⑪ ルーツを訪れる
西暦1424年7月14日
時刻11時30分
北緯48度26分
東経05度40分
「では今から、過去のドンレミ村に参ります。」
京子はそう宣言すると、ビートルを上昇させ、時空転移ボタンを押した。
前回同様、車窓から見る風景が、流れるように滲んでいくが、王妃は平気そうだ。どうやら彼女は、乗り物酔いとは無縁の体質らしい。伯爵は感心した。
やがて、目的の時空に到着したようだ。
眼下に見えるのは、ホンモノの田園風景だ。
離宮の趣味からしても、こんな風景が、王妃の心を癒すのだろう。或いはコレも、ジャンヌ・ダルクを心酔する、気持ちの現れか。
「今日は、このまま近くに着陸しますね。」
京子は、そう宣言すると、直ぐにソレを実行した。
辺りには人影もまばらだ。光学迷彩を掛けたままなら、問題無いのだな。伯爵はそう思った。
車外に出る前に、京子はサン・ジェルマンに、黒い腕輪を渡した。
「コレを左腕につけて、王妃様の服装を見ながら、右手で、リングに触れて下さい。」
伯爵が言う通りにすると、自分の服装が、田舎の農夫のような見た目に変化した。面食らった彼は、思わず彼女に尋ねる。
「京子さん、コレは一体……?」
「ソレは、人体用の光学迷彩よ。未来のアナタと、私の友人の杉浦鷹志の、共同研究の賜物なの。」
そう言って振り返った京子の服装も、いつの間にか変化していた。
「あら、素敵。」
マリー・アントワネットは、簡単に感想を述べた。
三人揃って車外に出ると、直ぐ近くに、農家の夫婦と、その娘らしき者たちを見かけた。
「儂らは先に休憩するが、お前も程々に切り上げて、戻っておいで。」
ちょうど父親らしき人物が、娘に声をかけて、妻であろう女性と、家に戻るところだった。
「はあ〜い!」
娘は見た感じ、12、3歳くらいだろうか?
元気に返事をしながら、畑の中で、残りの作業を急ぐ。
「王妃様、アレが子ども時代のジャンヌ・ダルクです。もう少し待っていると、面白い事が始まりますよ。」
京子がニコニコしながら、またもや直接、王妃にそう言った。
王妃は先日の約束通り、ソレに対して、もう目くじらを立てなかった。
ちょうど娘が作業を終えて、家に向かって農道を歩きかけた頃、上空の、太陽を背にするような位置に、ナニかが現れた。
逆光で、その正体が何なのか、よく見えない。
そしてそのナニかが、地上の娘に向かって、突然声を掛けて来たのだ!




