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04


屋敷に帰り、私は早速リリーにこれまでのことを報告したわ。


「リリー安心して。例のご令嬢は11歳の女の子だったの!ディノアマト様は全く結婚する気はないみたいよ!」


「11歳!?よかった、お子様の憧れだったのね……」


リリーは息を吐き、ほっと胸をなでおろした。


「なんだ、つまんねえなあ。いいネタが出てきたと思ったのによお」


「で、諦めていただくために、ディノアマト様には婚約者がいるとお伝えしたの。リリーがその相手ってことになっているから、今後パーティとかあったらリリーが同行してほしいんだけど......」


『いいかな?』と聞く前に、リリーが叫び声を上げたわ。


「ええ!?!?婚約者!?!?なになになに!?」


リリーが身を乗り出す。顔が真っ赤になっていてかわいらしいわ。


「諦めていただくために仕方なかったの。ご令嬢はなかなか鋭くて、私が恋人と言うには無理があったのよ。......勝手なことしてごめんなさい」


「いいじゃねぇか!おもしろそうなことになった!いやーよかったぜ、最後の最後にいい仕事してくれたなあ」


「ちょうどいいじゃないっすか。このまま待ってても上手くいかないっす。嘘がホントになるように気合い入れるっすリリー!」


リリーは赤くなったままうつむいている。


「でも他の人に取られるくらいなら、私が婚約者のふりをしたほうがいいかも……」


「その意気っす!」


「さすがよリリー!」


励ます私とライガ君。怒られるかもしれないと思ったけど、やる気になってくれてうれしいわ。

他の国の知らないご令嬢とご結婚されるより、リリーと一緒になってくれた方が、使用人としても喜ばしいもの。


「……ロロメルテも、もうすぐこの仕事は終わりよね?協力してくれてありがとう。絶っっ対手紙おくるから!相談にのってね!」


「おお、そうだったなあ。元気でなあ!」


「寂しくなるっすね。おいしいものいっぱいくれて嬉しかったっす!地元に寄るときは連絡するっす!」


「みんなも元気でね!ディノアマト様が食べ過ぎないように見張っていてね」


お別れをする前に、一仕事ができてよかったわ。

さて、パティシエとしての仕事は私ももう少し残っている。キッチンに向かって、最後の料理の準備を始めるわ。


◇◇◇


今日作るのは、『レモンケーキ』。夏の始まりにぴったりな、すっぱくてさわやかなケーキよ。

パーティの会場でレモンを使ったケーキがあって食べたくなってしまった、という単純な理由なんだけど……。


私は少しすっぱいケーキが大好き。果物も酸味を感じる方がうれしいし、特に食欲が落ちる夏は、すっぱさがあった方が食が進むような気がする。


調理の準備として、まずはレモンの皮をすりおろす。レモンのさわやかな香りが漂うわ。この香り大好き。


ディノアマト様が減量をし始めてからは、以前と違って大量に作らなくていいから、こういった細かい作業が楽になったの。


次にレモンを絞って、果汁を取っておく。生地に入れるためね。

小麦粉、溶かしたバター、卵などを混ぜて、用意したレモンの皮や果汁を入れる。


後は混ぜて型に入れて焼くだけ。

パウンドケーキで使うような長方形の型に生地を注いで、かまどに入れるわ。

だけどこれだけだとレモンの風味が少ないかも。

残ったレモンを薄い輪切りにして、お鍋に入れる。砂糖で煮詰めて、ケーキの飾りにしましょう。


焼けたケーキの上に並べれば、輪切りのレモンがかわいいレモンケーキの完成!

おっと、少量を食べていただくためにも、薄く切って一食分にしておかないと。

これで何日か食べられるでしょう。


勤務最終日までに荷物をまとめないといけないから、数日分を今日のうちに作っておこうと思ったの。

これで私のパティシエとしてのお仕事は終了。

楽しかったけど、また別の仕事を探さないとね。


ケーキを切り分けていると、キッチンの扉が開いた。


「……ロロメルテ、少しいいだろうか?」


入ってきたのはディノアマト様だった。


「はい!いかがされましたか?」


何のご用事かしら。


「ああ、仕事のことなのだが……。もし君が良ければ、今後もパティシエを続けないか?」


「ええ!?でも、ジェノワさんが帰ってこられるのでは?」


予想外の内容だったわ。嬉しいけど、どうして?


「一旦体調は回復したのだが、あいつも高齢だ。長く働き続けるのは難しいだろうという手紙が来たのだ。今後は月の半分だけ勤務し、半分は休めないかという相談をされてな」


「なるほど、そうだったのですね……」


「君が嫌でなければこのまま継続してほしいのだが……。いや、もちろん無理はしなくていい!まだ数日ある。時間をかけて考えてくれても……」


「いえ、続けさせてください!ぜひとも!!」


私は力強く答えたわ。お仕事が楽しいと感じ始めていたし、何より屋敷のみんなともっと一緒に居たいもの!


「そうか……!それはよかった。それでは今後ともよろしく頼む。期待しているぞ、ロロメルテ」


「はい!」


「おや、これは今日の分のデザートだな?……まるで褒章のメダルのようだ。今日も楽しみにしている」


ディノアマト様はレモンケーキの上に乗った丸いレモンを見て、ぼそりとつぶやいた。

メダルね。今日はまだ例えとしては良い方だわ。


私は早くリリー達にこのことを伝えたくて、大急ぎでケーキを切り分ける。

頬が緩んでいるのを感じるわ。自分で思っていたより、仕事を辞めることに寂しさを感じていたのかも。


私とディノアマト様の間には、ドラマチックな愛情はなく、命をかけた絆もない。あるのは「甘味を提供するパティシエ」と「それを凄まじい勢いで消費する雇用主」という繋がりだけね。


けれど与えられた役割を精一杯果たすために、私は今日も自信作をトレーに乗せる。

あの強面な軍人様の厳めしい顔を、ほんの一瞬だけ緩ませるために。

お読みいただきありがとうございました!本編はここまでで完結です。

後はディノアマトの元妻と、ロロメルテの失恋の話をおまけとして更新します。

時系列的に入らなかった日常の話も入れるかもしれません。

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