02
「おいおい、まじですげぇ量だなぁ!これ全部種取りすんのかよ!?」
ノクトラスが悲鳴にも近い嘆きをあげる。
わかるわぁ、私もうへぇ、って感じ。
あの後、屋敷にはまさしく山のようなさくらんぼが届いた。
とりあえず3分の2くらいは涼しい地下の食料庫において、使用人たちはキッチンに集まったわ。
「もう業者っすね~。つまみ食いし放題っす!」
「本当にすごい数。終わるのかしら」
ライガくんとリリーも作業を手伝ってくれる。
「おばあでも役立つんかいねぇ」
この人はテールワーツさん。リリーいわく、ベテラン凄腕メイドさんらしいわ。
「1日では終わらなそうですねぇ」
こちらはハインドルさん。親の代から勤務しているという、こちらもベテランさん。
「みなさん、お集まりいただきありがとうございます。コツを教えまーす。この木の棒をさくらんぼの中心に刺して、種を押し出すと簡単にはずせます!」
私は用意しておいた、そこらへんの木の枝を削ったいい感じの棒を人数分配った。
これで作業自体はらくちんよ。数が膨大なことを除けばね!
私たちはテーブルを囲んで、みんなで種を取っていく。
「ディノアマト様の無茶ぶりにも困ったもんだよなぁ。ご自分が何でもできるからって、他人にも期待しすぎだぜ」
「ディノアマト様のことを悪く言わないで!農園のためなんて、すばらしいお考えじゃない!」
すばらしいけど大変は大変なのよ、リリー。
「お前、ディノアマト様とはどうなんだよ?何か進展したのか?」
「……べつにいつも通りだけど。変化とかないわ」
「おいおい、せっかく若えんだからなんかねぇのかよ!まぁ、『いっそ寝室にでも乗りこめ!』……って普通なら言うとこなんだけどなぁ、あの人じゃなあ」
「お掃除で入るけど、ディノアマト様の寝室、奥様の肖像画だらけなのよ。とてもそんな空気にならないわ」
リリーは少し悔しそう。
「あの人、ハニートラップとかもかかんなそうだよな」
たしかに、女性より本物の蜂蜜でもあげたほうがよっぽど喜びそう。
「やっぱり奥様なんだなぁ。あーあ。鉄壁だなぁおい。つまらーん」
「奥様と死別されてけっこう経ってるっすからね。そろそろ再婚も勧められてるんじゃないっすか?」
「……!!」
再婚、という言葉にリリーは動揺してるわ。
「死別なのね。知らなかった」
「ご病気だったらしいっす。屋敷に来る前の話だからよく知らないっすけど」
そうしてみんなで話しながら作業していた時、キッチンの扉が開いたわ。
目を向けると、そこにいたのはディノアマト様。
「〜〜〜〜!!!」
いち早く気がついたリリーが言葉をなくす。
「ディノアマト様!いかがされたのですか?」
「いや、お前たちだけに任せるのはしのびないのでな。私も手伝おう。……さすがにすごい数だな」
ディノアマト様、まだ地下にも置いてあるのですよ。
「お仕事はよろしいので?」
ノクトラスが聞いたわ。
「ああ、1、2時間くらい構わん。いい息抜きになる」
「ありがとうございます。それでは、こちらの棒でさくらんぼの底から押していただくと、種が取れますので」
「うむ。こうか?」
ディノアマト様が持ったさくらんぼに、棒を押し当てる。
力を入れすぎたのか、さくらんぼがぐしゃりと潰れて、ディノアマト様の手が赤く染まる。
「…………」
正直、予想はつきました。
ディノアマト様の手の大きさに対して、さくらんぼが小さすぎるのですもの。
ディノアマト様が種を取ろうとするたび、潰れてディノアマト様の手が赤く染まる。その姿はなんというか、似合いすぎているわ。3人始末してきました、という風貌。
「大丈夫です、ディノアマト様!最後にはジャムになるので、つぶれても食べられますわ!」
「むう……。そうか……」
ディノアマト様が作業している間、リリーはひたすらディノアマト様をぼーっと見つめ、手が止まっているわ。
それに気がついたノクトラスとライガくんが、ゲシゲシと肘でリリーをつついている。『手を止めるな』『種取りしろ』と暗に示しているのね。
「ところでディノアマト様、再婚は考えられていないので?」
ノクトラスがちょうど話題になっていた質問をつっこんできたわ。
リリーが怖い顔でにらんでいる。『余計なことを聞くな』って感じね。
「ふむ......。まあ仕事が忙しいのでな。そんな暇はなかろう」
「えー、そうですかね?旦那は男前だしお若いのにもったいないですね~」
「お前こそどうなのだ?奥方とは仲良くやっているのか」
「ぼちぼちですね。ずーっと尻にしかれてますわ」
その後はノクトラスの近況の話に変わって、作業をし続けたわ。うまく話を逸らされたわね。
こうやって手間取りながら、どうにか種取りを終えたの。あくまで今日の分ね。まだまだ残りのさくらんぼがあるわ。
そしてここからが私の仕事。とりあえず今日の分のジャム作りと、おやつ作りにとりかかる。




