第35話 本音?
「わかりました。今回は本当にありがとうございました」
「お礼はいらないよ。でももしこの迷宮を攻めるというのなら、採取した薬草は今まで通り処理して、この店に持ってきてくれ」
「わかったのです。それではまた、持ってくるのです」
こんな感じでファルマさんの薬屋を出たところで、アンジェがぼそっとこんな事を言う。
「何かフォルティにあれこれと聞きたいことが多いのですが、まずは飯なのです。頭を使いまくったので、お腹が空いたのです」
「それですけれど、もし良ければ売っている惣菜類を買って帰って、宿で食べませんか?」
クリスがそう言う理由はわかっている。
アンジェのお祝いとして買ったケーキがあるからだ。
「惣菜はお高いので、勿体ないのですよ」
「あの後も迷宮に行って魔物討伐をしてきたので、充分稼いでいます。だから惣菜を買うくらいは問題ありません」
アンジェとクリスの金銭感覚、どうやらかなり違う模様。
なんて思ったところで、アンジェが頷いた。
「なら、久しぶりに美味しいものを食べるのも悪くないのですよ。ということで、市場で惣菜の美味しいあたりは、こちらなのです」
今回はお安くて量が多い店ではなく、少し高めだけれど美味しい店に連れて行ってくれるだろうか。
食堂ではなく、惣菜店だけれど。
そんなことを思いながら、俺達はアンジェについていく。
◇◇◇
あれこれ購入したものを、部屋の応接セットのテーブルに並べる。
「私史上で、最も豪華な食事なのですよ」
そうアンジェは言うし、お高い昼食以上のお値段がしたけれど、日本人の目から見るとそこまで豪華では無い。
だいたいこんな感じだ。
○ ベリー味のソースがかかった鳥のソテー
○ ジャガイモと挽肉で作られたパイっぽいもの
○ カボチャやジャガイモ、人参、挽肉が入ったグラタン
○ タマネギと鳥皮のスープ
○ 鳥皮と葉物野菜を炒めて卵とチーズをからめたもの
○ 全体的に茶色いパン
○ 豚背脂の塩漬けハーブ入り
「あとはデザートもあります。アンジェが薬師になれたお祝いということで」
クリスがそう言うので、俺はあのお高い菓子屋で買ったケーキを出してテーブルに置く。
「えっ!」
アンジェが、固まった。
おいおいおい。
そう思ったところで、クリスが何か魔法を発動する。
アンジェが、復活した。
どうやら今のは状態異常解除の魔法で、アンジェは驚きのあまり状態異常と言える程度に固まっていた模様。
「って、あれはファルマさんが教えてくれたから出来る様になっただけなのです。私の実力では無いのですよ」
「いや、アンジェの実力だ」
ここは俺が、言い切らせて貰おう。
「薬品類を作るには、主な薬草の名前と特徴、下処理の方法、その他保存に関する注意事項を一通り知った上で、薬品造りの流れと注意点を覚える必要がある。いくらファルマさんに教わったとは言え、1日で標準の薬品だけでなく、戦闘にも使える薬品を使えるようになるには、それ相応のセンスと実力が必要だろう」
「そうそう、そこが不思議なのですよ」
思わぬ言葉が、アンジェから出て来た。
「本当ならここで、感謝の言葉を述べるべきだとはわかっているのです。ただちょうどいい機会なので、あえて今一番思っていることを率直に言わせて貰うのです」
何を言う気だろう。
アンジェは一息分間を空けて、そして続ける。
「フォルティは、魔法だけでなく剣や槍も使える万能の戦士といった感じなのです。それなのに、専門外である薬師や錬金術師についても、ある程度は知っている様なのです。更にはカリミナス迷宮だけでなく、他の街や迷宮についても、それなり以上に知っている様なのです。
それなりに長い経験を積んでいる高位冒険者なら、ある程度は納得するのです。でもフォルティは、まだまだ初心者で経験を積まなければならないようなことを、自分で言っていたのです。実際冒険者ランクもEから始めた様ですし、迷宮も第一階層から順番通りやっているのです」
確かにその通りだ。
我ながら弁解の余地はない。
「そしてファルマさんとの話の件もあるのです。あの話では、意味が不明な言葉が幾つか出たのです。げえむとからべるとか、連続くえすととか。
そしてファルマさんの名前は知っていたけれど、ファルマさんの正体までは知らなかった様なのです。それでも共通する何か、おそらく一般的な知識では無い何かを、お互いに前提として知っていたとしか思えないのです」
これまたその通りだ。
ただアンジェの言葉は、更に続く。
「フォルティが望まない、あるいは隠すべき理由があるのなら、別に明らかにする必要は無いのです。そこまで明らかにしろとは、私は言えないし言わないのです。ただ私は不思議だなと思うし、何かあるのではないかと感じるのです。
それでもフォルティのことは信じられるし、信じた方が利益になるのは確かなのです。そもそもフォルティに助けられなければ、魔物に襲われて終わりだったのです。
ただ、やっぱり気になるのは確かなのです。だから今後もきっと疑問を抱えつつも、どうぞよろしくというところなのです」
なんだそれは!
そう言いたい。
けれど、でもこれはアンジュなりの本音であり、気遣いなのかもしれないと思う。
言いたくなかったら、何も言わないでいいよという意味も含めて。
ちょうどいい機会だから、今のうちに言っておいた方がいいと判断して。
なら……
「ありがとう。それでは今後ともよろしく」
あえて余計な事を言わないで、これだけで。
「了解なのです。こちらこそ、よろしくなのです。ということで、豪勢な料理を、思い切りよくいただくとするのです。私のお祝いということなので、遠慮せずいただくのです」




