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屋敷に帰ると、ルシアン様は私たちのことも差し置いて、勝手知ったる様子でズカズカとディノアマト様のところへ向かっていったわ。私たちは小走りにルシアン様の後を付いていったの。
「おお、ルシアン!どうした、突然だな」
ディノアマト様は執務室でお仕事をしていた。
「よお、この大馬鹿もん。お前、最近も、ずっと、好きなだけ、限度を考えずに!山ほど!甘いものを食ってたんかあ?」
ルシアン様は口元は笑いながらも、咎めるような口調でディノアマト様に詰め寄った。
ディノアマト様は気まずそうな顔をすると、ルシアン様から目をそらす。
「…………ばれてしまったか」
「最近の健康診断でえ、急激に体重が増えてたのはこのせいか!血液の状態も、歴代で一番悪いと聞いてるう。お前、ジェノワがいないのをいいことに、無茶苦茶な量をパティシエに作らせたなあ?」
「………………」
「診断結果がわかった後は控えたんか?いーや、俺は知ってるう。食べる量変わってねえんだろ?」
「…………少しは減らしてる」
「おいパティシエ、どうなんだ?」
私もさすがに、ここまでのお話を聞いて察しがついていた。
そういうことなのね。確かに、屋敷に来た時から、私も心配はしていたわ。なので、正直に言うしかないでしょうね。
「……とくには、変わっていないかと」
「おやおやおやあ?聞いたのと違うなあ?どっちが嘘をついてんのかなあ?もしかしてこの使用人は大噓つきなんかあ?そりゃ良くねえな、屋敷の中に危険人物がいるなんてよお」
ディノアマト様は、もはやすべてを諦めた表情で苦い顔をしている。
「わかった、わかったから……。客間に行こう。こんな場所ではなんだろう」
移動している間も、ルシアン様はディノアマト様に小言を言っていたわ。
客間につくと、私はお二人に紅茶をご用意した。
『俺が買ってきたものも出していい』ということだったので、ルシアン様が買っていた例の特製マカロンもお出ししたわ。
「新しいパティシエ、さっきの話でわかってると思うがあ、こいつは最近の健康診断で激太りしてることが判明してるう。原因はお前だ!!」
ルシアン様はビシーッと指をさしてくる。
ええー。いきなり犯人扱いされてしまったわ。
「ルシアン、激太りというほどではない。せいぜい数キロの微小な変化だ……」
「三か月ごとの健康診断で数キロなんだからあ、このままほっといたら激太りになるだろがあ」
ルシアン様はぎろりとディノアマト様をにらむ。ディノアマト様が言葉に詰まっている。
こんなに追い詰められたディノアマト様を見るのは初めてだわ。
「パティシエ、ロロメルテだったか?どうせ『5人前くらい作れ』とか言われたんだろう。ばくばく短時間でスイーツを飲み込んでいくところを見てえ、やばいかもお、とか思わなかったんかよ?」
「たしかに、心配にはなりました……」
心当たりは確かにあった。だけどディノアマト様は体も大きいし、それくらいが普通なのかと思ったの。
ライガ君も隣であちゃー、とお手上げの様子を見せている。
「だろお?止、め、る、ん、だよそういうときはあ!『ディノアマト様、そろそろお体に障ります』とか言ってえ」
「ルシアン、ロロメルテを責めるのはやめてくれ。彼女は悪くないのだ。私が頼んだのだ」
ディノアマト様が濡れた犬のようにしゅんとしている。
「……まあ、新人パティシエが主人に意見するなんて無茶な話かあ。でも今後は俺が許可する。ディノアマトが食べ過ぎてる時はあ、絶対に止めろ。なんなら大量に作る前に断れ!」
「……!ルシアン、なんということを……!確かに私が悪かった。自己管理ができていなかった。しかしせめて、せめて期限を設定してくれ。永遠に節制をするなど、私には無理だ……!」
おかわいそうに、ディノアマト様!と私は思ったけど、ふと考え直す。結構普通のことを要求されていない?これまでのディノアマト様の食欲がおかしかったのではないかしら?と。
「チッ。仕方ねえ。そうだなあ、体重をもとに戻したら、二週間に一回だけ好きなだけスイーツを食べられるようにしようかあ」
「わかった、そうしよう……クッ」
ディノアマト様は悔しそうに唇を噛み、耐えがたい、というような表情をしているわ。
「ロロメルテ。あほみたいだと思うかもしれねえがあ、こいつはこれでもキャルトナータ帝国の命運を左右する重要人物だあ。こいつが倒れれば、今どうにか抑え込んでいる強硬派……つまり交戦大賛成な迷惑な金持ちどもが、金と権力で無理やり他国にケンカを売りまくるう。
体型の急激な変化はあらゆる病の元だあ。こいつの健康状態は、もはや国民全体で守るべき国家プロジェクトなわけだあ」
そんな重大な話だったとは。私は自覚が足りなかったことを反省してしまう。
「前のじいさんはいい感じに制限させていたあ。良き臣下であるためには、たまには主に意見しろお!
ライガ。料理人もお、協力する義務がある。しばらく油っぽい揚げもんは控えてえ、野菜を増やせえ!」
「はい!了解っす!」
「……わかりました。ディノアマト様、これは私の責任でもあります。今後は厳しくいかせていただきますが、いいですね?」
「……ああ、致し方ない。よろしく頼む」
「ついでに俺がよく食ってる健康にいいデザートも教えてやるう。ちょうど今日材料も買ってきたからあ、キッチンに行くぞお」




