第34話 クエスト
「一般回復薬、一般魔力回復薬、毒消し薬、気付け薬。あとは戦闘用として一般爆薬、煙幕、粘着剤ってところだね。薬草の種類や取り扱いについては、ほぼ完璧にわかっていたから教える必要は無かった。それに飲み込みも早い。おかげでいわゆる一般薬品以外についても、そこそこ教えられた。これで戦闘だろうと回復だろうと、それなりに役に立つ筈だよ。もちろん今後も研鑽は必要だけれどね」
この言葉も、『薬品作りマスタークエスト』で、結果が『良い』の場合のメッセージとほぼ同じだ。
クエストでは、集めた薬草の処理具合やその後の小テストで、良い、普通、悪いの3パターンがある。
結果が良ければ戦闘用に使える3種の薬品を作れる様になるし、普通なら戦闘用以外を作れる様になる。
悪ければ、一般回復薬と一般魔力回復薬のところが、初級回復薬と初級魔力回復薬となり、他の薬品の製造法は覚えられない。
やっぱりアンジェ、掘り出し物だった様だ。
そう思ったところで。
「ところでこのパーティは、今後どうするんだい? そこの迷宮に長居して稼ぐという感じじゃなさそうに見えるけれど、私の気のせいかい?」
このメッセージ、いや言葉は、俺は知らない。
クエストなら、さっきの結果のお知らせで終わりの筈だ。
どう答えようか、それともクリスに任せるか。
そう思ったところで、ファルマさんが俺の方を見る。
「この質問はお嬢ちゃんたちではなく、そちらの少年に聞いた方が良さそうだね。ついでに質問も、もう少し具体的に聞くよ。カリミナス迷宮の後、次は何処へ行くつもりだい? 街の名前でもそれ以外の名前でも構わないから、良ければ聞かせてくれ」
こんな問答、攻略Webには無かった。
しかしこれが『パルティカ』なら、明らかに何かフラグが発生する会話だ。
クエストか、アイテム獲得か、それ以外かはわからないけれど。
正直に答えた方がいいだろう。
そう判断して、俺は口を開く。
「トリギアにある、レスアノル迷宮へ向かうつもりです」
「ここ好みの答だね。レスアノル迷宮に行く目的は、アンジェを錬金術師にするためかい?」
これも正直に答えておくべきだろう。
「その通りです」
「ならアンジェが錬金術師になったら、次は何処を目指すんだい? 理由も一緒に教えてくれると助かるね」
何が目的なのだろう。
そう思いつつも、問題は無いだろうと判断して答える。
「テオトゥラ中央学園へ入学するつもりです。理由は、ここから行ける範囲で、もっとも知識が得られる場所だからです」
「アンジェを錬金術師にするのは、一緒にテオトゥラ中央学園に編入するためかい?」
「そうです」
「その後、テオトゥラ正教で成り上がろうとか、そういうことは考えているかい?」
「考えていません。テオトゥラ中央学園を目指すのは、あくまであそこが知識、俺の場合は魔法の知識を身につけるのに最適だと判断したからです」
「最後に一つ。御礼のこれを買った店を選んだのは、少年だね」
この質問は、危険だ。
彼女の好みの店を知っていたのは俺だと、特定することになるから。
嘘でごまかすか、それとも彼女を信じるか。
俺の人生経験では判断出来ない。
けれど、ゲームのキャラクターであるフォルティなら、選ぶのは……
「ええ、そうです。店もそのセットも、俺が選びました」
「ありがとうよ、正直に答えてくれて。それならアンジェを預けても安心だね。あと、ついでにお願いごとを一つ、いいかい?」
このパターンは、『パルティカ』なら間違いなくクエストだ。
しかしこの『薬品作りマスタークエスト』に、こうして別のクエストが発生するという情報は、攻略Webにはなかった。
ただこの世界は、ゲームではない。
だからクエストにない案件が発生しても、不思議ではないのだけれど……
