④追及
「ねーぇぇぇってば! 兄貴〜! なんで目をそらした〜?ほう、ほう? これは何か、やましい過去がある顔ですねぇ?」
妹がレジ台に肘をつけ、ニヤニヤとこちらを見ている。鋭い。こいつは鋭い。正直、ショッカーの追跡部隊よりタチが悪い。
「……開店準備に集中しろ。花の水あげとか、あるだろ」「は? 兄貴があの“鉄仮面彼女”を連れてきた日から、ずーっと気になってんのよ。“出会いは職場”じゃねーのは確定だし?」
鉄仮面。――それは、彼女が花屋の制服に腕を通すまでに妹がつけたあだ名である。
「兄貴はさ、告白の時ってどこで言ったの?カフェ?観覧車?それとも……」妹はわざとらしく目を細め、低い声で言った。「――廃工場、とか?」
ドクンッ!!
心臓が、素直に反応した。妹がそれを見逃すはずがない。
「……今、心臓鳴ったよな?」「気のせいだ」「脈拍上がったよな?」「花粉症だ」「兄貴、落ち着け。こっちは公安じゃねぇ。ただの妹だから」「……公安よりタチ悪いんだよ、お前」
妹はカウンターの下から、どこから持ってきたのか 『恋愛事情聴取シート』 と書かれたノートを取り出した。
「では、第一項目。出会いの現場はどこ?」
「……言うか。そんなの」「選択式もあるよ?A:学校 B:職場 C:マッチングアプリ D:その他(具体的に書け)」
Dの横の欄には、妹の字で “廃工場など(ロマンチックな特殊シチュ歓迎♡)” と書かれていた。
――静かに、背後で花を水に浸けている彼女が小さく肩を震わせた。笑っている。おい、笑うな。
「……では、第2フェーズを開始します!」
妹が唐突に宣言すると、どこからか 小型のICレコーダー を取り出し、カチッとスイッチを入れた。
【録音開始:ファイル名「兄貴_恋愛証言_1」】
「ちょっと待てぇぇぇぇええ!!!」
私の制止を完全に無視し、妹は クルッ とターンして、花を水に浸けていた“彼女”の方へ。
「すみませ〜ん、彼女さん。取材いいですか?現在、兄貴の初恋疑惑の真偽を追ってまして!」
彼女は振り返り、微笑んだ。ほんのり頬を染めながら――戦闘スーツではなく、エプロンを着た彼女が。
「……取材、って何の?」
「はいこちら!」妹が差し出したのは 『恋バナカードゲーム〜LOVE or DIE〜』 と書かれた謎のカード束。
≪CARD No.1:告白現場はどこ?≫選んだカードを裏返し、当事者は正直に答えよ(※嘘が発覚した場合、罰ゲーム:キスの真似で風船を膨らまされます)
「……風船……?」彼女が小首をかしげた瞬間、妹が冷蔵庫から ハート型の風船 を取り出した。
「兄貴〜〜?風船、膨らませる準備できてるよ〜?"廃工場だなんて言えない" とか言いだしたら、瞬間アウトだからねぇ?」
俺は悟った。
―――この妹、花屋じゃなくて取調室を作る気だ。
「言うわけないだろ! だいたいお前、なんで風船なんか――」「兄貴が恋愛っぽい雰囲気になった瞬間に破裂させようと思って♡ 」
背後で パァン!! と風船がひとつ爆発し、私は本能的に戦闘態勢を取ってしまった。
「……反応が完全に戦闘員のそれだよね」妹の冷静なツッコミが刺さる。
その時、彼女がほんの少しだけ引きつった顔で言った。
「……出会いの場所?——言ってもいいよ。別に、隠すことでもないし」
妹のICレコーダーが ピーーーッ! と、テンションの上がった電子音を鳴らした。
【録音データ:証言モード移行】
「じゃあ——あれは、夜の、廃工場で……」
妹「やっぱり廃工場あああああぁぁぁぁぁ!!!!」兄「おい黙れぇぇぇぇっ!!!」




