、村の教会では鐘の音が鳴り響き、その光景は、神々しく見えた。
「……まさか今のが、三人の大天使からの御宣託?」
マリー・アントワネットが呟く。
「その通りです……如何でしたか?」
短く答える京子。
「ああ、コレが、全ての始まりなのね?」
いたく感銘を受けた様子の王妃。
(まあ、アレは3人とも、我がチーム・サン・ジェルマンの、メンバーなんだけどね。)
京子はそんな事を心の中で囁きながら、舌を出していた。(第20巻 参照)
やがて、ナニかの影は、太陽の前から姿を消した。
すると、伯爵たちが止める間も無く、思わずジャンヌに駆け寄る王妃。
しかし、ジャンヌはまだ、呆然としていた。
「今のは、大天使様たちからの御宣託でしたわね……これからアナタは、どうなさるの?」
王妃は彼女に、話し掛けてしまった。
しかし、あの服装だからこそ、まだ許されそうな気がする。
さては彼女、最初から、ソレが狙いだったのか……。
「……私は……お告げに従いたいと思います。」
まだボーッとしたままの、ジャンヌが言った。
「……今から、両親に相談して来ます。」
彼女はそう言いながら、向きを変えると、家に向かって、トボトボと歩きだしたのだった。
ソレを見送りながら、王妃はその場で立ちつくしていた。そこに伯爵と京子が駆け寄る。
「無茶な事をなさいますね?過去の人物と、直接関わる時は、細心の注意を払わないと、危険なのですよ。」
自分の事を棚に上げて、伯爵が王妃を、ヤンワリとたしなめる。
「御免なさい。興奮の余り、つい……我ながら、はしたない事をしました。」
素直に謝罪する王妃。
急にしおらしくされると、逆に調子が狂う。
ここまで取り乱すとは。やはり彼女は、ジャンヌ・ダルクの熱烈な信奉者なのだろう。
「ありがとう、伯爵。もう、満足よ。時間旅行における、私の望みは、全て叶ったわ。他の歴史上の人物には、大して興味無いのよ。だから、これで充分なのよ。」
王妃は、悟り切ったような顔で、そう言ったのだった。




