03
◇◇◇
「ライガ、これはお前にやるう。こっちはロロメルテ、お前の分だあ」
キッチンにつくと、ルシアン様は買ってきた自分のおやつをどさりと渡してくれた。
「やったー!あざっす!」
「いいのですか!?」
「あー。勉強の機会をうばっちまったからなあ。これが例のマカロンだ。よーっく味わって食えー」
ルシアン様が置いた箱の中には、丸い形の生地の間にクリームを挟んだスイーツが入っていた。
厚みのある丸形と、ピンクの色がかわいらしい。こんなの見たことない!
「きれい……!」
「マカロンのレシピもジェノワから教えてもらったことがあるう。それも書いて置いてってやろお」
ライガくんはもらったお菓子を早速食べている。早いわね。私も便乗しちゃいたいな。
「これ、今食べてもいいですか?」
「好きにしろお」
私はフォークを持ってきて、マカロンに刺す。そのまま口に運ぶ。
「! おいしい!」
すごい食感!ディノアマト様が言っていた通り、さっくりとしていながら、飴のような弾力もある。不思議な感覚ね。
優しい甘さと、間に入っていたクリームのバランスも良いわ。
「~~~~!」
私の感動している表情を見て、ルシアン様がうなずく。
「うまいだろー。マカロンくらいのサイズのものなら、たまにディノアマトに与えてもいいー。ただし数は制限しろよお。レシピはここに書いておくう」
ルシアン様が紙に書いたメモを作業台に置いてくれる。
「ルシアン様、ありがとうございます!とてもとても、おいしいです!」
だけど、これは数を制限するのが難しいかも。独特な食感が楽しくて、いくらでも食べたくなってしまうわ!食べたばかりなのに、もう物足りない。もっともっと食べたくて、もう次はいつマカロンに会えるのかそわそわしてしまうの。きっとディノアマト様なら、なおさら我慢するのが難しいでしょう。
「食ったら次は体重管理のレシピだあ。俺がよく作らせてる『メープルナッツ』を教えてやるう」
ルシアン様はまたどかりとご自分の買った紙袋を置いたわ。
「材料は簡単。メープルシロップと好きな木の実だあ。俺が買ったのはクルミとアーモンドだがあ、買いやすいもんで好きに選べえ」
ふむふむ。
手持無沙汰なのか、ライガ君も説明に聞きいっている。ふむふむ。
すると、『ここから先はお前が作りながら覚えろお』と言って、ルシアン様がフライパンを渡してくるわ。
はい、わかりました。
「木の実をまず乾煎りするう。この方が香ばしさが出てうまいかんなあ」
私はフライパンを構え、ざらざらと木の実を流し込むと火にかけていく。
「なんとなく火がまわったらあ、メープルシロップを入れていくう。木の実全体に行きわたるように混ぜろお」
どぼどぼ。ナッツの上からメープルシロップを投入すると、すぐにじゅわっとメープルシロップが沸騰していく。
へらを使いながら、全体に均等にメープルシロップが絡まるように、フライパンをはねさせていくわ。
「そこからは一瞬で焦げるう。絶対に目を離すなあ」
「はい!」
「うわ、いい香りっすね~」
ライガ君が物欲しそうに見ている。
フライパンからは熱されたメープルシロップの良い香りが漂うわ。
メープルシロップというのは、木の樹液だって聞いたことがあるせいか、森を連想する香りがする。はちみつとはまた違う大人な香りね。
「絶対にまだ食うなよ。舌がただれるぞお。液体が少なくなったら火を止めて冷ますー。……そろそろいいだろー。」
「はい!」
「できた分は皿によけておけえ。そのまま置いておけば完成だあ」
ざらざら。私はお皿に木の実を移動していく。
「良い匂いっすけど、見た目は結構地味っすね?」
ルシアン様はふふん、と息を吐いた。
「なめるなよお。異国ではあ、かつて女王に献上されていたとも言われているう。味は間違いないー」
「ケーキと比べると、お腹いっぱいにならなそうですねえ。ディノアマト様にこれで足りるでしょうか……」
「食えばわかるがあ、これは一つ一つが相当甘ぇし、よく噛むことで満腹感も起きやすいー。少量でも普通なら足りるはずだがあ、あいつは腹いっぱいになるまで甘いもんを食いすぎだあ。少しの量を味わって食うことを覚えたほうがいいだろー。後は晩飯を早くして、食後に菓子を食うとかあ、順番を気をつけろお」
そうやってしばらく話していると、作ったメープルナッツが冷めて固まってきたわ。
「そろそろいいだろー。食ってみろお」
私とライガ君はナッツをつまむ。ぱくり。
「えっ、うっま!!なんすかこれ!?」
「ほんとね!おいしい!!」
炒ったアーモンドがさっくさくになっていて、周りのメープルシロップも冷めてカリカリになっているわ。噛んだ瞬間にカリッ、さくっ、という軽い口当たりと、強烈な甘さ。森の香りが広がって……おいしい!
「こんなん、いくらでも胃に入るっすよ!ディノアマト様に我慢できると思うっすか?このへんの木の実が狩りつくされるっす!」
ライガ君の心配はもっともだと思うわ。だってだって、私ですらもっと食べたいのだもの!ディノアマト様がこの量で我慢してくれるとは思えない。
「いーや、慣れさせんだよお。食い続けりゃあわかるがあ、めちゃくちゃに甘えからあ、そのうち少しの量でも飽きるようになってくるう。そうなるようにお前らが監視しろお」
「がんばります……」
「とりあえず、もっと食ってもいっすか?」
◇◇◇
ルシアン様に教えていただいたメープルナッツと、時々のマカロンで、ディノアマト様の減量計画が始まったわ。
「ぐう……!これだけか……!!うまい、とてつもなくうまいが、だからこそ……!!」
ディノアマト様はやっぱりつらそうだったわ。
我慢なしの好き放題生活から、一変しているもの。よく耐えていると思うわ。
ルシアン様のご意見の通り、最近では夕方のおやつタイムをなくして、小腹がすいたらメープルナッツをつまんでいただき、ディナーの時間を早めることにしたの。これでどうにか空腹にはならないようにしているみたい。
最初こそがっかりしていたディノアマト様だけど、生活を変えてしばらくしてからは慣れてきたみたい。
「確かに強い甘みがあるおかげで、少量でも満足感がある。カルトロップのような見た目で、侮れないな。
ざくざくと軽い食感で気分転換にもなり、栄養価も高そうだ。軍の補給食にとりいれられないだろうか」
と、余裕がありそうなことを言っていたわ。
カルトロップというのはまきびしですって。馬の足止めなどに使うらしいわ。またいらない武器の知識がひとつ増えてしまった。
ディノアマト様は元から運動量は多いみたい。毎日訓練を欠かしていないから、『食事を変えれば徐々に体重は減るはずだ』とルシアン様は言っていたわ。『急にやせすぎるのもよくない』ということで、食事の全体の量は減りすぎないように注意しながらね。
さて、これでディノアマト様の体重は戻ったのかというと……。
1ヶ月以上はこの生活を続けないといけないから、まだわからないの。
そして私はその結果を見届けられないかもしれない。屋敷で働き始めてから2ヶ月以上経っている。勤務終了のときが近づいているわ。