「出来ることでしたら」
「たいしたことじゃないさ。トリギアに行ったら、薬屋をやっているメディカにこの手紙を渡して欲しいんだ。なお手紙を渡す時は、必ずアンジェも一緒に連れて行くこと。薬屋の場所やアンジェを連れて行く理由は、少年ならわかるだろう。以上さ」
ちょっと待ってほしい。
トリギアで薬屋をやっているメディカという人を、俺は知っている。
この世界でではなく、『パルティカ』に登場する人物として。
これは、聞いてみた方がいい。
ただ俺ではなくフォルティなら、どう聞くだろう。
そういえば、まだ名前を聞いていなかったなと思い出す。
ならば……
「俺は、フォルティといいます。もし貴方がファルマさん、もしくはファルマさんという役割を担っているなら、お尋ねします。貴方は、何者ですか?」
「やっぱりその名前を知っていたね、少年」
しまった、あえて名前を名乗っていなかったのかは、俺からその名前を出させるためだったか。
しかい今、ファルマという名前を出したことで、何かが進んだ気がする。
ゲームなら、クエスト進行のフラグが立ったような感覚がある。
「とりあえず今の少年、いやフォルティは、私たちの敵じゃなさそうだ。ならフォルティ以外にも説得力が出るように、ちょっとだけ正体を明かしておこうか」
その言葉が終わると同時に、そこそこ強力な魔力がささっと動いた。
範囲にかかる魔法を発動したようだが、何の魔法なのかは俺のレベルではわからない。
「これは守秘魔法の一種だね。この店の外からは、どんな魔法を使っても中の様子は見えないし、音も聞こえない。まあエルフ独自の魔法だから、人間は覚えられませんけれど」
そう言ったファルマさんの姿が、明らかに変化している。
青銀色と言えばいいのだろうか、青色で光沢がある長い髪の、クリスと同じくらいの外見年齢の女性に。
なお両耳の上側が、長く細く尖っている。
これは、間違いない。
「ファルマさん、エルフだったのですか?」
俺ではなく、アンジェが尋ねた。
「ええ。この姿の時の名前は、リリンレイムラスレナイラール・ハルドゥンナイラ・カラドリンとなります。ですがエルフ以外には覚えにくいと思いますので、ファルマで結構です」
姿とともに、口調まで変わっている。
ちょっと待って欲しい。
こんな設定、『パルティカ』になかった筈だ。
俺は幾つかの攻略Webを見ているが、何処にもそんなこと書いてなかった。
そもそもエルフという種族は、『パルティカ』にはほとんど出てこない。
深い森の中に独自の集落を作って、そこで生活しているらしい。
そんな情報がある程度だ。
クエストに関わるなんて情報も、読んだ記憶はない。
そんな、ここで会うとは思わなかったエルフの彼女は、アンジェの方から俺の方へと向き直り、口を開いた。
「今はまだ、謎解きの時間ではありません。話さないのは出し惜しんでいるわけではなく、まだ話すべき段階ではないからです。いずれその時が来て、明かしてもいいと判断出来た際には、私達の誰かが全てを教えることでしょう。
現時点でフォルティたちがやるべきことは、レベルと適性を上げる作業です。準備が出来て、メディカのところを訪れたならば、また次の話が待っていることでしょう。貴方が知っている、ゲームの連続クエストの様に、ということで……」
おい! 今、レベルとか適性とか、ゲームとか言っただろう!
そう思ったところで、長くて覚えられない彼女の姿がふっと変わる。
小柄な中年女性、ファルマさんの姿に。
「説明の時間は終わりだよ。あとはメディカに聞きな。ここにいる間は今まで通り、薬草の買取と必要な物品の販売はするがね。個人的には、第四階層から第九階層までで採れる薬草を持ってきてくれると助かる。あの辺は、滅多に納入してくれる人がいないからね……」




