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姉妹とタルトタタン01


私は今、故郷のモーヴィオレに向かっているわ。

ディノアマト様がしばらくお休みをくださったので、久しぶりに家に帰ることにしたの。

ジェノワさんが復帰したから、交代して休むことができるようになって、そのおかげでお休みをもらえたのよ。


最初にパティシエとして働くよう指示された時は、大急ぎで家を出たから、ろくに家族に説明もできなかったの。だから今回家に帰ることができてほっとしたわ。お母さんも心配しているでしょうし、やっとゆっくりできるわね。


モーヴィオレは小さな町で、ディノアマト様の屋敷からは数日馬車を乗り継いでやっと到着する。

広大なぶどう農園が広がり、ワインが名産。穏やかな気温と乾燥した空気で、この時期はきっと過ごしやすいでしょう。

もう少し先になるとぶどうの収穫時期になるから、町中が忙しくなるわ。

子供たちが手伝いに呼ばれ、朝から夕方まで笑い声が響く時期ね。


私の姉、フローリアはぶどう農園の跡取りと結婚したから、きっと私も手伝いに呼ばれるでしょう。

水やりや虫取り、収穫前でも仕事は山ほどある。お休みではあるけれど、すぐに農園の仕事に切り替えなければ。


馬車に揺られしばらくすると、ようやくモーヴィオレに到着したわ。

今は昼過ぎくらいかしら。思ったよりも早く家につけてよかったわ。


家の前までつくと、やぎ小屋に餌を運んでいるお母さんの姿が見える。


「お母さん!ただいま!」


「……ロロメルテ!!お帰り!!久しぶりだねえ!」


お母さんはすぐに餌を置いて、こちらに歩いてきてくれるわ。

私は服が汚れることも気にせず、お母さんを抱きしめる。


「久しぶり!会いたかったー!!」


「本当に急に出ていっちゃったからねえ。無事に帰ってこれて安心したよ」


「あのね、だけどすごくいいところだったのよ。屋敷の主様がとても良い方でね!あ、餌やり手伝うわね」


私は餌の入った桶を持つと、小屋に運ぶ。


「そうかいそうかい、よかったねえ。軍人様だろう?恐ろしい目にあっていないかと心配だったんだよ。しかも急に栄養士だなんて!経験もないのに呼ばれるなんて不思議なこともあるもんだねえ」


「全部ザルバートくんのせいよ。会ったら文句を言ってやるわ」


「あの子も帰ってきているよ。ちょうどいいタイミングだったね。後であいさつに行きな」


ザルバートというのは私の義理の兄よ。私には二人の義理の兄がいるの。

ひとりは姉のフローリアと結婚したセヴァンス。もう一人はセヴァンスの弟でザルバート。

セヴァンスは家業であるぶどう農園を継いでいて、姉と一緒に経営しているわ。ザルバートは軍に入隊して、前線にはあまり出ない部署で働いているみたい。

町には子供がそんなに多くないから、年の近いセヴァンスとザルバートと私たち姉妹は、自然と仲良くなったわ。


私がパティシエとして雇われたのは、このザルバートくんが『私の作ったスイーツがおいしい』と吹聴したせいみたい。会ったら文句をいってやらないと。


「今日はもう疲れたから、明日にでも行くね」


その日は久しぶりにお母さんの作ったご飯を食べて、ゆっくりと眠ったわ。

数か月いなかっただけなのに、もう家のベッドが懐かしく感じたの。


そして翌日。

朝ごはんを食べていると、バタン!!という大きな音がして、玄関の扉が開いたわ。


「ロロメルテ!!おかえりなさい!!」


私がパンを食べているのもおかまいなしに、ぎゅっと抱きしめてくる女性。

姉のフローリアが飛び込んできたわ。


「お姉ちゃん、ただいま!」


私は口に入っていたパンを飲み込んで、あいさつを返す。


「もう、心配したのよ!どうだった?嫌な思いはしなかった?ご飯はしっかり食べられた?怪我はしていない?」


お姉ちゃんは私の顔と頭を撫でまわすと、心配そうに聞いた。


「大丈夫。すごくいいところだったのよ!主様は優しいし、お給料は高いし。とてもいい職場だわ」


「本当?よかったあ、セヴァンスも心配していたのよ。ザルバートといい、どうしてみんな軍の関係者になってしまうのかしら。なかなか会えなくなってしまうし、そんな遠くで働かなくてもいいのに……」


姉の口からセヴァンスという名前を聞いても、私はもう動揺しなくなっていた。

その程度には大人になっていたし、もう乗り越えられていることに安心したわ。


「遠いのは不便だけど、本当にいいところだったのよ。まだしばらくお世話になることにしたの。二週間くらいしたら、また戻るわね」


「いい職場ならよかったけど。嫌になったらいつでも帰ってきてね。うちの農園で雇うからね」


「ありがとう!そうなったらすぐ連絡するね」


お姉ちゃんはふっくらとした頬で、うふふと微笑んだ。

優しさはとてもうれしいけど、農園で働くことになったら少し複雑なのよね。セヴァンスお兄ちゃんは私の初恋の相手だから。いくらもう乗り越えられているといっても、二人とずっといっしょにいるのは避けたいわ。


お姉ちゃんは子供のころからいつも笑顔で、穏やかな性格で怒っているところを見たことがない。

ずっと優しくて大好きな自慢のお姉ちゃんで、セヴァンスお兄ちゃんが選ぶのも納得できる。だからこそ、自分と完璧なお姉ちゃんとの違いが少し苦しくもあった。


「今ザルバートも帰ってきているのよ。知っている?」


「うん、昨日お母さんから聞いたわ」


「ザルバートも会いたがっていたわ。後からセヴァンスと一緒にこっちに来るって」


「そう……悪いわね。こっちから農園に行くのに」


「いいのよ、2人ともたまには農園から離れたいの。最近ずっと仕事ばかりだったから」


「お礼に何かお菓子でも作っておこうかな。手伝ってくれる?」


「やったー!ロロメルテのお菓子も久しぶりね!いくらでも手伝うわ!」


「ご飯を食べ終わったら始めましょうか」


家族で一緒にお菓子作りをするのなんて、何年ぶりかしら。

ディノアマト様のおかげで砂糖が安くなってきたからできることね。私は急いでパンを口に放り込み、片づけを始めた。


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