01
翌朝、私は物音で目が覚めたわ。
それは、同じ部屋に住んでいるメイドさんたちが一斉に起き始めた音。
差し込む朝日の感じから、たぶんまだ5時くらいだと思うけど。
メイドさんの仕事って朝早いのねぇ。
ディノアマト様からは「菓子を作ってさえくれれば、他の時間は自由にしていていい」と言われているわ。
ディノアマト様が甘いものを召し上がるのはだいたい夕方頃だから、午前中は自由にしていていいみたい。
メイドさんたちには悪いけど、昨日の長時間の移動と、ついてすぐのお仕事で私はすっごくすっごく疲れているの。静かになってから二度寝でもさせてもらおうかしら。
......とんでもない好条件よねぇ。わかるわぁ、私もびっくりだもの!こんなお仕事聞いたことない!!
でも大丈夫。実は、これから酷使される未来も待っているのよ。
こういう楽な日があると、たまに来る難題を断りにくくなるの。『まあしばらく楽な仕事だったし、これくらい仕方ないかー』って。
わかってやっているなら、策士よねぇ。侮りがたし軍人様。
ふああ。あくびがでた。将来の話はまあ置いておきましょうか。......ではみなさん、おやすみなさい。
私は夢の中へ戻ります。
◇◇◇
昼すぎになって目覚めた私は、とりあえずご飯をもらいに行ったわ。
寝室とは別に使用人用の広い部屋があって、食事や休憩はみんなそこで取るみたい。
オートミールとスクランブルエッグをもらって、部屋に向かう。
部屋には食事をしている人たちがいて、固まって座っているわ。
早く仲良くなりたいから、話しかけたいけど......。
まだ誰も知り合いがいない私からすると、声をかけるのに一瞬迷ってしまうのよ。
すると、私に気がついた一人が声をかけてくれたわ。
「よお、新入りだな?これからメシならこっち来いよ!」
食事をしている人の一人、無精ひげのおじさんが手を振ってくれている。
私はお言葉に甘えることにしたわ。
「ありがとうございます。私、ロロメルテと言います。よろしくお願いします!」
席には三人。
男の人が二人と、昨日屋敷を案内してくれたメイドさんだったわ。
メイドさんの隣に座らせていただきます。
「おう、よろしく。噂は聞いてるよ。ジェノワじいさんの代わりだって?初日から働かされたってなあ。何作ったんだ?」
手を振ってくれた、短い髪の無精ひげの男の人が話しかけてくれる。ジェノワじいさん、というのがきっと前のパティシエなのでしょう。
「はい、ええと、クラフティを作りました」
「ああー、見たことあるかもしんねぇ。丸いやつか?」
「じいさんもよく作ってたっす!」
隣の男の人も口を開く。
「俺はライガっす。こっちはノクトラス。こっちがリリー。よろしくねー!」
最初に声をかけてくれたのがノクトラス、その隣の若い人がライガ。メイドさんはリリーと言うみたい。
「リリー、また心配事が増えたなぁ」
「ちょっとお、余計なこと言わないで!」
リリーは昨日の大人しそうな様子とはうってかわって、勢いよく答えた。
リリーはこちらを向いて、真剣な顔をしているわ。
「ねぇロロメルテ、ディノアマト様について、どう思った?」
「どう......?うーん......」
怖い、って答えていいものかしら。失礼?
私が考え込んでいると、リリーのほうが先に口を開いた。
「かっこいい、とか思ったりした......?」
「ええっ!かっこいいとは全く!むしろ怖いなって......!」
私は思わず本音を言ってしまった。
主人のことを怖いなんて、まずいかも。
けれどリリーからしたら、これは正解だったみたい。
リリーはふーっと息を吐いて、安心したような顔をしているわ。
「よかったー。女の人がパティシエになるって聞いて、焦ってたの」
「こいつ、ディノアマト様にホの字なんだぜ」
「勝手にバラすのはやめてよ!」
ホの字。惚れてるってことね。
リリーが急いで弁明してくる。
「別に付き合えるとか、本気で思ってる訳じゃないからね!ディノアマト様は、今でも亡くなった奥様一筋みたいだし......。でもそういうところもさらに素敵♡♡っていうか、でもやっぱり女の人が近づくのはちょっと嫌!っていうか、そういうので......!」
リリーはあわあわと百面相しているわ。
昨日冷たかったのは、恋敵になることを恐れていたからなのかしら。
「大丈夫よ、今のところはね。これからはわからないけど!」
「ええっ……!ちょっとお……」
「うはは!うかうかしてられねぇなぁ、リリー!」
「ロロメルテさん、俺は調理担当なんで、顔を合わせることも多いと思うっす。またそのうちよろしくっす!」
ライガくんが食器を持って立ち上がる。
「ええ、また!」
なんだかみんないい人そう。
元のパティシエが戻るまでの期間だけど、楽しく過ごせるといいな。
遅い朝ごはんを食べた後は、キッチンで食材の確認をしに行った。
何がどれくらいあるか知らないと、調理の予定が立てられないもの。
「おお、早速会ったっすねぇ!」
キッチンには、さっき一緒に食事をしたライガくんがいたわ。
調理器具の洗い物をしているみたい。




