第8話 やむを得ない失敗
そこまで説明したところで、名乗っていなかったことに気づいた。
警戒を解くためにも、名前くらいは言っておいた方がいいだろう。
俺が『パルティカ』で作ったキャラクターは、『フォルティ』という名前にするつもりだった。
ラテン語で『最強の』を意味する『fortissimum』を短くして、名前っぽくしたものだ。
見た目や身体性能があのキャラそのままだから、名前もこれでいいだろう。
日本風に『ハヤト』とかにして、転生者疑惑とか起きたらまずいし。
この世界に俺以外の転生者がいるかは、まだ不明だけれど。
「以上。俺はフォルティと呼んでくれ。あと質問か要望があったら言って欲しい。さっき言った通り、出来ることなら何とかする」
「わかりました。私はクリスティナ、こちらはシャルロットです。それでは相談したいので、シャルロットの魔法を解除していただいて宜しいでしょうか」
「わかった」
とりあえずクリスティナがそう言うなら、問題はないだろう。
俺は時間停止魔法を解除する。
シャルロットが起き上がり、クリスティナと周囲を見て。
そして2人で話しているのをぼんやり観察する。
クリスティナは見た目では日本の高校3年くらいで、中肉中背だけどかなりメリハリが大きめ、もっと言うと胸が大きめ。
肩より少しだけ長い栗毛色の髪と、やや大きめの目。
可愛いと綺麗の比率は2:8位だろうか。
シャルロットはそれに比べると、やや幼く可愛い系。
年齢が小6か中1位だから、当然だろう。
髪は金髪で肩まで、胸は今後に期待というところだろうか。
2人とも、なかなか可愛いし綺麗な方だと思う。
『奴隷として所有する』を選択しておけば良かっただろうか。
いや待て俺、それは間違いなくアウトだ!
なんて思った次の瞬間、何かやばい予感がした。
いや、予感ではない、危険察知魔法だ!
そう気づいた次の瞬間、俺は反射的に転移魔法を発動する。
移動先を選んでいる余裕はない。
とっさに見えた3km東の林の中へ。
着いたのは、下草少なめの暗い林の中。
「敵の追っ手だ。調べるからもう少し待ってくれ」
2人から苦情が出る前にそう説明しつつ、先程までいた場所を遠見魔法で確認。
外見ですぐに気づいた。
先程まで俺たちがいた河原に立っているのは、知っているキャラクター、ここはゲームではなく現実だから人物というべきか。
黒いマントに身を包んだ細長い身体、腰まで伸びた銀髪、開いているか閉じているかわからない両目。
サブシナリオの『悪魔の手』でサタナテスと全面対決すると出てくる、サタナテス最強最悪の魔法使い、セヌテラだ。
このルートでシナリオをクリアするには、レベル30以上が必要。
もちろんゲームの『パルティカ』での話だけれど。
しかし今のところ、この世界はゲームの『パルティカ』に酷似している。
だからきっと、同じようにレベルがあるだろう。
ステータス閲覧が出来ないから、確かめられないけれど。
俺は先程サタナテスの支部幹部を倒した。
俺より遙かにレベルの高い敵のはずだから、それなりの経験値は稼げたはずだ。
それでもレベルがあるとすると、いいとこ5程度。
普通なら俺に勝ち目はない。
それでも今なら、奴を倒せる可能性が高い気がする。
神と称する存在から与えられた、俺専用の魔法を使えば。
ここで無力化しておかないと、後が厳しいだろう。
だから俺は、審判魔法を起動する。
「審査魔法、対象は現在遠見魔法で確認中のセヌテラ」
直接目で見ていなくても、魔法で居場所を把握していれば審判魔法は使えるはずだ。
少なくとも俺の認識では、そうなっている。
奴の動きが、止まった。
同時に情報が頭の中に流れ込む。
『セヌテラ・ナボエヌ:マルカド王国最大の犯罪組織『悪魔の手のナンバー3。トラルテスコ第二支部を壊滅させた魔法使いの魔力を追って出現した。これまで直接的に殺害した者70人以上。命令により殺害した者100人以上。セヌテラの主導で起きた犯罪の直接的な被害額正金貨200枚以上、間接的な被害額は算定不能』
審査魔法は、無事発動した。
なら判決魔法で奴を処分できるはずだ。
しかし魔法を維持するために、結構な負担がかかっている気がする。
具体的には頭が重いというか、頭痛というか、体力を消耗したような疲れとかを感じるのだ。
これはセヌテラが、俺の審判魔法に抵抗しているからだろう。
奴と俺では、魔力に圧倒的な違いがある。
いかに神の力を借りた勇者独自の魔法だろうと、抵抗された上で解除されてしまう可能性が否定出来ない。
だからオプションが多数ついた複雑な処分は、避けた方がいいだろう。
シンプルでわかりやすい内容の方が、同じ魔力でも威力が上がる気がする。
最小限で、かつ奴が脅威でなくなる処分というと、アレだな。
そう思いつつ、俺は魔法の発動を宣言する。
「判決魔法、被告はセヌテラ・ナボエヌ」
予想通りの選択肢が出てきた。
正直、奴のこれまでの行動を考えると甘すぎる。
それでも、奴の力を奪い、貶めるには十分だ。
ということで、俺は浮かんだ選択肢の中から、もっともシンプルなものを選択。
いつもの声が俺の周囲と、おそらくはセヌテラがいる付近にも響きわたった。
「被告セヌテラ・ナボエヌから、魔法および魔術の使用能力を剥奪する。なお審査結果および判決については、本人の関係者全員に神の御力をもって周知する」
これで無力化出来ただろう。
それに魔法が使えなければ、セヌテラはサタナテスで大きな顔をすることは出来まい。
セヌテラは、組織内でも敵が多い。
今までは圧倒的な魔力と魔法の腕で押さえつけていただけだ。
今後は関係者から逃げ回ることになるだろう。
そんな環境で、奴がどこまで生き延びられるか。
いずれにせよ現時点では、脅威ではなくなった。
そう思ったところで。
「今の声や魔法は、フォルティのものですか?」
クリスティナの言葉で、俺は気づく。
2人に今の判決魔法の発動と、判決の伝達を聞かれてしまったことを。




