02
こうして、私はディノアマト様にお供して、人生初のパーティに参加することになったわ。
会場に到着して、私は早速後悔してしまう。
「……なんですかこれは!?」
ディノアマト様のお屋敷もかなり大きくて豪華だと思っていたけど、その比ではない、美しい装飾、見渡す限り続く壁、頭を真上まで上げても見えないような高い屋根。こんな建物が国内にあったなんて。
「私もここには初めて来た。圧巻だな」
ディノアマト様すら感心しているわ。
というか、これ、この服ではまずいかも……。
屋敷内に入ると、予想は的中した。
リリーが言っていたように、会場内の女性たちの服装はボリュームのあるスカートに、巻ける限り巻いた髪、付けられるだけ付けたジュエリー。服屋の売り物をすべて盛り付けてきたような、ゴージャスな装いだったの。
それに対して、私はせいぜい気合の入ったデート服という感じ。野菜屋さんにこの服で行ったらからかわれるだろうけど、この場で歩き回るほどの勇気はまとえない。
「ディ、ディノアマト様……」
「よし、それではあいさつに周るか」
「ディノアマト様、ちょっとお待ちください!!」
「む、なんだ……?」
私は服、服がさすがに!!とジェスチャーで示す。けれどディノアマト様は私の服装を全く気にしていないようだった。
「あの、この服ではさすがに、会場に不似合いすぎではありませんか!?」
「そんなことはない、似合っているぞ」
いや、ディノアマト様は本当に全く気にならないかもしれませんが……。
実際に、豪華な服を着た貴婦人たちからは、すでにちらちらと侮蔑の視線を向けられている気がする。
「そうか……?気になるようなら、私の上着を貸そう。軍服の者ならいくらでもいるだろう」
言われて会場を見回すと、確かに女性でも軍服で参加している人がいる。きっとキャルトナータ側の参加者なのでしょう。
「ありがとうございます、お借りします!!」
少しでも悪目立ちしないよう、私はご厚意に甘えることにしたわ。
「うむ。準備ができたら、あいさつ回りに付き合ってくれないだろうか。うっかり甘味をとりすぎてしまわないよう、見ていてくれ」
「はい、かしこまりました」
ディノアマト様は会場にいる人たちに声をかけ、少し会話を交わすと次の相手へ、ということを繰り返していったわ。
「おやディノアマト准将、お隣の方は?」
当然私との関係性を聞かれることもあったんだけど、
「ああ、うちのハトコです。こういった場所にも慣れてもらおうと思いまして」
と、スムーズに嘘をついてどうにかしていたわ。
さすが軍人様。普段は甘いものに傾倒しているところしか見ていないけど、こういった強かな面もあるのね。
ディノアマト様のお上手な話術のおかげで、私は大して話すこともなく、ほほ笑んでいるだけでなんとかその場をやり過ごすことができたわ。
だけど、慣れない軍服の重さとたくさんの人に会ったことで、私はくたくたになってしまった。
「ディノアマト様、申し訳ございませんが、少し疲れてしまいました……。休んでもいいでしょうか?」
「おお、すまない。気が利かなかったな。はじで休んでいてくれ。何か飲み物を取って来よう」
そう言うとディノアマト様は、私を休ませて食事のテーブルの方に向かってくれた。
使用人のために自ら動いてくれるなんて……。本当にいい主様だわ。
しばらくぐったりと休んでいると、小さな女の子が近づいてくる。
フリルの付いたかわいらしい服装からして、きっとリンダーグ王国の参加者ね。
「あなた、しようにんでしょう」
「はい?」
突然話しかけられて、しかもその内容が思いがけないものだったから、思わずおかしな返事をしてしまったわ。
「たちふるまいがぎこちないわ。ゆいしょあるいえがらのじょせいにはみえないもの。しようにんでしょう?」
「…………ええと……」
ばれてしまったわ。やはり庶民のにおいは隠せないのかしら。だけどディノアマト様が『ハトコ』と表現したからには、きっと使用人であることは言わない方がいいのでしょう。
私はどう答えたものか迷ってしまう。
「わざわざじょせいづれでくるなんて……。あなたまさか、ディノアマト様のあいじんじゃないでしょうね?」
私の答えを待たず、そのお嬢様は話を進めてくる。
「ええ!違います!」
「そうよね。ねえ、ディノアマト様はいまおひとりってきいてるけど、まちがいないわよね?」
あれ。この子はもしかして、例のご令嬢の妹さんか何かなのかも。
私はピンと来てしまう。そういえば、敵情視察も目的だったのよ。初めての経験ばかりで疲れて忘れていたわ。
「おや、君は!久しぶりだねえ」
また別の声が聞こえて、私は顔を上げる。
すぐ近くにいたのは、私を脅してディノアマト様のパティシエにさせた、バールノルド中将だった。
「あなたは……!!」
私は当然、この人のことがあまり気に入っていない。
また会うことになるなんて思っていなかったわ。
「エレアノール様もご一緒とは。仲良くなられたのですか?」
そのお嬢さんは、エレアノールとおっしゃるらしい。
そういえばこの子、あいさつも名乗りもなしに話しかけてきたわね。あんまりお行儀がいいとは言えないのじゃないかしら。
「バールノルド!ディノアマト様はどこ?しょうかいしてくれるっていわれたのに!」
「もうすぐ戻りますよ。もうすぐです」
するとバールノルド中将が言うのに応じたように、ディノアマト様はお戻りになられた。
「おや、バールノルド中将。いらしていたのですね」
「おお!ほら、来ましたよ、エレアノール様。ディノアマト、こちらが伝えていたご令嬢、エレアノール様だ」
バールノルド中将が仲介している間、ディノアマトは私に飲み物を渡してくれる。
『ロロメルテ、体調は大丈夫か?』
『はい、良くなってきました』
おそらく高身分のお相手を紹介いただいているので、小声でやり取りをして、ディノアマト様はエレアノール様に向き直った。
「エレアノール様、ディノアマトと申します。お会いできて光栄です」
「ええ、ええ!こちらこそあえてこうえいですわ!ずっときょうをまっていて、ねれないほどでしたの!ところではなしは、つたわっているのかしら……?」
エレアノール様は頬を赤らめ、もじもじしながら言った。先ほどまでの強気な態度が嘘のよう。
「エレアノール様がディノアマトをお気に召しているということであれば、伝えておりますよ!しかしほら、年齢もありますし……」
うん?なんだかもしかして、思っていたよりもかわいらしいお話なのかしら。
さすがに私は気がついた。
この子の『お姉さん』がディノアマト様を気に入っているのではなく、この10代くらいの、まだ舌ったらずな話し方のお嬢様が、婚約を希望しているご令嬢?
「ねんれいなんてかんけいないわ!わたしはもう11才よ!あと5年すればけっこんできるし、としのさけっこんなんてたくさんあるでしょう!」
「確かにリンダーグ王国ではそうかもしれませんが、我が国ではあまり年の差結婚が多くなく……。この国では、その、忌避されるべきものといいますか……」
なるほど、見えてきたわ。
リンダーグ王国では年の差はあまり気にされない文化があるみたい。一方、キャルトナータではとても年が離れた相手と結婚することは、正直、その……。一生謗られるような、まともな人にあらずというか、世間体がかなり悪いのよね。
そしてバールノルド中将としてはエレアノール様との婚姻は進めたくないみたい。




