03
初めて使うかまどだから、焼き加減がわからないわ。私の家のかまどより大きいから、焦げちゃうかも。火加減に注意しないとね。
少しずつ器を回しながら、均等に火が通るように調整する。
これで大丈夫かしら?
かまどから出して、粗熱を取る。器を揺らしてみると、プルプルと表面が揺れる。
固まっていそうね。
余っている材料でもう二つ分を器に注ぎ込んで、こちらも焼いていく。
このサイズなら器一つで三人分くらいにはなるけど、作りすぎてしまったかも。
まあディノアマト様が食べなければ、私が食べればいいかしらね。
「できた!」
甘い香りがただよう。クラフティの完成ね。少し焦げ目がついた表面もいい感じ。
「あの、できたのですが、これは私がお持ちしてよろしいのでしょうか?」
私はメイドさんにお伺いを立てる。
配膳ってメイドさんの仕事だったりするからよ。
「はい、どうぞ。ご案内します」
お許しがでたわ。私は火傷しないようトレーに乗せて、お部屋に持っていくことにした。
コンコン。
ドアをノックする。
「ディノアマト様、ロロメルテです。デザートをお持ちしました」
「ああ、入ってくれ」
ドアを開けると、ディノアマト様は先ほどと変わらない姿で座っていたわ。
「こちら、ブルーベリーのクラフティです」
ディノアマト様の表情は特に変わらない。
私の初仕事。これで失敗すればどうなるかわからないわ。
クビくらいで済めばいいのだけど、軍人様のことだもの。何かひどい罰があるかもしれない。......お菓子作りでこんな心配したくないのよ。来たくなかったわぁ。
「……ふむ。クラフティ、か。まるで戦略会議で使う地形図のようだな」
……地形図?
予想していなかった言葉だから、ピンとこないわ。クラフティの表面には、ブルーベリーの丸形が散らばって水玉模様ができているけど。
よくわからないけど、軍人様はたくさん丸の書いてある地図を使うのかしら?
疑問が生まれている間に、ディノアマト様はクラフティにスプーンを差し込み、パクリと口に入れた。
「………………」
感想は特にない。
またスプーンを口に運ぶ。
「………………」
感想がないわ。
私は冷や汗をかいてしまう。これは、完全にお気に召していないわね。
「あの……。お口に合わなければ、ご無理はなさらず……」
私は思わず声をかけてしまったわ。
きっとこういう時は黙っているのが正解だったわね。
「いや、うまい。さすがの腕だ、ロロメルテ」
え?本当に?
どう見てもおいしいものを食べる表情ではないディノアマト様。
お世辞……は、わざわざ料理人に言わないわよね?
それに見ている間にもスプーンは止まらず、食べ進めてくれている。
どうやら本当に気に入ってくれたみたい。
「あ、ありがとうございます!」
ほっと一安心だわ。よかったー!
それにもう名前を覚えてくれていることも、少しうれしかったわ。
人の名前なんて全く興味がない人のように見えるけど、そんなことないのね。
勝手に偏見をもってしまってごめんなさい。
「しかしロロメルテ、ひとつ問題がある」
「はい!?何でございましょう!?」
安心したのも束の間、恐ろしい言葉が投げかけられる。
何!?何でございますか!?
私の焦りを知ってか知らずか、ディノアマト様はゆっくりと、ゆーっくりと口を開いた。
「大量に作るように、と言っただろう。これでは少なすぎる」
「………………ああ!そういう!そうでございましたね!」
そんなことですか!心臓が止まるかと思った!
ディノアマト様は少しばつが悪そう。
食いしん坊みたいな発言だものね。恥ずかしいわよね。
「まだあと2つ作ってございます。すぐにお持ちしますのでお待ちください!」
私は走って台所まで戻ると、残りのクラフティを持って早歩きで部屋まで戻った。
「うむ。うまい。しかもこの手際、すばらしい。」
ディノアマト様はまたパクパクと食べ進め始めた。スプーンが止まらないのを見ていると、安心するわ。
ディノアマト様はその後すぐにすべてを平らげ、きれいに完食された。
「うむ。完璧な働きだった。明日からもよろしく頼むぞ、ロロメルテ」
「はい。よろしくお願いいたします!」
ディノアマト様は満足気。
合格をいただけたようで、本当によかったわ。
こうして私の勤務初日はどうにか成功に終わり、ディノアマト様の下で働くこととなったのでした。
脅されて来ることになったお仕事だけど、ディノアマト様は思っていたより優しそう。
そしてこれから、ディノアマト様のあまいものへの執念を日々思い知るようになるんだけど。それはまた今後のお話。
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クラフティのレシピ参考はこちらです。
https://tomiz.com/column/clafoutis/




