⑩ 次のリクエスト
「じゃあ早速、行きましょうか。」
彼が助手席に乗り込むと、京子はビートルを、1774年9月7日の15時の、王妃の庭に向けて、発進させた。いよいよ次の冒険の始まりだ。
マリー・アントワネットは、その日もテラスの椅子に腰かけて、一人で待っていた。
すると伯爵と京子の二人が、まるで田園風景の一部を切り取るようにして、透明モードの、ビートルの中から出て来たので、またまた驚いたのだった。
然しながら、その王妃の姿を見た二人も、少しばかり驚かされた。なぜなら彼女が、麦わら帽子をかぶり、農民の娘さながらの、簡素な衣装を見に纏っていたからである。
「客観的に見ると、なかなかの効果ね?」
良く出来た光学迷彩に対して、王妃は感想を述べた。
「ありがとうございます。王妃様のお衣装も、素敵な変装ですね?まるで平民のようです。」
伯爵が不思議に思い、尋ねてみる。
「私、この田園で、土いじりや、動物と触れ合ったりする時は、割りとこんな格好をしているのよ。」
王妃は言う。
「……それに、今日訪れる場所では、この衣装の方が、都合がイイかなって。」
そう言われて、よく見ると、彼女の身長も、前回よりも低い感じがする。そうか、データによると、確か実寸は154cm程だったはずだ。靴も踵の低いモノに換えたのだな。伯爵はそう思った。
「……さて今日は、どちらへご案内しましょうか?」
「聖ジャンヌ様の、生家に行ってみたいの。」
「ああ、確か割と、田舎の農家だったような……。」
「どこだか、分かるんでしょ?アナタなら……。」
「……少々、お待ちください。」
サン・ジェルマンはそう言うと、助け船を求める顔で、京子の方を見た。
「……任せて。」
京子はニンマリ笑うと、ビートルの運転席に戻り、何やらコンソールパネルをいじっていた。そして、彼女は直ぐに車外に現れ、サン・ジェルマンに対して、片目を閉じて親指を立てて見せた。
彼は、その意味は良く分からなかったが、京子の自信ありげな態度で、全てを察した。
「……王妃様、何とかご案内出来そうです。」
「そう、良かった。じゃあ、早速今から案内を頼めるかしら?」
「はい、喜んで。」
彼は、居酒屋のバイトのような返事をした。
例によって、ビートルの後席に王妃を案内し、彼自身もその隣にお邪魔する。そこから、前席の中央に有るパネルを覗くと、黒い画面に、次のような数字が浮かび上がっているのが、見えた。




