03
「おおー!うまそう!罠の意味がわかるっすねー」
「うん。わたしも我慢するから、ライガくんも耐えてね……」
くうっ、と苦しみながら、私はライガくんにできたシューを手渡していく。
「コレヲ、オネガイシマス……」
「任せろっす!」
ライガくんはてきぱきとシューに飴をつけて、立体形を作っていく。
「上手!いいね!」
「早く完成させて、余ったの食いたいっす!」
「たしかに。私も早く終わらせるわ!」
2人でせっせとシューを詰め、積み上げ、小さな塔がふたつ完成した。
ディノアマト様には「5人分作ってほしい」と言われていたけど……。
これじゃ足りないかも。もう一セット作ろうかな。
そして手元には、余った小さいシューがふたつ残っている。
……残そうと思ったわけではない、はずなんだけど。無意識に確保してたかも……。えへへ。
それに、どうせこのあとも追加で作るんだし。とりあえず労働には報酬が必要よね。
「ライガくん、これは余りよ!」
「待ってました!もらっていいっすか!?」
ようやく。念願のシュークリーム!我慢して我慢して耐えたからこそ、最高においしいはず。
いただきます!と叫んで、わたしとライガくんはポイっと口にシュークリームを放り込んだ。
「……うまーい!!がんばったかいがあったっす!」
「おいしいわねえ。やっぱりひとりだったら絶対達成できなかったわ。ありがとう、ライガくん」
カスタードはしっかりなめらかだし、シューもやわらかく焼き上がっているのよ。カスタードをこぼす心配なく、一口で食べられるのもやっぱり満足度が高い!もっと口に入れたくなっちゃうわ。
積み上げる前にひとつでもシュークリームをつまんでいたら、きっとそのまま止まらなくなっていたことでしょう。
わたしは我慢できた自分をほめたいわ。
「でも、ディノアマト様の食べる量にはまだ足りないかもしれないわ。わたしはもうちょっと作業していくわね」
「うっす。休憩室にいるんで、また手伝いが必要だったら呼んでくださいねー!ごちそーさまっす!」
ライガくん、いい人だわ~。
この達成で自信をつけたわたしは、さらに追加でクロカンブッシュの塔を築くことに成功したのでした。
◇◇◇
そしてここからが本題。
昼間お仕事に行っていたディノアマト様は、夕方に帰ってきた。
この時間帯が、ディノアマト様にとってのおやつの時間。早速、我慢の集大成クロカンブッシュを持っていくわ。
「ディノアマト様、本日のデザートをお持ちしました」
「うむ。待ち焦がれていたぞ」
「お待たせいたしました。こちらクロカンブッシュです」
私はディノアマト様の前にお皿を差し出した。
クロカンブッシュの周りには、追加でいちごもちりばめてみたわ。
シュークリームの立体的な高さでインパクトがある上に、いちごの赤で彩りもきれい。
見ていてよだれが出てしまいそう!
「クロカンブッシュ......なんと美しい!まるで我が軍の難攻不落の要塞のよう!」
さすがのディノアマト様も気分が上がっているみたい。ふっふっふ。やっぱり喜んでもらえると嬉しいわ!
でもこれから崩すんだから、『我が軍』って言っちゃうと少し不吉なんじゃないかしら。不落ではなくなってしまいますよ?
「こちらは飴で固めてございます。フォークで崩すもよし、手で剥がすもよしです」
「ふむ。では手でいくとしよう」
ディノアマト様はパリパリとシュークリームをはがして、ひとつを口に運ぶ。
「うまい。小さいのはいかがなものかと思っていたが......。口につかないのはいいな」
うーむ。やっぱりたくさん召し上がるディノアマト様からすれば、小さいサイズはご不満なのかも。次作るときはもう少し大きくしたほうがいいかもね。
「このいちごの赤があることで、より要塞らしく見える。我が軍の城壁の周りでも、訓練で怪我をした血まみれの軍人がよく倒れている」
それは不吉すぎます。
おいしいスイーツをバイオレンスな記憶に結びつけるのはおやめください。
ディノアマト様は私の動揺も気にせず、どんどん食べ進めている。
ふと、ディノアマト様は手を止めると、ぽつりと呟いた。
「......しかし、これを見てしまうと、本当に城壁のような大きさのクロカンブッシュを食べたくなってしまうな」
私は思わず吹き出してしまう。
子供みたい!
そういうの、子供の時に考えるわよね。『お菓子の家を作ってみたい』とか。お菓子の家ならかわいいのに、クロカンブッシュの要塞だと軍事に偏りすぎているわ。
だけどまずい。この方のことだもの。本当に頼んでくるかもしれない!子供が夢見るようなことでも、この方の財力と立場なら本当にできてしまうわ!
私は無限にシューを焼く未来を想像して血の気が引く。
「......もしできれば素敵ですね!けれど、これはこのサイズだからこそ成り立っているのです。大きくすると、重みで下のシューが潰れていってしまいます」
心底ざんねーん。私もやりたかったです!というような表情を作ってみるわ。
「! そうか。せっかくのシューが潰れてはいかんな。残念だ」
納得してくれた様子のディノアマト様。
よかった~。危機一髪。
あまり表情の変化がないディノアマト様だけど、これは少しがっかりしている顔なのでしょうね。
ディノアマト様は未練を断ち切るかのように、パリパリとシュークリームを食べ進めていくわ。
パリパリ。サクサク。トローリ。
あんなに我慢をして必死に作ったシュークリームの塔は、一瞬で陥落された。
お菓子って作るの大変、食べるの一瞬なのよねえ。
「うむ。うまかった。実に見事だったぞロロメルテ!また頼む」
「はい!おそまつさまでございました。」
ディノアマト様は紅茶をぐびぐびとお飲みになっている。
彼は紅茶もマラソンの水分補給ばりに大量に摂取されるから、追加を用意しなければ。
こうして勤務二日目も、ディノアマト様の満足を勝ち取ることができました。
今回、クロカンブッシュのリアル要塞作りは免れたけれど、これからまたなかなかの難題を頼まれることになるのよね。
そのお話はまた次回。




