03
「エレアノール様、私はもうすでに一度結婚しておりますし、このような不出来な男では、エレアノール様の外聞も良くないでしょう」
リンダーグ王国のご令嬢とディノアマト様の結婚は、国の友好関係につながる、とてもメリットのあるもの。けれど人を脅迫するようなバールノルド中将ですら、メリットよりデメリットを感じている、ちょっと危ういものなのね。そして当然、ディノアマト様は断りたいと。
断るつもりでいたから、女性連れで参加をしても問題がなかったのね。
リリー、よかったわね。大丈夫そうよ!
私は心の中で励ましの叫びをあげてしまう。
するとさらに、その場に男性が近づいてきた。
「エレアノール、探したよ!勝手に動き回っちゃダメじゃないか!」
きらびやかな装飾の付いた服をまとった、優しそうな男性が、ご令嬢に声をかける。
「アルバート伯爵、ご機嫌麗しゅうございます」
「ご機嫌麗しゅうございます」
お二人がおそらく貴族風の、聞きなれない挨拶を向ける。私も一応あいまいな笑みとお辞儀をしておくわ。こういったときの作法を事前に聞いておくのだった。全然何をすればいいのかわからないわ。
「ああ、ご機嫌麗しゅう。エレアノールが迷惑をかけたね」
「おとうさま!こちらがディノアマト様よ!ごあいさつして!!」
なるほど、エレアノール様のお父様。伯爵ということだから、身分の高い方なのでしょう。
「ああー……。噂の」
瞬間、アルバート伯爵の顔から表情が消える。空気が一瞬にして悪くなったのを感じるわ。
「君の話はエレアノールからよく聞いているよ。どうもこの子が君を気に入ってしまったみたいでね。なるほどこの子が言うのもわかる。男前じゃあないか!」
「恐縮でございます」
ディノアマト様も張り付けたような笑みで迎えるわ。
張り付けたような、と感じるのは、普段こんな顔を見たことがないからかもしれない。
「しかし~~ねえ?君もわかるように、エレアノールはまだ子供だ。さすがに~~~ねえ?」
「はい、もちろんでございます。私のようなものが婚約者となっては、エレアノール様に恥をかかせてしまいますから!」
アルバート伯爵の、お嬢様の願いをかなえてあげたい親心と、嫁にあげるわけにはいけない親心が交差している様子。ディノアマト様としてもさすがにお断りしたい様子。
複雑なようね。
「なんで!?だってディノアマト様は、おくさまがなくなってからずーっとひとりみだって!おせばいけるってきいたもん!!」
誰が一体そんなことを……。
大人たちが必死に断る流れに持っていくのに対し、エレアノール様はおかまいなし。
でもそうよね。大人の事情なんて、子供には関係ないもの。
膠着状態におちいり、困り気味の大人たちを見て私はひとつひらめく。
少しかわいそうだけど、これならどうかしら。
『誰からそんなことを?』
『ディノアマト准将にだって相手がいらっしゃるだろう』
などと皆さんが話されている隙を見て、私はディノアマト様に耳打ちする。
『ディノアマト様、交際相手がいると伝えましょう!リリーの特徴を述べてください!秘密にしていたものの、元部下と付き合っていると!』
『いや、それではリリーに無礼だろう』
『リリーは気にしません!私が保証します!後でしっかり謝罪して、お土産でも買って帰りましょう!』
『むう、しかし……』
『明確な理由もなく断れば、噂が巡り巡って、リンダーグとの関係性に響くかもしれませんよ!』
『……!』
国交への影響が決め手となったのか、ディノアマト様はしぶしぶとこの作戦を実行してくれるようだった。
「あー……エレアノール様。実は秘密にしておきたかったのですが、私はもう独り身とは言えない状態でして……。結婚を考えている相手がいるのです」
「「!!!」」
「な……!!そんなのきいていないわ!うそよ、うそ!!」
「ほら、エレアノール!やはりいい男には相手がいるのだ。邪魔をするわけにはいかないだろう?」
「どんなひとよ!?がいけんは?せいかくは?どうやってしりあったの!?」
エレアノール様の質問攻め攻撃。ディノアマト様、ここが頑張りどころです!!
「あー、その……、背は高く、性格は仕事熱心で……、軍に所属していた元部下です」
「もとぶか……!!そんなの、そんなの、らぶろまんすのおうどうじゃない!!」
ディノアマト様のあたりさわりのない説明のせいで心配だったけど、謎な部分がエレアノール様に刺さったらしいわ。お嬢様は急激におとなしくなられた。
「まけたわ……。でもまだ、じつざいしていないかのうせいもあるもの!こんどリンダーグとのパーティがあるときはかならずつれてきてよ!!ひとめみないとなっとくできないわ!」
「かしこまりました」
「さっ、エレアノール、用事も済んだし、皆さんにご挨拶に行こうか!いやー残念残念!もっとほかにいい男がいるかもしれないしね!!」
ずるずると引きずられるようにして、エレアノール様は立ち去って行った。
「……大変でしたね」
「いやー、良い機転だった!これでとりあえず時間が稼げたね」
バールノルド中将は喜びの声を上げる。結果的にこの人のためにもなったことは悔しいけど、仕方がないわ。
「リリーには申し訳ないな。噂が広がらないといいが……」
「ディノアマト様、すこしお菓子を食べましょう。食べ過ぎないよう見ておきますので」
「おいしくても顔に出しすぎないようにね。よろしく」
バールノルド中将は警告すると、人ごみの中に混ざっていった。
リリーには良い報告ができそうだし、最後の最後でいい仕事ができたのではないかしら。
この後ようやく一息ついた私は、非日常なパーティを楽しむことができたわ。
この日食べた一流スイーツは、さすが貴族様御用達のものだけあって、頬が落ちるような最高の出来栄えだったの。




